無敵チートで悠々自適な異世界暮らし始めました

長尾 隆生

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第13話 冒険者やめます!

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 まさか無敵の体があだになるなんて。

 俺がこの世界に来て初めて味わった敗北の味。
 それは予想外の方向からのものだった。

「代わりに換金してきましたが、本当にわたくしが半額も貰って構わないのですか?」

 自分の体のことを思い出した俺は、試しにナイフで指先をついてみた。

 だけど予想通り指先に何か触れている様な感触は伝わって来たものの傷一つ付かず。
 それどころかナイフの先が少し曲がってしまった。

 幸い二人にナイフが曲がる所は見られていなかったが、これでは血を出すことも出来ない。

 なので受付のおばちゃんに「血じゃなきゃだめなんですか?」と尋ねてみたが。

「血液以外だと魔力紋にノイズが混じる場合があるので規則で血液以外は不可となってます」

 そう無下に言い捨てられてしまった。
 となると俺が取れる方法は冒険者になる事を諦めるしかない。

「構いませんよ。マーシュさんには散々世話になってますし、今回のことは俺の勝手な都合ですから」
「それにしても突然『やっぱり冒険者登録はしない』と言われた時は驚きましたよ。あれだけ良い考えがあると仰ってましたから」

 ううっ。
 それを言われると滅茶苦茶恥ずかしいからもう忘れて欲しい。

 まさか『別に本名を知られても構わないから』だったなんて言えないじゃないか。
 でも一度は言ってみたかったんだよ、あの台詞。

「あ、あれね。うん……直前になってやっぱり危険な橋はなるべくなら渡らない方が良いと思ったんですよ」

 俺は適当な言い訳を口にしてから

「それで問題なく買い取りとギルドへの報告は終わったんですね」
「はい。アンリ様の指示通り、彼らの遺族にも魔石の買取額の一部を渡すように頼んでおきました」

 冒険者になる事が出来なかった俺は、ギルドで魔石を売ることが出来なくなってしまった。
 なぜならギルドに魔石のような素材やお宝を売ることが出来るのは冒険者だけだからである。

 もちろんギルドを通さない別の売却方法もあるらしいのだが……。

「この品質の魔石をギルド以外で取引すればアンリ様が狙われる可能性があるんです」
「どういうことですか?」
「ギルドであれば出所を隠すことが出来る仕組みがあるのですが、他の所だとそうはいきません」

 冒険者ギルドには様々な冒険者が様々なものを手に入れて売りに来る。
 その中には途轍もない価値を持つものや表に出ると問題になる様なものも少なくないという。

 そういったものによって、かつては優秀な冒険者たちが暗殺者に襲われたり、権力者によって闇に葬られたり。
 盗賊などに襲われて、得た財産と命を奪われたりという事件が起こった。

「ですので今はそういったものを極秘に買い取るという仕組みがギルドにはあるのです」

 今回の魔石の場合。
 マーシュが言うには通常流通している魔石に比べ純度が遙かに高く。
 利用価値が途轍もなく高い品質のものだったらしい。

 つまりそんなものを守秘義務も何も無い所で売れば、町中に俺が大金を持っていることを知られる可能性が高い。

 というわけで今回は冒険者カードを持っているマーシュにギルドへの売却をお願いしたというわけである。

「とりあえず先にお金を渡しますから馬車の中へ入りましょう」
「ここだと人目につきますもんね」

 俺はマーシュと共に馬車の荷台に乗り込むと、床に腰を下ろした。

「ふぅ……商人を長年していますと高価な品を扱うことも何度かありましたが――」

 マーシュはそう言いながら俺に向かって手のひらを上にして両手を突き出す。

「見てくださいよ。いまだにこんなに震えてます」

 たしかに彼の手は小刻みにぶるぶると震えている。
 寒いのだろうか?

 無敵の俺はあまり温度の変化を感じない。
 たぶんマグマの中に飛び込んでも、極寒の雪山でも快適に過ごせる気がする。

「あそこまで高価なものは初めて扱いました」
「そんなにですか?」
「ええ。見てください」

 マーシュはそう言いながら懐からこぶし大の袋を二つ取り出して目の前に置いた。

 まさかこの小さな袋の中にお金が入っているのだろうか。

 五百円玉硬貨を一杯に詰め込んでも十万円は行かなさそうだけど、この世界の貨幣基準も硬貨の種類もまだよくわかっていないからもしかすると100万円硬貨みたいなのが一杯詰まっている可能性も捨てきれない。

「いいですか? 驚かずに聞いて下さいよ?」
「……」

 真剣なまなざしのマーシュに俺は頷いて応える。

「なんとあの魔石――」

 マーシュのタメが長い。

 うっすらと記憶の中に、何か答えを言う前に無茶苦茶タメる芸能人の顔が浮んできた。
 たしか名前は……みの……みの……。

「なんと金貨552枚で売れたんですよ!!!!」
「あっ、みの○ん○!」

 狭い馬車の中。
 俺とマーシュの声が同時に響く。

「……」
「……」

 そして訪れる沈黙。
 マーシュの視線が痛い。

「みの――なんとかって何ですか?」

 聞かれても説明できるわけも無い。
 俺は苦笑いを浮かべつつ、売却額の話へと水を向ける。

「ところでその買い取り金額のことで聞きたいことがあるんだけど」
「はい。なんでしょう?」

 目の前に並ぶ二つの小袋を指さして――

「金貨552枚って、そんなに凄いの?」

 と、俺にとっては当然の疑問を口にしたのだった
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