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閑話集~これまでとそれからと~
四巻発売記念閑話 竜人たちの昔話 後編
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眼下の集落からかすかに聞こえてくる祭りの音と人々の祈りの声。
その勢いが増すにつれ、どんどん光を帯びていく黒竜の体を我はしばし唖然として見つめていた。
「ああっ、お姉様。やっぱり間違いなかったわ」
すると突然黒竜がその長い体を突然うねらせ、恍惚とした声をあげたのである。
「何が間違ってなかったのですか?」
「今私の体に、あの人間族から沢山の力が流れ込んできてるのっ」
我の問いかけに黒竜は短い手の先を眼下の集落に向けて言う。
「それってまさか……さっき言ってた」
「そうよ。時々私たちに流れ込んでくるあの妙な力っ。それが何倍も、何十倍も、何百倍も強くっ」
今まで僅かばかりに感じていた地上の者どもから時折流れ込んでくるかすかな力。
どうやらそれが祭りという形になり、確実な方向性と纏まりを得たことで一つの大きな力となって黒竜に注ぎ込まれている。
そのことを確信したのはそれから幾度か同じように外界の者の手助けを竜人たちが試すようになってからであった。
黒竜から話を聞いた竜人たちにとって最初はただの興味本位だった。
何も変わらぬ日々を過ごすのに飽きたわけでは無かったが、かといって全てのことに興味を示さないほど竜人族はまだ老いては居なかったようだ。
その結果、人間族だけで無く地上のあらゆる生き物が我らを敬い祈りを捧げることで我らの中に力が貯まっていくことを知った。
知ってしまった。
今思えばそれは麻薬のようなものだったのかもしれない。
どんなことにも殆ど興味を示すことが無かった竜人たちが『人助け』にあれほど熱中したのは異常なことだったからだ。
人助けをし、敬われるという経験。
その見返りに得る無限とも思える力は、無気力だった我らをさらなる高みへ連れて行ってくれると思わせた。
そしてその先には神の世界があると誰かが言った。
黒竜だろうか?
白竜だろうか?
緑竜だろうか?
――我――青竜だったかもしれない。
だが、そんな人助けという快楽に溺れた生活は長くは続かなかった。
まず最初にそのことに気がついたのは我の姉である白竜だった。
白竜は竜族の中でも力が弱く、だからこそ気がついたのかもしれない。
自らの体の中に流れ込む力がどんどん多くなるにつれ、自らを制することが出来なくなってきている。
そう言って白竜は「この地に居ては狂ってしまう! 皆、離れた方が良い」と訴えた。
だが麻薬のような快楽に溺れてしまっていた竜人たちは誰もその話を聞かなかった。
それでも白竜は訴え続けたが、やがて「これ以上はもう持たない……」と西へこの地を去って行った。
我と赤竜、そして他の竜人たちはそんな白竜を弱き者の泣き言だと切って捨てた。
結果あの悲劇が起こる。
力の暴走――
大量の願いの力が注ぎ込まれた竜人の一人がついに限界を超え暴走し、人々を襲い始めたのである。
驚いた我々はその竜人を止めるため動いた。
そしてそれを見た人々は願った――願ってしまった。
強大な力に襲われ逃げ惑う人々の願い、それは我々他の竜人に暴走した竜人を倒してほしいという強い願い。
願いは力となる。
それが沢山の人々のものであり、同じ一つの願いであればあるほど強く、強くなる。
そして我々竜人族は膨大な『願いの力』に飲み込まれお互いを殺し合い、そして――
「逃げなさい妹たちっ! その場所から早く!」
あの日別れた姉の声が聞こえた気がして。
暴走しかけていた我の意識はその声に導かれるままにからだを動かした。
――強い衝撃。
次に我が自我を取り戻したのは、巨大な大陸に長大な渓谷を生み出してしまった後だった。
やがて我はその地で姉である白竜と再会し、妹である黒竜の悲惨な現状を知ることになる。
だが、それはまた別の機会に話すとしよう。
* * * *
セーニャ様は話を終えるとゆっくりと目を閉じた。
「祈りの力は時に凶器となる。だがシアンよ。おぬしらは我らと違いその力を放出する術をすでに持っている」
「この神具ですね」
僕は手の中に『神具』を出現させた。
自らの魔力を変換することで様々な現象を生み出すことが出来るということは、つまり体内に魔力をためすぎないように調節できるということでもある。
「そうじゃ。我の姉が――白竜の願いが生み出したその力はお前たちだけで無く我らも――妹も救ってくれると信じておる」
ゆっくりと開かれたセーニャ様の瞳がまっすぐ僕を見つめた。
その瞳から僕への期待、希望が込められているのが伝わってくる。
「ええ、いつか、かならず」
あの日女神様から託された『願い』。
そして先代の聖杯使いたちの『思い』を受け継いで行かなきゃならない。
いつかその全てが成就する未来まで。
僕は進み続けよう。
その先には僕の大切な人たちが笑って暮らせる世界がきっと待っているのだから。
============後編あとがき============
時間軸的には書籍版四巻のかなり後半あたりですね。
セーニャの元に領地への助力を求めに行ったシアンがセーニャの過去を教えてもらっているシーンです。
そして本編では匂わす程度しか出せなかった三人の関係と正体がさらりと。
このあたりの話は本来なら続刊で語る予定でした。
といってもまだまだこの三人については語る分量は多いので後の閑話をお待ち下さい。
もしかすると詳しい話はコミカライズ版でできるかもしれませんね。
12月に出るコミカライズ2巻発売記念ではどのエピソードが語られるのか、お楽しみに!
その勢いが増すにつれ、どんどん光を帯びていく黒竜の体を我はしばし唖然として見つめていた。
「ああっ、お姉様。やっぱり間違いなかったわ」
すると突然黒竜がその長い体を突然うねらせ、恍惚とした声をあげたのである。
「何が間違ってなかったのですか?」
「今私の体に、あの人間族から沢山の力が流れ込んできてるのっ」
我の問いかけに黒竜は短い手の先を眼下の集落に向けて言う。
「それってまさか……さっき言ってた」
「そうよ。時々私たちに流れ込んでくるあの妙な力っ。それが何倍も、何十倍も、何百倍も強くっ」
今まで僅かばかりに感じていた地上の者どもから時折流れ込んでくるかすかな力。
どうやらそれが祭りという形になり、確実な方向性と纏まりを得たことで一つの大きな力となって黒竜に注ぎ込まれている。
そのことを確信したのはそれから幾度か同じように外界の者の手助けを竜人たちが試すようになってからであった。
黒竜から話を聞いた竜人たちにとって最初はただの興味本位だった。
何も変わらぬ日々を過ごすのに飽きたわけでは無かったが、かといって全てのことに興味を示さないほど竜人族はまだ老いては居なかったようだ。
その結果、人間族だけで無く地上のあらゆる生き物が我らを敬い祈りを捧げることで我らの中に力が貯まっていくことを知った。
知ってしまった。
今思えばそれは麻薬のようなものだったのかもしれない。
どんなことにも殆ど興味を示すことが無かった竜人たちが『人助け』にあれほど熱中したのは異常なことだったからだ。
人助けをし、敬われるという経験。
その見返りに得る無限とも思える力は、無気力だった我らをさらなる高みへ連れて行ってくれると思わせた。
そしてその先には神の世界があると誰かが言った。
黒竜だろうか?
白竜だろうか?
緑竜だろうか?
――我――青竜だったかもしれない。
だが、そんな人助けという快楽に溺れた生活は長くは続かなかった。
まず最初にそのことに気がついたのは我の姉である白竜だった。
白竜は竜族の中でも力が弱く、だからこそ気がついたのかもしれない。
自らの体の中に流れ込む力がどんどん多くなるにつれ、自らを制することが出来なくなってきている。
そう言って白竜は「この地に居ては狂ってしまう! 皆、離れた方が良い」と訴えた。
だが麻薬のような快楽に溺れてしまっていた竜人たちは誰もその話を聞かなかった。
それでも白竜は訴え続けたが、やがて「これ以上はもう持たない……」と西へこの地を去って行った。
我と赤竜、そして他の竜人たちはそんな白竜を弱き者の泣き言だと切って捨てた。
結果あの悲劇が起こる。
力の暴走――
大量の願いの力が注ぎ込まれた竜人の一人がついに限界を超え暴走し、人々を襲い始めたのである。
驚いた我々はその竜人を止めるため動いた。
そしてそれを見た人々は願った――願ってしまった。
強大な力に襲われ逃げ惑う人々の願い、それは我々他の竜人に暴走した竜人を倒してほしいという強い願い。
願いは力となる。
それが沢山の人々のものであり、同じ一つの願いであればあるほど強く、強くなる。
そして我々竜人族は膨大な『願いの力』に飲み込まれお互いを殺し合い、そして――
「逃げなさい妹たちっ! その場所から早く!」
あの日別れた姉の声が聞こえた気がして。
暴走しかけていた我の意識はその声に導かれるままにからだを動かした。
――強い衝撃。
次に我が自我を取り戻したのは、巨大な大陸に長大な渓谷を生み出してしまった後だった。
やがて我はその地で姉である白竜と再会し、妹である黒竜の悲惨な現状を知ることになる。
だが、それはまた別の機会に話すとしよう。
* * * *
セーニャ様は話を終えるとゆっくりと目を閉じた。
「祈りの力は時に凶器となる。だがシアンよ。おぬしらは我らと違いその力を放出する術をすでに持っている」
「この神具ですね」
僕は手の中に『神具』を出現させた。
自らの魔力を変換することで様々な現象を生み出すことが出来るということは、つまり体内に魔力をためすぎないように調節できるということでもある。
「そうじゃ。我の姉が――白竜の願いが生み出したその力はお前たちだけで無く我らも――妹も救ってくれると信じておる」
ゆっくりと開かれたセーニャ様の瞳がまっすぐ僕を見つめた。
その瞳から僕への期待、希望が込められているのが伝わってくる。
「ええ、いつか、かならず」
あの日女神様から託された『願い』。
そして先代の聖杯使いたちの『思い』を受け継いで行かなきゃならない。
いつかその全てが成就する未来まで。
僕は進み続けよう。
その先には僕の大切な人たちが笑って暮らせる世界がきっと待っているのだから。
============後編あとがき============
時間軸的には書籍版四巻のかなり後半あたりですね。
セーニャの元に領地への助力を求めに行ったシアンがセーニャの過去を教えてもらっているシーンです。
そして本編では匂わす程度しか出せなかった三人の関係と正体がさらりと。
このあたりの話は本来なら続刊で語る予定でした。
といってもまだまだこの三人については語る分量は多いので後の閑話をお待ち下さい。
もしかすると詳しい話はコミカライズ版でできるかもしれませんね。
12月に出るコミカライズ2巻発売記念ではどのエピソードが語られるのか、お楽しみに!
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