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第30話 強襲! ドラゴンブレス!!!

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 そこにいたのは、今にもファイヤーブレスを吐きかけてきそうなドラゴンだった。

 ドラゴンといえば最強種。
 普通はそんなものを目の前にすれば誰もがビビって、ちょいとズボンを濡らすだろう。

 だけど俺は違う。

 盛大に漏らす!
 なんてことはない。

 いや、初めて会ったときはちょっとヤバかったけども。
 だけどそれは最初だけだ。

 俺は既に魔瘴の森の中で何度かドラゴンと戦った経験がある。

 結果は言わずもがな。
 奴らの魔石は今、俺の腰にぶらぶらしている魔石袋の中に混ざって安らかに眠っている。

「魔瘴の森で戦った奴と比べて小さくね?」

 俺は思わず小さな声でそう呟く。

 さらに言えば、その時に出会ったドラゴンは、今目の前で俺を睨み付けているそれよりも数倍はデカかったのだ。
 そいつらと比べればこいつなんて子供ドラゴンである。

「ん? もしかして本当に子供なのか?」

 隊長は3メートル弱。
 体高2メートルくらい。

 その見かけと口から漏れ出ているブレスの炎は紛うこと無きドラゴンだが。
 よく見ると鱗に傷一つ無く、生まれたての様につややかで。
 顔も少し幼く見えて、まさにドラゴンの子供と言われた方がしっくりくる。

「ようこそアンリヴァルトくん」

 俺がドラゴンを見ながら思案をしていると、背後から声が聞こえ。
 振り返り見上げると俺が入ってきた扉の上あたりにいくつか椅子が並んでいた。

 その最前列にその男は立っていた。

「そんな所で何してるんですか、子爵」

 この街の主である俺の探し人のルブレド子爵だ。
 横に息子のジグスを従え俺を見下ろす彼の口元には薄らと笑みが浮んでいて。

「ようこそ私の試験場へ。君が尋ねて来たと聞いて息子共々出迎えの準備をしていたんだ」

 ルブレド子爵はそう言いながら横にいる息子の頭を撫でる。
 親子仲が良い様で。

「試験場?」
「そう、試験場だ。私が中央へ戻るために必要な資金を生み出すためのね」

 ルブレド子爵はそこまで口にすると僅かに肩を揺らす。

「あのドラゴンやスラム街の人たちとお前の野望は何か関係があるってことで良いんだな?」
「目上に対してお前呼ばわりは頂けないね」
「俺は別にこの街の住民でもないし、この国の者でもないからな」


 その答えにルブレド子爵は怒るどころか僅かに笑う。

「確かにその通りだ。ということはつまり私にとって君は守るべき対象では無いということでもある」
「守るって。お前はまるで自分の街の町民を守ってきたみたいな言い方だな」
「守ってきたさ。現にこの街は私が統治する様に成って見違える様に発展した」
「けどその陰でスラム街の人々を切り捨てたんじゃないか?」
「スラム街? ああ、彼奴らは何も産み出さない迷惑なゴミでしか無いからな」

 さすがに俺は子爵がしれっと口にしたその言葉に怒りを覚えた。
 しかし続く言葉に戸惑う。

「だがこれからは違う。彼らがこの街の民として生きていける様に私は手を差し伸べてやったのだ」

 手を差し伸べたとはどういうことだ?
 もしかしてスラム街の住民たちを全員連れ去ったのは本当に子爵の善意だったのか?

「これから彼らにも『魔物の使役実験』の手伝いをして貰うつもりでね」

 子爵の視線が俺からドラゴンの方へ移る。
 その目に浮ぶ光は愉悦だろうか。
 うっとりとした表情で彼はとんでもないことを口にした。

「このドラゴンを使役するために私は何人もの部下を失ったが、これからは部下では無くスラム街の住民がその代わりをしてくれるわけだ」
「まさかスラムの人たちを生け贄にでもするつもりか!」
「生け贄? とんでもない。ただ魔物を使役するための術を魔物に施す際に命を落とす危険があるというだけだよ」

 ルブレド子爵の言葉はどこまでも軽い。

「同じことだろ?」
「全く違うな。よく考えてもみたまえ」

 ルブレド子爵は俺の態度が理解出来ないと言う風に続ける。

「彼らの仕事は確かに危険だが、街の冒険者らも命を張って魔物が蔓延る森に出かけ狩りをして糧を得ている。それと同じことじゃないか」
「それは違う!」

 俺はルブレド子爵の言葉を即座に否定する。

「冒険者は自分の意思で冒険者になったんだ。もちろん色々な理由はあるだろうし、他に選択肢が無かったのかも知れないが、それでも自分で選んだ仕事だ。だけどお前がスラム街の人たちにやらせようとしてるそれは彼らの意思じゃ無いだろ」

 だけど俺の否定の言葉を彼には理解出来なかったらしい。
 隣りにいるジグスと顔を見合わせ「田舎者の言うことはわからんな」と言って。

「私からの誘いを断った時からもしやと思っていたのだが。君は貴族と平民の身分の違いを理解していない様だね」
「理解してるさ。ただ思ったよりお前たち貴族が傲慢だったってだけで」

 俺はわからせ棒一号くんを腰から抜くと子爵に突きつける。
 そして目一杯いやらしい笑みを浮かべながら言い放つ。

「だから俺は今からお前らのその傲慢な鼻っ柱を折ってわからせてやるよ」

 その直後。

 バンッ!

 試験場に響いた音は俺のものじゃ無い。

 目の前で俺が入ってきた扉が突然閉じた音だ。

「なんだ?」
「さて、君のおかしな話を聞くのはここまでにしよう。これから君にはこの試験場での試験を手伝って貰うよ」

 ルブレド子爵が高笑いをしながら叫ぶ様に大きく手を広げて。

「さぁドラゴンよ! またせたね。思う存分力を解き放ってその男を焼き殺してやるがいい!」
「お、おい。子供のドラゴンって言ってもこんな所で暴れたらこの建物どころか街にも被害が出るんじゃ無いのか?」

 俺は焦って子爵に向かって怒鳴る。

「なぁに心配するな。この建物には君たちが持って来てくれた魔道具によって厳重な魔結界が張られている。成獣となったドラゴンでも破るのが困難なほどのね!!」
「……」
「他人のことを心配してる暇は有るのかい?」

 俺の背後から魔物の足音が聞こえる。
 子供とはいえドラゴン。
 その圧力はビシビシと感じられる。

「さぁ、私と息子を散々コケにした報い。今受けてもらおうか。ドラゴンよ! 食い尽くせっ!! 燃やし尽くせっ!!!」
「そうだ! やっちゃえドラゴン! そんな奴食い殺しちゃえ!!

 親子揃って大声を上げる。

 ギャアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオゥゥゥ!

 その声に操られドラゴンが吠え、その口に激しい炎が渦巻いていく。
 一瞬後。
 その炎は何者をも焼き尽くす地獄の業火と成って――

「また服とか燃やされるのは勘弁して欲しいんだよなぁっ」

 ドラゴンブレスが吐き出される前に、一瞬で駆け寄った俺の相棒がドラゴンの顎を真下から打ち抜いた。

 どがんっ!!

 激しい音が頭上から響く。

 それは俺に打上げられたドラゴンが張り巡らされた魔結界にぶち当たった音だった。

 どさっ。

 そして重力に引かれたその体が俺の目の前に墜落する。

「死んでなかったら助けてやるよ」

 俺はドラゴンにそう告げると後ろを振り返った。
 そこにはあんぐりと口をあけ、今まで見た中で一番間抜けな表情を浮かべた子爵親子の姿があったのだった。





***みじかいあとがき***

タイトル詐欺って何の話でしょう?

えっと……子爵の話が校長先生並みに長すぎてしびれを切らしたアンリくん。
はらいせにドラゴンを一撃でわからせてしまう。

というわけでかなり難産だったこのお話。
3回以上書き直して、全ボツをくりかえしていたせいで更新が遅れました(´・ω・`)

ドラゴンくんには悪いことをしたと思っている。
反省はしていない。

元々はウリザネスボアドラゴンという私の別作品で出てくるドラゴンを出す予定でした。
でもなんというかあっちは可愛らしすぎて普通の炎竜にチェンジしたわけです。

というわけで可愛い可愛いウリザネスボアドラゴンちゃんの活躍を知りたい方は『チートの種』の方もご覧下さいませ(宣伝)。

次回は子爵一家おしりペンペン大会の予定です。

というわけでどこが短いのかわからない後書き終了!

ちょっと現在別作品のお仕事で締め切りというかスケジュールがヤバみなのでもしかすると更新が一日くらい抜ける日が出るかも知れません。
とだけ言い残して私は消えよう。
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