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第一章 幼少期編
おまけ② 神の年越し
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「あ~~、やっぱり年越しは蕎麦に限るわね~」
神がズズッと音を立てながら、こたつで蕎麦を啜る。
黒い漆器のお椀の中には、大きなえび天とかき揚げが乗せられ、白い湯気が立ち上っている。
神の横には薄紫色のテディベアが座っており、小さなお椀によそられた蕎麦にフーフーと必死で息を吹きかけている。
「パンジー、見た目ほど熱くないから大丈夫よ」
神が湯気で曇った眼鏡を拭きながらそう言うと、パンジーと呼ばれたテディベアは箸をこわごわ口に運んだ。しかし恐ろしく猫舌だったようで、両手をバタつかせてひとしきり悶えた後、涙目で神をぽかぽかと殴る。
「いたいいたい!それは八つ当たりよ!」
そう言いながら缶チューハイをあおる神は、白いセーターに赤い半纏を羽織っている。暖かさ重視でモコモコに着膨れているため、引き締まった美しいスタイルが台無しだ。虹色に輝く白い髪は、紫色のシュシュで無造作に括られている。
こたつの上には、お盆に盛られたみかんと大きめのタブレットが置かれている。どこかの家の映像が俯瞰で映っているが、夜のようで窓から漏れる灯り以外は真っ暗だ。
ピンポーンとチャイムのような音が鳴る。
「はーい!……やだ、もう届いたのかしら!」と声を上げると、神はスリッパを履いてパタパタとかけて行った。
ほくほくの顔で戻ってきた神の手には、小さな段ボールが抱えられている。鼻歌を歌いながら箱を開けると、中にはTシャツとアクリルキーホルダーが入っていた。
「うふ、このTシャツを着た私を見たら、リラちゃんどんな顔をするかしら!楽しみすぎるわ!」
紫色のTシャツには、リラの姿と「神推し!」という文字が印刷されている。神が夜な夜なデザインして注文した、自作のオリジナルグッズだ。
「今は素人でもこういうグッズが作れるから便利よね~、著作権とか肖像権とかには気をつけないといけないけれど……。まあ、リラちゃんも大きく言えば私の著作物だし……」
とかなんとか言いながら、神はアクキーを慣れた手つきで「祭壇」に吊るす。推しを祀った祭壇には、ありとあらゆる服装のリラたちのアクリルスタンドや、クリアファイルなどが飾られている。
一通りグッズを整えると、神は祭壇に向かって柏手を打った。
「来年もリラちゃんたちにとって、幸多き一年となりますように!……と、誰に祈ってるのかしら、私」
神は私だったわ~!と笑った後、真面目な顔でもう一度手を合わせる。
──私のかわいい子供たち……あの世界の全ての人々が、幸せになれますように。私は見守ることしか出来ないから……。
神は目を閉じながら、今年一年のリラの活躍を思い出す。息をするように周りの人々を救っていくリラは、神にとってもまさしく「聖女」に見えた。
「さすが私の最推しよね」
神はポスターのリラの頬に、軽くキスをする。きっと今頃祝福が送られ、明日リラが起きた時には枕元がピンクの砂糖菓子だらけになっているだろう。困惑するリラの姿を想像し、神は微笑んだ。
遠くで除夜の鐘が鳴る音がする。「年越しの瞬間、ジャンプしようかしら!?」とはしゃぎながら、神はパンジーを抱き上げた。
壁際のレトロなアナログテレビが、午前0時を告げた。
「ハッピーニューイヤー!」
神がズズッと音を立てながら、こたつで蕎麦を啜る。
黒い漆器のお椀の中には、大きなえび天とかき揚げが乗せられ、白い湯気が立ち上っている。
神の横には薄紫色のテディベアが座っており、小さなお椀によそられた蕎麦にフーフーと必死で息を吹きかけている。
「パンジー、見た目ほど熱くないから大丈夫よ」
神が湯気で曇った眼鏡を拭きながらそう言うと、パンジーと呼ばれたテディベアは箸をこわごわ口に運んだ。しかし恐ろしく猫舌だったようで、両手をバタつかせてひとしきり悶えた後、涙目で神をぽかぽかと殴る。
「いたいいたい!それは八つ当たりよ!」
そう言いながら缶チューハイをあおる神は、白いセーターに赤い半纏を羽織っている。暖かさ重視でモコモコに着膨れているため、引き締まった美しいスタイルが台無しだ。虹色に輝く白い髪は、紫色のシュシュで無造作に括られている。
こたつの上には、お盆に盛られたみかんと大きめのタブレットが置かれている。どこかの家の映像が俯瞰で映っているが、夜のようで窓から漏れる灯り以外は真っ暗だ。
ピンポーンとチャイムのような音が鳴る。
「はーい!……やだ、もう届いたのかしら!」と声を上げると、神はスリッパを履いてパタパタとかけて行った。
ほくほくの顔で戻ってきた神の手には、小さな段ボールが抱えられている。鼻歌を歌いながら箱を開けると、中にはTシャツとアクリルキーホルダーが入っていた。
「うふ、このTシャツを着た私を見たら、リラちゃんどんな顔をするかしら!楽しみすぎるわ!」
紫色のTシャツには、リラの姿と「神推し!」という文字が印刷されている。神が夜な夜なデザインして注文した、自作のオリジナルグッズだ。
「今は素人でもこういうグッズが作れるから便利よね~、著作権とか肖像権とかには気をつけないといけないけれど……。まあ、リラちゃんも大きく言えば私の著作物だし……」
とかなんとか言いながら、神はアクキーを慣れた手つきで「祭壇」に吊るす。推しを祀った祭壇には、ありとあらゆる服装のリラたちのアクリルスタンドや、クリアファイルなどが飾られている。
一通りグッズを整えると、神は祭壇に向かって柏手を打った。
「来年もリラちゃんたちにとって、幸多き一年となりますように!……と、誰に祈ってるのかしら、私」
神は私だったわ~!と笑った後、真面目な顔でもう一度手を合わせる。
──私のかわいい子供たち……あの世界の全ての人々が、幸せになれますように。私は見守ることしか出来ないから……。
神は目を閉じながら、今年一年のリラの活躍を思い出す。息をするように周りの人々を救っていくリラは、神にとってもまさしく「聖女」に見えた。
「さすが私の最推しよね」
神はポスターのリラの頬に、軽くキスをする。きっと今頃祝福が送られ、明日リラが起きた時には枕元がピンクの砂糖菓子だらけになっているだろう。困惑するリラの姿を想像し、神は微笑んだ。
遠くで除夜の鐘が鳴る音がする。「年越しの瞬間、ジャンプしようかしら!?」とはしゃぎながら、神はパンジーを抱き上げた。
壁際のレトロなアナログテレビが、午前0時を告げた。
「ハッピーニューイヤー!」
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