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第三十三話 可哀想なダリア
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「………………………………は?」
気の抜けたアリシアの返事に、ロイは仰け反りながら笑い声を上げる。
「あまりの俺の優しさに、驚きすぎて言葉もないか! まあ……妻としては無理だが、愛人か側室としてなら迎え入れてやらなくもない、と思ったのだ。お前は見目だけは良いし、魔力もそこそこあるから、侍らせておくのは最適だろう? お前がいない間、雑務が溜まっているのだ」
後ろから顔を出したクロエが、扇で口元を隠しながらクスクスと笑う。
「ロイさまの温情に感謝して、潔く戻ってくることね。あなたがいないと、ロイさまの執務が回らないのよ。忙しい私には、あんな雑用をする時間はないわ。あなたは無能だけど、雑務をこなす才能だけはあったようだから……お似合いの仕事でしょ?」
──自分から婚約破棄しておきながら、「戻ってこい」ですって……!?
あまりの図々しさに言葉を発せずにいると、後ろで壁に磔になっているダリアが叫ぶ。
「ちょっと……ちょっと待ってよ、ロイさま! お姉さまが側室になるんじゃ、アタシはどうなるの……!?」
王子は複数の妻を持って良いことになっているが、一つの家名からは一人という決まりだ。たとえ側室だとしても、アリシアかダリアのどちらか一人しか迎え入れられないことになる。
ロイはダリアの方を向きもせず、不快そうに目を細めて言った。
「猫撫で声で名前を呼ぶな、気色が悪い。お前は実家にでも帰れば良かろう。ハレ巫女の力が欲しくて婚約はしたが、力が弱すぎて話にならん。あんな短時間のハレでは、巫女巡業でも余興にならないと聞いている。役に立たなければ、お前のような猫女……側に置いておく意味もない」
「そんな……嘘でしょ? 役立たずのお姉さまを選んで、こんなにかわいいアタシを捨てるというの……!?」
その言葉に、クロエが憐れみの表情を浮かべて告げる。
「自己評価の高さだけは尊敬するけど……ほんっとうに何の役にも立たなかったわ。わたしの代わりに行ってくれるって聞いてた巫女巡業も駄目、雑務も駄目、おまけにそのファッションセンス! 隣に並ぶのが恥ずかしくなっちゃう。姉妹二人で仲良く婚約破棄されて……フフッ、滑稽なことね」
「クロエ……あなた……!!」
ダリアが怒りに肩を振るわせていると、周囲からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「やっぱりな。あいつ婚約破棄だってよ」
「何をする訳でもなく、ウロチョロと王子に付き纏うだけだったものね。周りの人には横柄で、王子の前だけでは猫を被って……」
「巫女巡業、見たか? あまりのハレの短さと効果のなさに、見た人全員が逆に呆気に取られるって噂だぞ」
周りを取り囲む視線に、ダリアは顔が燃えるように熱くなるのを感じる。
──何よ、何よ、何よ! アナタたちの方が無能じゃない! 何も分かってないクセに、勝手なことばかり言って!
歯を食いしばりながら睨みつけた先には、悲しげに視線を向ける姉の姿があった。
笑うでも、嘲るでもなく、まるで……心底心配しているとでもいうような。その視線に、一層はらわたが煮え繰り返る。
──元はと言えば、全部お姉さまのせいよ。婚約破棄されたのも……お姉さまみたいに、こうやって笑われているのも!!
最初に出会った日から、お姉さまが憎くて仕方がなかった。アタシにないものを全部持っているから。
能力も、美貌も、富も、教養も、お父さまからの愛も。
美しい服に、手入れされた髪。そして美しい所作のお辞儀。育ちの違いを見せつけられたようで、嫉妬の炎に灼かれたわ。
下町で隠すように育てられたアタシは、ボロ布のような服にボサボサの髪で、力もなくて……。母親だって遊んでばかりで、ろくに愛された記憶も無い。同じお父さまから生まれたはずなのに、どうしてこうも違うの?
それなのにアイツ……母親が死んだくらいで「悲劇のヒロインです」みたいに悲しんで……。自分が恵まれていることに気が付かないから……アタシが、ぜーんぶ奪ってやった!
ハレ巫女の力も、母親の形見の宝石も、婚約者もお父さまも。どんどん昔のアタシみたいに「可哀想」になっていくお姉さまを見ていると、自分が強くなったようで安心したわ。
最後に夢見ていた「お姫さま」になれれば、完全に完璧に、お姉さまに勝てたのに……。
「何なのよ、これ……」
もう二度と会わないと思っていたのに、誰よりも綺麗になって、目の前に現れて。隣には絵本の王子様みたいなイケメンの夫もいて、仲良さそうにしちゃって……。
それでアタシを、「憐れむ」ですって……!?
「何よ、お姉さま!! もっと笑いなさいよ! 憎いアタシがこんな目にあって、うれしくて仕方がないでしょう!? 周りと一緒になって、石を投げつければいいじゃない……アタシがそうしたように!!」
それでもアリシアは、静かに首を振った。
「全部全部……お姉さまのせいだ。──お姉さまのせいなんだ!!」
アタシがいつまでも「可哀想」なのも、いつまでも生まれのせいで満たされないのも!!!
ダリアは全身の魔力をかき集め、手のひらを握りしめた。髪は逆立ち、顔は茹でダコのように真っ赤に変わり、ブルブルと震え出す。
小さく呟いた呪文と共に火の玉がいくつか出現し、レイモンドが作り出した氷の杭を少しずつ溶かしていった。やがて杭が溶け落ちて壁から解放されたダリアは、雄叫びを上げながら、炎を纏った拳でアリシアに殴りかかる。
「全部全部、燃えてしまえ!!!」
気の抜けたアリシアの返事に、ロイは仰け反りながら笑い声を上げる。
「あまりの俺の優しさに、驚きすぎて言葉もないか! まあ……妻としては無理だが、愛人か側室としてなら迎え入れてやらなくもない、と思ったのだ。お前は見目だけは良いし、魔力もそこそこあるから、侍らせておくのは最適だろう? お前がいない間、雑務が溜まっているのだ」
後ろから顔を出したクロエが、扇で口元を隠しながらクスクスと笑う。
「ロイさまの温情に感謝して、潔く戻ってくることね。あなたがいないと、ロイさまの執務が回らないのよ。忙しい私には、あんな雑用をする時間はないわ。あなたは無能だけど、雑務をこなす才能だけはあったようだから……お似合いの仕事でしょ?」
──自分から婚約破棄しておきながら、「戻ってこい」ですって……!?
あまりの図々しさに言葉を発せずにいると、後ろで壁に磔になっているダリアが叫ぶ。
「ちょっと……ちょっと待ってよ、ロイさま! お姉さまが側室になるんじゃ、アタシはどうなるの……!?」
王子は複数の妻を持って良いことになっているが、一つの家名からは一人という決まりだ。たとえ側室だとしても、アリシアかダリアのどちらか一人しか迎え入れられないことになる。
ロイはダリアの方を向きもせず、不快そうに目を細めて言った。
「猫撫で声で名前を呼ぶな、気色が悪い。お前は実家にでも帰れば良かろう。ハレ巫女の力が欲しくて婚約はしたが、力が弱すぎて話にならん。あんな短時間のハレでは、巫女巡業でも余興にならないと聞いている。役に立たなければ、お前のような猫女……側に置いておく意味もない」
「そんな……嘘でしょ? 役立たずのお姉さまを選んで、こんなにかわいいアタシを捨てるというの……!?」
その言葉に、クロエが憐れみの表情を浮かべて告げる。
「自己評価の高さだけは尊敬するけど……ほんっとうに何の役にも立たなかったわ。わたしの代わりに行ってくれるって聞いてた巫女巡業も駄目、雑務も駄目、おまけにそのファッションセンス! 隣に並ぶのが恥ずかしくなっちゃう。姉妹二人で仲良く婚約破棄されて……フフッ、滑稽なことね」
「クロエ……あなた……!!」
ダリアが怒りに肩を振るわせていると、周囲からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「やっぱりな。あいつ婚約破棄だってよ」
「何をする訳でもなく、ウロチョロと王子に付き纏うだけだったものね。周りの人には横柄で、王子の前だけでは猫を被って……」
「巫女巡業、見たか? あまりのハレの短さと効果のなさに、見た人全員が逆に呆気に取られるって噂だぞ」
周りを取り囲む視線に、ダリアは顔が燃えるように熱くなるのを感じる。
──何よ、何よ、何よ! アナタたちの方が無能じゃない! 何も分かってないクセに、勝手なことばかり言って!
歯を食いしばりながら睨みつけた先には、悲しげに視線を向ける姉の姿があった。
笑うでも、嘲るでもなく、まるで……心底心配しているとでもいうような。その視線に、一層はらわたが煮え繰り返る。
──元はと言えば、全部お姉さまのせいよ。婚約破棄されたのも……お姉さまみたいに、こうやって笑われているのも!!
最初に出会った日から、お姉さまが憎くて仕方がなかった。アタシにないものを全部持っているから。
能力も、美貌も、富も、教養も、お父さまからの愛も。
美しい服に、手入れされた髪。そして美しい所作のお辞儀。育ちの違いを見せつけられたようで、嫉妬の炎に灼かれたわ。
下町で隠すように育てられたアタシは、ボロ布のような服にボサボサの髪で、力もなくて……。母親だって遊んでばかりで、ろくに愛された記憶も無い。同じお父さまから生まれたはずなのに、どうしてこうも違うの?
それなのにアイツ……母親が死んだくらいで「悲劇のヒロインです」みたいに悲しんで……。自分が恵まれていることに気が付かないから……アタシが、ぜーんぶ奪ってやった!
ハレ巫女の力も、母親の形見の宝石も、婚約者もお父さまも。どんどん昔のアタシみたいに「可哀想」になっていくお姉さまを見ていると、自分が強くなったようで安心したわ。
最後に夢見ていた「お姫さま」になれれば、完全に完璧に、お姉さまに勝てたのに……。
「何なのよ、これ……」
もう二度と会わないと思っていたのに、誰よりも綺麗になって、目の前に現れて。隣には絵本の王子様みたいなイケメンの夫もいて、仲良さそうにしちゃって……。
それでアタシを、「憐れむ」ですって……!?
「何よ、お姉さま!! もっと笑いなさいよ! 憎いアタシがこんな目にあって、うれしくて仕方がないでしょう!? 周りと一緒になって、石を投げつければいいじゃない……アタシがそうしたように!!」
それでもアリシアは、静かに首を振った。
「全部全部……お姉さまのせいだ。──お姉さまのせいなんだ!!」
アタシがいつまでも「可哀想」なのも、いつまでも生まれのせいで満たされないのも!!!
ダリアは全身の魔力をかき集め、手のひらを握りしめた。髪は逆立ち、顔は茹でダコのように真っ赤に変わり、ブルブルと震え出す。
小さく呟いた呪文と共に火の玉がいくつか出現し、レイモンドが作り出した氷の杭を少しずつ溶かしていった。やがて杭が溶け落ちて壁から解放されたダリアは、雄叫びを上げながら、炎を纏った拳でアリシアに殴りかかる。
「全部全部、燃えてしまえ!!!」
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