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森の食事会。
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『して、お主の名を聞いておこうか?』
森の中の少しだけ開けた場所で今三人――正確には二人と一匹は食事の準備をしつつお互いの素性を話していた。
元冒険者の料理人は、背中に担いでいた大きなフライパンをたき火にかけ、その中では先ほど倒したマウンテンボアの肉と、森の中で採取してきた木の実や茸などが美味そうな匂いを放っている。
「私はアシュリー=ハナン。お前たちは?」
『我はフォルディスという』
「ディアナ=リアレイズよ」
手際よく腰に下げた革袋から取り出した調味料で味付けをしながらアシュリーは「喋る魔獣とは珍しいな」とフォルディスに一瞬目を向ける。
「そうなの?」
『ふむ。我も人族のベントウを食べるまで言葉での意思疎通は出来なかったからな』
「ベントウ? お前、魔獣のくせにベントウを食べるのか?」
アシュリーは不思議そうに首をかしげながらもフライパンを巧みに片手で操る。
中に入っている食材も合わせればかなりの重さがあるはずだというのに、その動きはまるでそれを感じさせないほど軽やかだ。
「そうなの。アシュリーさん」
ペコペコのお腹を鳴らしながらディアナがアシュリーに、自分とフォルディスが何故一緒にいるのかという話を始める。
後で考えればあまりに軽率な行動ではあったが、お嬢様育ちで警戒心の薄いディアナと警戒心という言葉とは無縁のフォルディスではしかたがない。
それに、二人ともお腹が減りすぎていて目の前のご飯に意識の殆どが向いていたせいでもあったのだろう。、
そうしてディアナなりに一生懸命話した内容に対して、アシュリーの答えは――。
「大変だったんだね。あとフォル、お前、やっぱり変わった魔獣だな」
それだけである。
別に同じように婚約破棄や親兄弟の仕打ちに憤ってほしいと思っていたわけではないが、それにしてもあまりにあっさりとした返事。
しかも話を聞いてる間もその後も、まったくフライパンから目を離すこともなく、まるで興味がなさそうなその返事にディアナは少しむくれてしまう。
だが、フォルディスの方は地面に丸まったまま大きく欠伸をして「飯はまだか」と暇そうに口にしただけであった。
「おう、もう出来上がるぞ。ところでお前ら食器とかフォークとかは持ってるのか?」
「えっ、アシュリーが持ってるんじゃないの?」
ディアナが不思議そうにそう尋ねると、アシュリーは「持ってはいたんだけどな」と口にしてから複数腰に下げた袋の一つをディアナに放り投げる。
「わわっ」
慌てて受け取ったディアナの両手に、ずっしりとした袋の重みと同時にガシャガチャという音が伝わってきた。
アシュリーは袋の中を見てみろとディアナに告げるとフライパンに目を移す。
「壊れちゃってる……」
渡された袋の中をのぞき込むと、そこには完全に割れて使い物にならなくなった皿、そして曲がったフォークだったものが入っていたのだ。
そこでディアナは気がつく。
先ほどフォルディスがアシュリーを放り投げた時の事をだ。
「まさかあの時の音って」
「そのまさかだよ」
「フォルぅ」
『ん? どうした?』
「フォルのせいでアシュリーの持ってた食器もフォークも壊れちゃったじゃない」
『そんなことは知らん。それに我がアシュリーを投げる事になったのは、そもそもお主が無駄に飛び出して来たせいでもあろう』
「うぐぐ……」
速攻反論されてぐうの音も出なくなったディアナに嘆息しつつ、フォルディスはゆっくりと立ち上がる。
そして近場で一番大きな木の方へ歩いて行くと――。
『仕方ない。我が用意しよう』
そう告げ、一瞬にしてその大木をへし折る。
バキバキバキと他の木々をなぎ倒しながら倒れた大木にフォルディスはゆっくりと近づくと、今度はその周りを目にもとまらぬ速度で動き出す。
カカカカカッ。
そんな軽い音を立てながら削られていく大木を目を丸くしてみているディアナとアシュリー。
やがて自分が料理中であることを思いだしたアシュリーが慌ててフライパンを操る作業に戻る頃。
『ふむ。初めてにしては上出来ではないか?』
満足げなフォルディスの声が聞こえてきた。
フォルディスの足下には無骨ながらもきちんとそれとわかる皿とお椀が三組。
それとフォークとナイフらしきものが並んでいるではないか。
「凄い!? フォルって何でも出来るのね」
『何でもではないがな。かつて人間どもが我の元に持って来たことのある物を参考に作ったがこれで良いか?』
「ああ、問題ない。ナイフは使い道がないし切れるかどうかわからないがそれ以外は使えそうだ。ディアナ、その食器をこっちへ持って来てくれないか」
「はーい」
元気よく返事をしながらディアナはフォルディスの足下にある食器を拾い集める。
フォルディスが作った食器は表面も綺麗に磨かれており、とても見よう見まねで作った物には思えなかった。
『他に必要な物があれば言え。直ぐに作ってやるぞ』
褒められたことが嬉しかったのか、フォルディスはフンッと鼻を鳴らし自慢げな顔でそう告げる。
だがアシュリーに「これだけあれば十分だ」と告げられ少し残念そうな顔をすると、ゆっくりと元の位置に戻ってまた寝転ぶ。
しかしそんな少し残念そうな表情も、アシュリーの一言で一瞬にして消え去る。
「さぁ出来たぞ」
「わぁい!」
『待ちかねたぞ』
フライパンの中からおいしそうな香りが辺りに漂う。
アシュリー曰く「今はろくな香辛料も調味料も持っていないから味付けはほぼ塩だけになってしまったが」との事だったが、腹ぺこ状態の二人にはそんなことはどうでも良かった。
この日、二人――一人と一匹は旅に出て初めてまともな食事にありつけたのであった。
森の中の少しだけ開けた場所で今三人――正確には二人と一匹は食事の準備をしつつお互いの素性を話していた。
元冒険者の料理人は、背中に担いでいた大きなフライパンをたき火にかけ、その中では先ほど倒したマウンテンボアの肉と、森の中で採取してきた木の実や茸などが美味そうな匂いを放っている。
「私はアシュリー=ハナン。お前たちは?」
『我はフォルディスという』
「ディアナ=リアレイズよ」
手際よく腰に下げた革袋から取り出した調味料で味付けをしながらアシュリーは「喋る魔獣とは珍しいな」とフォルディスに一瞬目を向ける。
「そうなの?」
『ふむ。我も人族のベントウを食べるまで言葉での意思疎通は出来なかったからな』
「ベントウ? お前、魔獣のくせにベントウを食べるのか?」
アシュリーは不思議そうに首をかしげながらもフライパンを巧みに片手で操る。
中に入っている食材も合わせればかなりの重さがあるはずだというのに、その動きはまるでそれを感じさせないほど軽やかだ。
「そうなの。アシュリーさん」
ペコペコのお腹を鳴らしながらディアナがアシュリーに、自分とフォルディスが何故一緒にいるのかという話を始める。
後で考えればあまりに軽率な行動ではあったが、お嬢様育ちで警戒心の薄いディアナと警戒心という言葉とは無縁のフォルディスではしかたがない。
それに、二人ともお腹が減りすぎていて目の前のご飯に意識の殆どが向いていたせいでもあったのだろう。、
そうしてディアナなりに一生懸命話した内容に対して、アシュリーの答えは――。
「大変だったんだね。あとフォル、お前、やっぱり変わった魔獣だな」
それだけである。
別に同じように婚約破棄や親兄弟の仕打ちに憤ってほしいと思っていたわけではないが、それにしてもあまりにあっさりとした返事。
しかも話を聞いてる間もその後も、まったくフライパンから目を離すこともなく、まるで興味がなさそうなその返事にディアナは少しむくれてしまう。
だが、フォルディスの方は地面に丸まったまま大きく欠伸をして「飯はまだか」と暇そうに口にしただけであった。
「おう、もう出来上がるぞ。ところでお前ら食器とかフォークとかは持ってるのか?」
「えっ、アシュリーが持ってるんじゃないの?」
ディアナが不思議そうにそう尋ねると、アシュリーは「持ってはいたんだけどな」と口にしてから複数腰に下げた袋の一つをディアナに放り投げる。
「わわっ」
慌てて受け取ったディアナの両手に、ずっしりとした袋の重みと同時にガシャガチャという音が伝わってきた。
アシュリーは袋の中を見てみろとディアナに告げるとフライパンに目を移す。
「壊れちゃってる……」
渡された袋の中をのぞき込むと、そこには完全に割れて使い物にならなくなった皿、そして曲がったフォークだったものが入っていたのだ。
そこでディアナは気がつく。
先ほどフォルディスがアシュリーを放り投げた時の事をだ。
「まさかあの時の音って」
「そのまさかだよ」
「フォルぅ」
『ん? どうした?』
「フォルのせいでアシュリーの持ってた食器もフォークも壊れちゃったじゃない」
『そんなことは知らん。それに我がアシュリーを投げる事になったのは、そもそもお主が無駄に飛び出して来たせいでもあろう』
「うぐぐ……」
速攻反論されてぐうの音も出なくなったディアナに嘆息しつつ、フォルディスはゆっくりと立ち上がる。
そして近場で一番大きな木の方へ歩いて行くと――。
『仕方ない。我が用意しよう』
そう告げ、一瞬にしてその大木をへし折る。
バキバキバキと他の木々をなぎ倒しながら倒れた大木にフォルディスはゆっくりと近づくと、今度はその周りを目にもとまらぬ速度で動き出す。
カカカカカッ。
そんな軽い音を立てながら削られていく大木を目を丸くしてみているディアナとアシュリー。
やがて自分が料理中であることを思いだしたアシュリーが慌ててフライパンを操る作業に戻る頃。
『ふむ。初めてにしては上出来ではないか?』
満足げなフォルディスの声が聞こえてきた。
フォルディスの足下には無骨ながらもきちんとそれとわかる皿とお椀が三組。
それとフォークとナイフらしきものが並んでいるではないか。
「凄い!? フォルって何でも出来るのね」
『何でもではないがな。かつて人間どもが我の元に持って来たことのある物を参考に作ったがこれで良いか?』
「ああ、問題ない。ナイフは使い道がないし切れるかどうかわからないがそれ以外は使えそうだ。ディアナ、その食器をこっちへ持って来てくれないか」
「はーい」
元気よく返事をしながらディアナはフォルディスの足下にある食器を拾い集める。
フォルディスが作った食器は表面も綺麗に磨かれており、とても見よう見まねで作った物には思えなかった。
『他に必要な物があれば言え。直ぐに作ってやるぞ』
褒められたことが嬉しかったのか、フォルディスはフンッと鼻を鳴らし自慢げな顔でそう告げる。
だがアシュリーに「これだけあれば十分だ」と告げられ少し残念そうな顔をすると、ゆっくりと元の位置に戻ってまた寝転ぶ。
しかしそんな少し残念そうな表情も、アシュリーの一言で一瞬にして消え去る。
「さぁ出来たぞ」
「わぁい!」
『待ちかねたぞ』
フライパンの中からおいしそうな香りが辺りに漂う。
アシュリー曰く「今はろくな香辛料も調味料も持っていないから味付けはほぼ塩だけになってしまったが」との事だったが、腹ぺこ状態の二人にはそんなことはどうでも良かった。
この日、二人――一人と一匹は旅に出て初めてまともな食事にありつけたのであった。
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