15 / 39
side キュレナ&ロギエ
しおりを挟む
広い草原の真ん中でキュレナは未だに青ざめた顔で震えている勇者と共に動けずにいた。
彼女の心の中に渦巻くもの、それは。
いったいなぜ。
どうして。
そんな疑問の言葉ばかり。
つい先ほど起こった出来事が彼女にはいまだに信じられなかった。
キュレナの傍らで地面に座り込み震えている勇者の姿すら目に入っていない。
彼女の目はこの場を去っていった二人が消えていったほうを見つめたまま。
「は~い、聖女ちゃ~ん♪ なにしてるのぉ?」
そんな彼女の耳に突然脳天気な声が飛び込んできた。
ゆっくりと視線をその声の方に向ける。
そこには胸元を大きくはだけた白いシャツと真っ赤なストレートパンツを身につけた細身の男が、自らの前髪を指先でくるくるといじりながら歩いてくるのが見えた。
肌着は着ていないのか、白いシャツから骨張った地肌が見えている。
その男は踊るような足取りでキュレナの元までやってくると、彼女と隣で震えている勇者を面白いものを見つけた子供のような顔で覗き込む。
「おやおやぁ。これは一体全体どうしたのかなぁ? 勇者ちゃん、顔真っ青じゃな~い」
「ロギエ! あなた今までどこで何をしてたのよ!」
「なによぅ。そんなに怒鳴らなくてもきこえてるわよぅ」
ロギエと言われたその優男は、大げさにのけぞるような仕草をし、両耳を手で押さえるふりをする。
おちゃらけたその姿にキュレナの眉尻がどんどん上がっていく。
「あなたね! ふざけるのもいい加減にしなさいよ!!」
「ふざけてなんかないわよぅ。アタシはタダこの状況はいったいどういうことなのかなーって教えて貰いたかっただけなのよぅ~」
わざとらしい動きで草原に倒れている勇者たちを見回して、ロギエは最後にキュレナの目を見つめる。
「魔王と戦った時ですらこんなにボロボロになってなかったのにねぇ」
「ルギーよ……」
「ルギー?」
「前に貴女にも話したことがあるでしょ。私の婚約者だったルキシオス」
「だった? 貴女がずっと望んでいた婚約破棄は成功したってこと? それにしては浮かない顔ねぇ」
キュレナはふざけた動きと表情でそんなことを言うロギエに、また切れそうになりながらも話を続けることにした。
ロギエはいつもふざけたような言動と行動をするが、勇者パーティにとってはなくてはならない補助魔法使いである。
幾多の戦場でも、あの魔王との戦いでも彼の補助魔法や妨害魔法にはかなり助けられたのだ。
ただ、そのふざけた言動と、時折ふらっと居なくなる自由気ままな性格にキュレナはいつもいらだちを覚えていた。
今日も早めに村に向かうために町を出ると決めていたのに、ロギエだけは町で遊んでから行くと言って別行動をしていたのである。
「婚約破棄は出来たわ……あっちから婚約破棄してきたのよ」
「良かったじゃな~い」
「全然良くないわよ!!」
キュレナはその瞳に涙を浮かべるとロギエにことの顛末を自分のわかる範囲で語って聞かせた。
自分の作戦は途中までは上手くいっていたこと。
勇者とルキシオスとの決闘が始まったこと。
一瞬で勇者が聖鎧を壊されて、それに怒った仲間の二人もルキシオスと、エルモに倒されたことを。
「あら? ということはこの破片が聖鎧の残骸なのかしら? 聖なる鎧もこうなるとただのゴミねぇ」
ロギエはそう呟きながら足下にばらけた破片を足で踏みながら嗤う。
仮にも神が授けたと言われている聖鎧を『ゴミ』扱いするとは。
ロギエの言動に驚愕に満ちた表情を浮かべるキュレナの前で、彼は落ちている欠片を拾い集めだす。
そして呆けている勇者の体に残った聖鎧の残骸をも引っぺがすと、その全てを山積みにした。
「これで全部かしらね? まぁ別に少しぐらい『抜け』があってもかまわないけどぉ」
「一体何をするつもりなの?」
ロギエが一体何を始めるのか全く理解できず、キュレナは彼の顔を見上げながらそう尋ねる。
そんな彼女にロギエはニヤリと少し馬鹿にしたような笑みを浮かべると――
「そんなのきまってるじゃないですかぁ。聖鎧を修理するんですよぉ」
「こんな状態の聖鎧を? いくらあなたが少しくらい鍛冶スキルを持ってるといっても神具なのよ!」
「神具だろうがお鍋だろうがいっしょよぉ~。そおれっ! レッツ! コンバイン~~♪」
