その日は雨が降っていた。

味海

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雨は降る、雪は積もる

第一話「白雪、雪女」

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 転校生が来る、今朝のホームルームはその話題で持ちきりだった。聞くところによるとその転校生は女子だという。しかしこういうことはその転校生にとってはとても迷惑なんじゃないかと思う。別にその人は特別な訳でもなく、たまたまこの学校に転向することになった一般人なのだから。もしこれが有名人だったりするのであればそれも致し方ないと思う、がやっぱりその人は普通の人なのだ。たとえそれが絶世の美少女だとしても。

「では桜さん入ってきて~!」

 先生の声を聞いてからワンテンポ遅れてその転校生は入ってくる。一目見た瞬間クラスは沸き立つ。まるで空想の世界から出てきたかのような白い肌に長いまつげ、高い身長。男子から人気が出そうな顔である。しかし彼女の一言で男子生徒はおろか女子生徒たちも絶句することになる。

「……ここは動物園かなにかですか?」

 はて、今彼女はなんと言ったのだろうか。クラスは先程までの熱狂的なほどの気は一瞬で氷点下をも超え、絶対零度まで下がる。一体何が目的なのか、彼女は何がしたいのか。少なくともこうやってわざと周りを遠ざけようとすることは転校生という立場上不利であることは確かである。なのに彼女は男子はおろか女子ですらも敵に回したのだ。何がしたいんだ。

「え、えーと桜さん?一体どうしたのかしら……?」

「別にどうもしてません、ただ思ったことを述べただけです」

 とっさに尋ね、何とか助け舟を出そうとした先生までもを彼女は一刀両断に叩き切った。そこからはとにかくひどかった。彼女の暴走はもう誰にも止められない。そんな中でもわかったことといえば彼女の名前は桜遥さくらはるかという名前だということだけである。もちろん彼女の紹介が終わってから話しかけに行こうとするものは誰一人としていなかった。そりゃそうである。そのあまりの冷徹さ故にたった一日で白雪しろゆきというあだ名がつくほどだ。

 ここで一つ言っておこう。別に僕はМではない。いきなりどうしたのかと思うだろうが、今から僕は白雪しろゆき……いや桜遥さんに話しかけにいかなくてはいけないのだ。一体なんでこんなことをしなくてはならないのかそれを説明するにはほんの少し時を遡る。


「相原くん」

 移動教室という名目で早くから用意をしていた僕は先生から呼び止められる。僕は持っていき忘れそうになっていた筆箱を取りながらも先生に反応した。

「……何でしょうか?」

「桜さんのことなんだけど……」

 桜、先程とんでもない発言をし、名前の温かさとは裏腹にこのクラスの空気を氷結地獄へと変貌させたその人である。彼女はもしかしたらエアコンの代わりになるかもしれない。

「……どうしました?」

 とりあえず気まずそうな顔をして、先生に嫌だということを伝えてみるが先生は全く気づかない。誰が雪女なんかに話しかけられるだろうか。いくら金を積まれても話そうとする男はいないだろう。もしこれで僕が彼女に話しかけろと言われるのであれば、一億、いや二億はほしい。

「桜さん、前の高校でいじめられていたらしいのよ、だからああやって周りを話すような言い方をして自分に近づいてほしくないということをアピールしているのだと思うのよ、もういじめられないためにね、だからね彼女のお友達になってくれない?一応、匠さんは学級委員長だしね」

 彼女がいじめられていた、その話は納得できる、だがなぜだとしたら彼女はまたいじめられるような発言をするのだろうか?先生の言い分としては周りに人がいてほしくない、とのことだったがだったらもっとやり方はあるのではないだろうか、少なくとも自分からいじめられる方法をとるのは流石におかしいと思う。というかもしそれが本当なのだとしたらなぜそれを僕がやらなければいけないんだ。寧ろ彼女にとっては悪影響なのでは?が、先生にそのことを伝えるのもめんどくさい。

「わかりました、とりあえず話しかけてみますよ」

 と、とりあえずうわべだけの返事をしてその場を収める。こんなとこでグダグダ言ってもしょうがないし。

 とまぁこんなわけで今僕は彼女のもとへ歩みを寄せているのだが、あまりにも殺気がすごい。何だろう、入ったらその瞬間に皮だけにされそうなそんな雰囲気がある。つややかな髪が近づいてくる。よく手入れされているのだろう。

「桜さん」

 後ろから声をかける。どうやら彼女は小説を読んでいるようだ。またもや一拍おいてから僕の方を振り返る。なんとも冷ややかな目である。

「……何でしょうか?」

「あ、えーと……」

 しまった僕は何も話題を考えてない。彼女の持っている小説について話そうにもカバーで分からない、これじゃただ話しかけてつらい思いをするだけだ。グッバイマイ人生。

「……はぁ、わかりました、どうせ先生に頼まれたのでしょう?別に私はいいのに」

 彼女はそうため息を吐く。しかしそのキリリとしていた目はどこか悲しそうで、苦しそうで、何もかもに絶望したような目をしていた。ソレを見た僕は思わず口に出してしまった。幼い頃から面倒事に関わってしまうところは変われない。三つ子の魂百までとはよく言ったもんだ。

「そ、それは違うと思う、少なくとも僕は同じクラスで一人だったら悲しいし辛い、もちろん僕の意見を押し付けるつもりはないけどね……」

 発言した僕を彼女はちらりと見てから小説へと目を落とした。まるで出来た傷を隠すように、なるべく触れずに済むように。

「何も知らない癖に適当なことを言わないでくれない?」

「し、知らないからこそ話しかけているんだよ」

 段々と声のボリュームが上がってくる、しかしそれに気づいているのは僕だけのようだ。

「うるさい!もうほっといてよ!」

「だから……!!」

 そこで彼女は自分の声が大きいことに気づいた。周りから視線が集まっていたからだろう。それほどまでに僕は張り合ってしまったし、お互い自分の意見を曲げなかった。それによって引き起こされた怒声、それが思っていたより周りに響いていたようである。

「もういい」

 彼女は席を乱暴に立つ、読んでいた小説を机に思い切り叩きつけると教室を出ていってしまった。彼女は、いや今度は僕がこの教室の空気を凍らせるのだった。

 今日は雨が降るそうだ。
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