聖女認定を剥奪されたら本当の幸せを掴むことが出来ました

長尾 隆生

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「お久しぶりですレオン先生」

 テントの中から血で汚れた白衣を纏ったレオン先生が出てくると、私を見つけ嬉しそうに声を掛けてくれました。
 それほど長い間会わなかった訳ではありませんが、元々白髪の多かったレオン先生の頭は、よほど苦労なされたのか今は真っ白になっています。
 それもこれも私なんかを聖女に推薦したばかりに。

「先生、私のせいで先生まで巻き込まれて……」

 謝ろうと口を開いた私に、先生の制止の声が掛かります。

「やめなさいリアリス。貴方のせいなどではありません」
「ですが」
「むしろ僕の方が貴方に謝らねばならない。なりたくもない聖女の職を、僕のせいで無理矢理やらせることになってすまなかった。それどころかあの辺境の地へ送られることになるなんて。大丈夫だったかい?」

 レオン先生が私の顔を見つめながら心配そうに問いかけてきます。
 私は先生に満面の笑みを浮かべて「ええ、大変なことはありませんでした。むしろそのおかげで私は聖女の力を強くすることが出来たのですから」と答えました。
 その言葉を聞いたレオン先生は一度、ほっとした表情の後、私の言葉の意味に気がついたのか目を見開き驚いたような、それでいて興味深げな表情を浮かべ、ゆっくりと口を開きます。

「まさか……僕のあの論文を、聖女の力の増幅法を君は」
「ええ、辺境の街を救い、そしてこの王都へくる途中でもできうる限り人々を救い、そして王都でもたくさんの人たちを『皆の目に見える形で』救いました」
「それであんなにも強い癒やしの力が使えるようになったというのか」

 レオン先生は少し体を震わせて、興奮を隠せないようでした。
 やはり彼は聖職者でありながらも探求者なのでしょう。
 お世話になったレオン先生の為に役に立てているという充実感を胸に私は言葉を続けます。

「はい、私がこの王都を追放される前の力は、先生ならご存じでしょう?」
「確かに。あの頃の君の力では、同時にこれほど多くの人たちの傷を癒やすことは不可能だったろう。ということはやはり僕の考えは正しかったということなのか」
「ええ、そういうことですわ」

 私はレオン先生の手を取って答えます。

「レオン先生。貴方はこれからこの国を救った英雄になってください」
「英雄?」
「ええ。私と共に、この国で戦える人たちに加護を与えて死霊の王を倒しましょう」

 レオン先生に貼られた異端者というレッテルを消し去り、彼を罠にはめた人たちを排除するためには私たちが彼らより上だと言うことを全ての人々に見せつけねばなりません。
 私はここまでの間、人々を救うために密かに癒やした人々に伝えてきた言葉があります。
 それは――

『私のこの力は、全て恩師であるレオン=エルデン様から頂いた力。そして人々を癒やすのは彼の願いなのです。私はその願いを叶えて回っているだけにすぎません』

 と。
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