くねくねとした気持ち悪いロギエの動きに合わせて、彼の体から不可思議な虹色の雲状の何かが湧き出してきた。
そしてその虹色の雲はそのままゆっくりと山積みにされた聖鎧の残骸を包み込む。
「そんな……信じられない」
キュレナの目の前でバラバラになっていた聖鎧の破片が次々と組み合わさっていく。
やがてその全ての欠片が一つに集まり、ヒビだらけではあるが元の形を取り戻した聖鎧が完成した。
その聖鎧の周りをくるくる周回しながら何かを確認していたロギエだったが、おもむろに立ち止まると、今度は大きく手を広げる。
「さてと、それじゃあいくねぇ~。デ・リペアラ~♪」
広げた両手の手のひらから、今度は虹色の光があふれ出す。
その光が次の瞬間、虹色の雲で包まれた聖鎧に向けて一気に照射され……。
「う……そでしょ……」
「アタシ嘘つかない~♪ ってのも嘘だけどぉ~」
キュレナの見つめる先で、ヒビ割れだらけだった聖鎧がみるみるうちに元の姿に戻っていく。
いや、元の姿よりももっと――傷一つ無い新品の様に修復されて行くではないか。
「流石のアタシもつかれちゃったわ~」
聖鎧を包んでいた光が消え去り、新品同様のそれが地面に転がったとたんロギエはわざとらしい口調でそう告げてその場に座り込む。
その顔には全く疲労感の欠片も見当たらないのだが。
「さてと。アタシつかれちゃったからぁ~。休んでいるからその間に聖女ちゃんはあっちの二人を治療してこっちに連れてきてちょーだい」
「えっ」
「そして全員が揃ったら詳しい話きかせてもらうわぁ」
ロギエはそれだけ言うとその場にゴロリと横になる。
何か文句を言いかけたキュレナだったが、こういうとき、ロギエには何を言っても暖簾に腕押しだと知っている彼女は一度大きく嘆息すると、しかたなく立ち上がり倒れている二人に向けて歩き出した。
そんな背中を片目だけ開いて見送ったロギエは、その視線を空に向け呟いた。
「これは久々に面白くなりそうねぇ」
と。
彼女の心の中に渦巻くもの、それは。
いったいなぜ。
どうして。
そんな疑問の言葉ばかり。
つい先ほど起こった出来事が彼女にはいまだに信じられなかった。
キュレナの傍らで地面に座り込み震えている勇者の姿すら目に入っていない。
彼女の目はこの場を去っていった二人が消えていったほうを見つめたまま。
「は~い、聖女ちゃ~ん♪ なにしてるのぉ?」
そんな彼女の耳に突然脳天気な声が飛び込んできた。
ゆっくりと視線をその声の方に向ける。
そこには胸元を大きくはだけた白いシャツと真っ赤なストレートパンツを身につけた細身の男が、自らの前髪を指先でくるくるといじりながら歩いてくるのが見えた。
肌着は着ていないのか、白いシャツから骨張った地肌が見えている。
その男は踊るような足取りでキュレナの元までやってくると、彼女と隣で震えている勇者を面白いものを見つけた子供のような顔で覗き込む。
「おやおやぁ。これは一体全体どうしたのかなぁ? 勇者ちゃん、顔真っ青じゃな~い」
「ロギエ! あなた今までどこで何をしてたのよ!」
「なによぅ。そんなに怒鳴らなくてもきこえてるわよぅ」
ロギエと言われたその優男は、大げさにのけぞるような仕草をし、両耳を手で押さえるふりをする。
おちゃらけたその姿にキュレナの眉尻がどんどん上がっていく。
「あなたね! ふざけるのもいい加減にしなさいよ!!」
「ふざけてなんかないわよぅ。アタシはタダこの状況はいったいどういうことなのかなーって教えて貰いたかっただけなのよぅ~」
わざとらしい動きで草原に倒れている勇者たちを見回して、ロギエは最後にキュレナの目を見つめる。
「魔王と戦った時ですらこんなにボロボロになってなかったのにねぇ」
「ルギーよ……」
「ルギー?」
「前に貴女にも話したことがあるでしょ。私の婚約者だったルキシオス」
「だった? 貴女がずっと望んでいた婚約破棄は成功したってこと? それにしては浮かない顔ねぇ」
キュレナはふざけた動きと表情でそんなことを言うロギエに、また切れそうになりながらも話を続けることにした。
ロギエはいつもふざけたような言動と行動をするが、勇者パーティにとってはなくてはならない補助魔法使いである。
幾多の戦場でも、あの魔王との戦いでも彼の補助魔法や妨害魔法にはかなり助けられたのだ。
ただ、そのふざけた言動と、時折ふらっと居なくなる自由気ままな性格にキュレナはいつもいらだちを覚えていた。
今日も早めに村に向かうために町を出ると決めていたのに、ロギエだけは町で遊んでから行くと言って別行動をしていたのである。
「婚約破棄は出来たわ……あっちから婚約破棄してきたのよ」
「良かったじゃな~い」
「全然良くないわよ!!」
キュレナはその瞳に涙を浮かべるとロギエにことの顛末を自分のわかる範囲で語って聞かせた。
自分の作戦は途中までは上手くいっていたこと。
勇者とルキシオスとの決闘が始まったこと。
一瞬で勇者が聖鎧を壊されて、それに怒った仲間の二人もルキシオスと、エルモに倒されたことを。
「あら? ということはこの破片が聖鎧の残骸なのかしら? 聖なる鎧もこうなるとただのゴミねぇ」
ロギエはそう呟きながら足下にばらけた破片を足で踏みながら嗤う。
仮にも神が授けたと言われている聖鎧を『ゴミ』扱いするとは。
ロギエの言動に驚愕に満ちた表情を浮かべるキュレナの前で、彼は落ちている欠片を拾い集めだす。
そして呆けている勇者の体に残った聖鎧の残骸をも引っぺがすと、その全てを山積みにした。
「これで全部かしらね? まぁ別に少しぐらい『抜け』があってもかまわないけどぉ」
「一体何をするつもりなの?」
ロギエが一体何を始めるのか全く理解できず、キュレナは彼の顔を見上げながらそう尋ねる。
そんな彼女にロギエはニヤリと少し馬鹿にしたような笑みを浮かべると――
「そんなのきまってるじゃないですかぁ。聖鎧を修理するんですよぉ」
「こんな状態の聖鎧を? いくらあなたが少しくらい鍛冶スキルを持ってるといっても神具なのよ!」
「神具だろうがお鍋だろうがいっしょよぉ~。そおれっ! レッツ! コンバイン~~♪」
くねくねとした気持ち悪いロギエの動きに合わせて、彼の体から不可思議な虹色の雲状の何かが湧き出してきた。
そしてその虹色の雲はそのままゆっくりと山積みにされた聖鎧の残骸を包み込む。
「そんな……信じられない」
キュレナの目の前でバラバラになっていた聖鎧の破片が次々と組み合わさっていく。
やがてその全ての欠片が一つに集まり、ヒビだらけではあるが元の形を取り戻した聖鎧が完成した。
その聖鎧の周りをくるくる周回しながら何かを確認していたロギエだったが、おもむろに立ち止まると、今度は大きく手を広げる。
「さてと、それじゃあいくねぇ~。デ・リペアラ~♪」
広げた両手の手のひらから、今度は虹色の光があふれ出す。
その光が次の瞬間、虹色の雲で包まれた聖鎧に向けて一気に照射され……。
「う……そでしょ……」
「アタシ嘘つかない~♪ ってのも嘘だけどぉ~」
キュレナの見つめる先で、ヒビ割れだらけだった聖鎧がみるみるうちに元の姿に戻っていく。
いや、元の姿よりももっと――傷一つ無い新品の様に修復されて行くではないか。
「流石のアタシもつかれちゃったわ~」
聖鎧を包んでいた光が消え去り、新品同様のそれが地面に転がったとたんロギエはわざとらしい口調でそう告げてその場に座り込む。
その顔には全く疲労感の欠片も見当たらないのだが。
「さてと。アタシつかれちゃったからぁ~。休んでいるからその間に聖女ちゃんはあっちの二人を治療してこっちに連れてきてちょーだい」
「えっ」
「そして全員が揃ったら詳しい話きかせてもらうわぁ」
ロギエはそれだけ言うとその場にゴロリと横になる。
何か文句を言いかけたキュレナだったが、こういうとき、ロギエには何を言っても暖簾に腕押しだと知っている彼女は一度大きく嘆息すると、しかたなく立ち上がり倒れている二人に向けて歩き出した。
そんな背中を片目だけ開いて見送ったロギエは、その視線を空に向け呟いた。
「これは久々に面白くなりそうねぇ」
と。
20
あなたにおすすめの小説
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
へぇ。美的感覚が違うんですか。なら私は結婚しなくてすみそうですね。え?求婚ですか?ご遠慮します
如月花恋
ファンタジー
この世界では女性はつり目などのキツい印象の方がいいらしい
全くもって分からない
転生した私にはその美的感覚が分からないよ
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる