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Side ウィルフレッド
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僕の名前はウィルフレッド・ハウエル。
地方の小さな領地を収める男爵家、ハウエル家の長男だ。
貴族といっても辺境の小さな領主程度では、そこいらの豪族よりも貧乏で立場も弱い。
領地経営も、地元の領民と二人三脚で一緒に行っていかないと回らないほどだ。
それでも僕はこの領地が大好きだったし、ハウエル家を継ぐことも嫌ではなかった。
時折様々な理由で呼び出される王都での綺羅びやかな社交界も、僕にとっては苦痛でしかない。
なぜなら大抵は自らの力を見せつけるために、有力貴族によって僕たち弱小貴族は呼び出され自慢の種にさせられるだけだからだ。
「そんなに嫌なら行かなければいいじゃない?」
その日、遊びに来ていた隣の領地を治めるスチュワート家の令嬢であるクレアが、僕のこぼした愚痴にそう返す。
彼女のスチュワート家とは曽祖父時代から仲の良い間柄で、近隣領間で良く起こるといういざこざも無い。
僕とクレアも――いや、正確には僕の妹であるレティーシャとクレアも、歳が違いこともあって幼い頃からよく一緒に遊んでいた幼馴染だった。
よく大人しいと言われる僕やレティーシャと違い、クレアは奔放で快活で。
従者すら連れず、一人で走って我が家まで遊びに来ることもあったほど自由な貴族令嬢とは思えない女の子だった。
「そういうわけにはいかないよ。王都でちゃんと人脈を作っておかなければ、僕がハウエル家を継いだ後に大変なことになるし」
「そうなの? 私は跡継ぎでもないし、そういうことはお兄様がやってるからよく知らなかったわ」
「だろうね。スチュワート様はクレアには甘いから」
「確かにお父様ったら、そろそろ娘離れしないと行けませんよっていっつもお母様に怒られてるわね」
その父親の姿を思い出したのか、楽しそうに笑うクレア。
僕は彼女のその笑顔が大好きだった。
最初は部屋で勉強している僕を無理やり外へ引っ張り出して木登りをさせようとしたり、従者も連れずに外へあそびに引っ張り出されたりと、僕の意思を無視して振り回す彼女のことが苦手だったのに。
いつの間にか巻き込まれるのを楽しみに待つようになっていた。
「そろそろ私も花嫁修業を真剣になさいってお母様に言われたわ」
「そんなのまだ先の話だろ」
僕が十七歳になった頃。
いつものようにお供も連れずに、一人で馬を駆って遊びに来ていたクレアが突然そんなことを言い出した。
「でも私ももうすぐ十五歳になるわ。そろそろお父様が縁談を持ち込んでくる頃だってお母様も言ってたし」
「そ、そうなんだ……縁談……ね」
「私、遠くの貴族に嫁いだらもうここには遊びに来られなく成っちゃうわね。レティとも遊べなくなるわ」
「お姉様と会えなくなるなんて嫌ですわ!」
「あーあ。いっそ私がウィルと結婚して、うちのお兄様がレティと結婚出来ればいいのに」
そう言いながら、いつものような笑顔を見せるクレアに僕はどう返せば良かったのだろう。
この国では辺境領地での近隣の貴族同士での婚姻は認められていない。
国の目から遠く離れた地で権力者同士の結束が強くなることを恐れた二代目国王が定め、今も続いている決まり事の一つである。
「お兄様……」
だから僕に出来たことは、クレアの言葉にただいつものように変わらぬ顔で微笑み返すだけだったんだ。
そしてその後、クレアが僕の王都への呼び出しに「私も社交界に一度くらい出てみたいわ」と無理やり着いてきた結果、あの馬鹿王子に出会わせてしまったことを僕は後悔することになる。
地方の小さな領地を収める男爵家、ハウエル家の長男だ。
貴族といっても辺境の小さな領主程度では、そこいらの豪族よりも貧乏で立場も弱い。
領地経営も、地元の領民と二人三脚で一緒に行っていかないと回らないほどだ。
それでも僕はこの領地が大好きだったし、ハウエル家を継ぐことも嫌ではなかった。
時折様々な理由で呼び出される王都での綺羅びやかな社交界も、僕にとっては苦痛でしかない。
なぜなら大抵は自らの力を見せつけるために、有力貴族によって僕たち弱小貴族は呼び出され自慢の種にさせられるだけだからだ。
「そんなに嫌なら行かなければいいじゃない?」
その日、遊びに来ていた隣の領地を治めるスチュワート家の令嬢であるクレアが、僕のこぼした愚痴にそう返す。
彼女のスチュワート家とは曽祖父時代から仲の良い間柄で、近隣領間で良く起こるといういざこざも無い。
僕とクレアも――いや、正確には僕の妹であるレティーシャとクレアも、歳が違いこともあって幼い頃からよく一緒に遊んでいた幼馴染だった。
よく大人しいと言われる僕やレティーシャと違い、クレアは奔放で快活で。
従者すら連れず、一人で走って我が家まで遊びに来ることもあったほど自由な貴族令嬢とは思えない女の子だった。
「そういうわけにはいかないよ。王都でちゃんと人脈を作っておかなければ、僕がハウエル家を継いだ後に大変なことになるし」
「そうなの? 私は跡継ぎでもないし、そういうことはお兄様がやってるからよく知らなかったわ」
「だろうね。スチュワート様はクレアには甘いから」
「確かにお父様ったら、そろそろ娘離れしないと行けませんよっていっつもお母様に怒られてるわね」
その父親の姿を思い出したのか、楽しそうに笑うクレア。
僕は彼女のその笑顔が大好きだった。
最初は部屋で勉強している僕を無理やり外へ引っ張り出して木登りをさせようとしたり、従者も連れずに外へあそびに引っ張り出されたりと、僕の意思を無視して振り回す彼女のことが苦手だったのに。
いつの間にか巻き込まれるのを楽しみに待つようになっていた。
「そろそろ私も花嫁修業を真剣になさいってお母様に言われたわ」
「そんなのまだ先の話だろ」
僕が十七歳になった頃。
いつものようにお供も連れずに、一人で馬を駆って遊びに来ていたクレアが突然そんなことを言い出した。
「でも私ももうすぐ十五歳になるわ。そろそろお父様が縁談を持ち込んでくる頃だってお母様も言ってたし」
「そ、そうなんだ……縁談……ね」
「私、遠くの貴族に嫁いだらもうここには遊びに来られなく成っちゃうわね。レティとも遊べなくなるわ」
「お姉様と会えなくなるなんて嫌ですわ!」
「あーあ。いっそ私がウィルと結婚して、うちのお兄様がレティと結婚出来ればいいのに」
そう言いながら、いつものような笑顔を見せるクレアに僕はどう返せば良かったのだろう。
この国では辺境領地での近隣の貴族同士での婚姻は認められていない。
国の目から遠く離れた地で権力者同士の結束が強くなることを恐れた二代目国王が定め、今も続いている決まり事の一つである。
「お兄様……」
だから僕に出来たことは、クレアの言葉にただいつものように変わらぬ顔で微笑み返すだけだったんだ。
そしてその後、クレアが僕の王都への呼び出しに「私も社交界に一度くらい出てみたいわ」と無理やり着いてきた結果、あの馬鹿王子に出会わせてしまったことを僕は後悔することになる。
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