19 / 39
突然の襲撃者
しおりを挟む
「しかし魔王が倒されてまだ一月くらいしか経ってないのに、もうそんな状態になってるのか」
「きっとここ森だけじゃないゴブよ。魔王様がこの地を支配する前の状況に戻ったと集落の長老も嘆いていたゴブ」
魔王が崩御し、群雄割拠で無秩序な土地となったというこの元魔王領。
聞けば聞くほど魔王討伐に加担していた各国がこの地に手を出さない理由がわかってくる。
この森にいるエルフですら、普通の人間が倒そうとすれば莫大な損害を受けることだろう。
魔王軍として他国に侵略戦争をふっかけてきていた状況なら損害を無視してでも戦わねばならなかったろう。
だが、それを推めていた魔王が倒され、他の国への侵略を目指す勢力が消えた今では完全に割に合わない。
「それでエルフ族にゴブリンたちは支配されて、それからどうなったの?」
「最初は皆反抗したゴブ……。だけど全く歯が立たなかったゴブよ」
ゴブリンたちは突然襲いかかってきたエルフになすすべもなく集落の半分を壊滅させられ、従順に成るしかなかったのだという。
だが、それでもゴブリンたちの中にもそれを良しとしない者たちがいた。
「それで、エルフの寝込みをみんなで襲う計画が立ち上がったゴブ。でも自分はそれには反対したゴブ。勝てるわけがないゴブ」
それでも一度盛り上がった機運は止められない。
計画に消極的だったゴブローが配置されたのは後方支援部隊であった。
そして決行の夜。
「それでその襲撃は上手くいったのか? って、上手くいってたらお前がこんな所まで逃げてきてるわけないか」
「襲撃は始まる前に終わってたゴブよ」
「どういうことだ?」
「誰かがエルフに襲撃の事を密告していたゴブ。突撃部隊は待ち伏せていたエルフたちにあっという間に蹴散らされてしまったゴブよ」
密告。
つまりゴブリンの群れの中にスパイが紛れ込んでいたということなのか?
はたまた密告することによって自分だけエルフに優遇してもらおうと思った奴がいたのか。
まぁ、今はそれはどうでもいい。
「そんな状況でよく逃げられたな」
「仲間が逃がしてくれたゴブよ」
エルフたちに計画がばれていたと皆が気がついてすぐ。
ゴブローと同じく後方支援に待機していた彼の幼馴染が、彼に逃げるようにと背中を押したらしい。
嫌々ながらもゴブローが作戦に結局参加したのも、その幼馴染が作戦に参加することになっていたからとか。
「最後に『自分のせいで巻き込んでごめんなさいゴブ』と言って近くの川に背中を押して突き落としたゴブ」
川はかなり急流だったらしく、死を覚悟したとゴブローは身震いさせた。
「その幼馴染ってやつ、かなり過激だったんだな」
「僕とは大違いだね」
「そ、そうだな」
急激な川の流れに流されたゴブローだったが、しばらく流された後、なんとか岸に這い上る事が出来た。
そこからは一心不乱にエルフの探知圏外を目指して走り、そこで俺と出くわしたのだそうだ。
「それじゃあその幼馴染も、襲撃したゴブリンたちも今頃は……」
「エルフたちは命までは取らないと思うゴブ」
「そうなのか?」
「貴重な労働力ゴブをみすみす手放すとも思えないゴブ……そうであってほしいゴブ」
「希望的観測だね」
エルモの容赦ない感想にゴブローの表情があからさまに曇る。
もう少しこう言い方があるだろうと思いつつ俺はゴブローの頭をぐりぐりとなでてやる。
「なにするゴブか」
「いや、まぁそんなに落ち込むなよ。もしお前の言ってることが正しけりゃまだ全員生きてる可能性があるって事だろ」
「希望的観測でしかないゴブ」
「諦めたら希望すらなくなっちまうだろうが。なぁエルモ」
「うん、そうだね。ルギーほど諦めが悪くなれとは言わないけどね」
俺はゴブローの頭から手を退けると立ち上がる。
そして「それじゃあ明日にでもエルフの里とやらに行ってみるか」と告げる。
「どういうことゴブ?」
「ん? いや何、エルモとお前とどっちの意見が正しいのかって気になっただけだぞ。べ、べつにお前のために見に行ってやるわけじゃないんだからな」
「ルギーってば……」
何故か俺の言葉に「やれやれ」といった風に首を振るエルモに俺が文句を言おうと口を開き駆けた瞬間だった。
「キャアアアアアアアアッ」
突然テントの外からレートの悲鳴が飛び込んできたのだ。
その悲鳴が耳に届いた瞬間、俺とエルモはすぐに外へ飛び出す。
「なんだあれは」
テントの外。
簡易的に作った調理場の側にレートが倒れているのが目に入った。
一見すると気絶しているようではあったが、体に傷は負っていないようでほっと胸をなで下ろす。
「ゴブローのために結界を弱めたままなのを忘れてたよ」
レートを気遣う俺の横で、そう呟くエルモの視線の先にそいつはいた。
「本では知ってたけど、実物はもっとえげつねぇな」
浅黒く細い体。
その体に似つかわしくないほどに長く伸びた手足。
噂に違わぬ長い耳と、その耳元まで裂けた口。
白目しかない目は何処を見ているのかわからない。
「ああ、俺たちの飯が」
「もしかしてレートが作ったご飯を、全部食べちゃうつもりかな」
そんな化け物が、レートが作っていたであろう料理を次から次へその醜く裂けた口の中に放り込んでいく。
かなりの量を喰ったのだろう。
その細い体は腹の部分だけ異様に盛り上がっていて――
「だ、大丈夫ゴブか?」
俺たちの後に続いてテントから恐る恐る顔を出したゴブローだったが。
その醜い化け物を目にした途端に大きく目を見開くと、突然体を震わせ。
「ヒィィィッ。エルフッッ!?」
そんな恐怖に満ちた悲鳴を上げたのだった。
「きっとここ森だけじゃないゴブよ。魔王様がこの地を支配する前の状況に戻ったと集落の長老も嘆いていたゴブ」
魔王が崩御し、群雄割拠で無秩序な土地となったというこの元魔王領。
聞けば聞くほど魔王討伐に加担していた各国がこの地に手を出さない理由がわかってくる。
この森にいるエルフですら、普通の人間が倒そうとすれば莫大な損害を受けることだろう。
魔王軍として他国に侵略戦争をふっかけてきていた状況なら損害を無視してでも戦わねばならなかったろう。
だが、それを推めていた魔王が倒され、他の国への侵略を目指す勢力が消えた今では完全に割に合わない。
「それでエルフ族にゴブリンたちは支配されて、それからどうなったの?」
「最初は皆反抗したゴブ……。だけど全く歯が立たなかったゴブよ」
ゴブリンたちは突然襲いかかってきたエルフになすすべもなく集落の半分を壊滅させられ、従順に成るしかなかったのだという。
だが、それでもゴブリンたちの中にもそれを良しとしない者たちがいた。
「それで、エルフの寝込みをみんなで襲う計画が立ち上がったゴブ。でも自分はそれには反対したゴブ。勝てるわけがないゴブ」
それでも一度盛り上がった機運は止められない。
計画に消極的だったゴブローが配置されたのは後方支援部隊であった。
そして決行の夜。
「それでその襲撃は上手くいったのか? って、上手くいってたらお前がこんな所まで逃げてきてるわけないか」
「襲撃は始まる前に終わってたゴブよ」
「どういうことだ?」
「誰かがエルフに襲撃の事を密告していたゴブ。突撃部隊は待ち伏せていたエルフたちにあっという間に蹴散らされてしまったゴブよ」
密告。
つまりゴブリンの群れの中にスパイが紛れ込んでいたということなのか?
はたまた密告することによって自分だけエルフに優遇してもらおうと思った奴がいたのか。
まぁ、今はそれはどうでもいい。
「そんな状況でよく逃げられたな」
「仲間が逃がしてくれたゴブよ」
エルフたちに計画がばれていたと皆が気がついてすぐ。
ゴブローと同じく後方支援に待機していた彼の幼馴染が、彼に逃げるようにと背中を押したらしい。
嫌々ながらもゴブローが作戦に結局参加したのも、その幼馴染が作戦に参加することになっていたからとか。
「最後に『自分のせいで巻き込んでごめんなさいゴブ』と言って近くの川に背中を押して突き落としたゴブ」
川はかなり急流だったらしく、死を覚悟したとゴブローは身震いさせた。
「その幼馴染ってやつ、かなり過激だったんだな」
「僕とは大違いだね」
「そ、そうだな」
急激な川の流れに流されたゴブローだったが、しばらく流された後、なんとか岸に這い上る事が出来た。
そこからは一心不乱にエルフの探知圏外を目指して走り、そこで俺と出くわしたのだそうだ。
「それじゃあその幼馴染も、襲撃したゴブリンたちも今頃は……」
「エルフたちは命までは取らないと思うゴブ」
「そうなのか?」
「貴重な労働力ゴブをみすみす手放すとも思えないゴブ……そうであってほしいゴブ」
「希望的観測だね」
エルモの容赦ない感想にゴブローの表情があからさまに曇る。
もう少しこう言い方があるだろうと思いつつ俺はゴブローの頭をぐりぐりとなでてやる。
「なにするゴブか」
「いや、まぁそんなに落ち込むなよ。もしお前の言ってることが正しけりゃまだ全員生きてる可能性があるって事だろ」
「希望的観測でしかないゴブ」
「諦めたら希望すらなくなっちまうだろうが。なぁエルモ」
「うん、そうだね。ルギーほど諦めが悪くなれとは言わないけどね」
俺はゴブローの頭から手を退けると立ち上がる。
そして「それじゃあ明日にでもエルフの里とやらに行ってみるか」と告げる。
「どういうことゴブ?」
「ん? いや何、エルモとお前とどっちの意見が正しいのかって気になっただけだぞ。べ、べつにお前のために見に行ってやるわけじゃないんだからな」
「ルギーってば……」
何故か俺の言葉に「やれやれ」といった風に首を振るエルモに俺が文句を言おうと口を開き駆けた瞬間だった。
「キャアアアアアアアアッ」
突然テントの外からレートの悲鳴が飛び込んできたのだ。
その悲鳴が耳に届いた瞬間、俺とエルモはすぐに外へ飛び出す。
「なんだあれは」
テントの外。
簡易的に作った調理場の側にレートが倒れているのが目に入った。
一見すると気絶しているようではあったが、体に傷は負っていないようでほっと胸をなで下ろす。
「ゴブローのために結界を弱めたままなのを忘れてたよ」
レートを気遣う俺の横で、そう呟くエルモの視線の先にそいつはいた。
「本では知ってたけど、実物はもっとえげつねぇな」
浅黒く細い体。
その体に似つかわしくないほどに長く伸びた手足。
噂に違わぬ長い耳と、その耳元まで裂けた口。
白目しかない目は何処を見ているのかわからない。
「ああ、俺たちの飯が」
「もしかしてレートが作ったご飯を、全部食べちゃうつもりかな」
そんな化け物が、レートが作っていたであろう料理を次から次へその醜く裂けた口の中に放り込んでいく。
かなりの量を喰ったのだろう。
その細い体は腹の部分だけ異様に盛り上がっていて――
「だ、大丈夫ゴブか?」
俺たちの後に続いてテントから恐る恐る顔を出したゴブローだったが。
その醜い化け物を目にした途端に大きく目を見開くと、突然体を震わせ。
「ヒィィィッ。エルフッッ!?」
そんな恐怖に満ちた悲鳴を上げたのだった。
20
あなたにおすすめの小説
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
へぇ。美的感覚が違うんですか。なら私は結婚しなくてすみそうですね。え?求婚ですか?ご遠慮します
如月花恋
ファンタジー
この世界では女性はつり目などのキツい印象の方がいいらしい
全くもって分からない
転生した私にはその美的感覚が分からないよ
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる