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国王陛下とレイエル
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心配しないでね、と言えど不安そうに俯くエルはどこか儚げでいなくなってしまいそうだと感じる。絶対に離れて行かないよう、僕は手をぎゅっと握ることしかできなかった。
しばらく廊下を進むと、大きな扉が見えてくる。あの部屋の中にはいつも偉そうにふんぞりかえる国王様が居て、挨拶が本当にめんどくさい。ギギ...と音を立てて扉を開ける。
「国王陛下、ご挨拶に参りました!」
「おぉ、よく来たな。アルトとは順調か?」
「えぇ、それは勿論。少々喧嘩する日もありますが、喧嘩するほど仲が良いということでしょう。」
「そうかい、そうかい、良いことだ。ところでレイエル、なぜ後ろに隠れる?」
「あ、お父様..そんなこと、ないですよ。隠れて、など。」
「.....、下がりなさい。」
「は、はい..、すみ、ません。」
エルと繋いでいる手が震える。手が冷え切っているのか、とても冷たい。少し後ろを覗いてみれば、顔面蒼白で冷や汗をかいている。
「では僕も下がりますね。ご挨拶にお応えいただきありがとうございました。」
僕は返事を待たずに部屋を出た。
______
これだから国王は嫌いなんだ。
喋り方がねちっこくて気持ち悪いし、人によってテンションの差が激しい。そして、アルト様は楽しそうに国王陛下のお話をするのに、エルは全くしない。その差が僕に疑念を抱かせる。
「エル、エル、?大丈夫?」
「ごめん、...ごめん..。うまく話せなかった、ごめんなさい、」
「エル!大丈夫だから、ね?お部屋行こう。」
「ん、つれてって...」
顔を俯かせて、涙を流しているようだった。僕と手を繋いでいない方の手で目元を押さえてはぐすぐすと嗚咽をあげる。僕はその姿があまりに痛たまれなくて、歩くペースを早めた。
ところどころ、掃除をしているメイドがいて、ギョッとした様子で僕たちを眺める。だが、眺めるだけだった。決して声はかけないし、心配そうにする様子もない。近くにいたメイドどうしで『また泣いてる』というばかり。"また"という言葉が気になって仕方なかった。
エルの部屋は少し家族と離れた場所にある。だけど、内装はさすが王族と言わんばかりの豪華さで、清潔に保たれている。エルは時々料理をするからか、他の部屋とは違いキッチンが備え付けられていた。
涙が止まる様子のないエルを座らせて、キッチンで紅茶を入れる。こういう時に教養があってよかったとしみじみ思う。
「何か怖いことあった?僕も昨日は弱いとこ見せたし、頼って?」
こと、と音を立ててテーブルに紅茶を置く。エルの好みは少しミルクが入っているくらいだ。熟知している。
「ありがと、メウィル。実は、」
この時、エルが言ったことを僕は生涯忘れないと思った。
しばらく廊下を進むと、大きな扉が見えてくる。あの部屋の中にはいつも偉そうにふんぞりかえる国王様が居て、挨拶が本当にめんどくさい。ギギ...と音を立てて扉を開ける。
「国王陛下、ご挨拶に参りました!」
「おぉ、よく来たな。アルトとは順調か?」
「えぇ、それは勿論。少々喧嘩する日もありますが、喧嘩するほど仲が良いということでしょう。」
「そうかい、そうかい、良いことだ。ところでレイエル、なぜ後ろに隠れる?」
「あ、お父様..そんなこと、ないですよ。隠れて、など。」
「.....、下がりなさい。」
「は、はい..、すみ、ません。」
エルと繋いでいる手が震える。手が冷え切っているのか、とても冷たい。少し後ろを覗いてみれば、顔面蒼白で冷や汗をかいている。
「では僕も下がりますね。ご挨拶にお応えいただきありがとうございました。」
僕は返事を待たずに部屋を出た。
______
これだから国王は嫌いなんだ。
喋り方がねちっこくて気持ち悪いし、人によってテンションの差が激しい。そして、アルト様は楽しそうに国王陛下のお話をするのに、エルは全くしない。その差が僕に疑念を抱かせる。
「エル、エル、?大丈夫?」
「ごめん、...ごめん..。うまく話せなかった、ごめんなさい、」
「エル!大丈夫だから、ね?お部屋行こう。」
「ん、つれてって...」
顔を俯かせて、涙を流しているようだった。僕と手を繋いでいない方の手で目元を押さえてはぐすぐすと嗚咽をあげる。僕はその姿があまりに痛たまれなくて、歩くペースを早めた。
ところどころ、掃除をしているメイドがいて、ギョッとした様子で僕たちを眺める。だが、眺めるだけだった。決して声はかけないし、心配そうにする様子もない。近くにいたメイドどうしで『また泣いてる』というばかり。"また"という言葉が気になって仕方なかった。
エルの部屋は少し家族と離れた場所にある。だけど、内装はさすが王族と言わんばかりの豪華さで、清潔に保たれている。エルは時々料理をするからか、他の部屋とは違いキッチンが備え付けられていた。
涙が止まる様子のないエルを座らせて、キッチンで紅茶を入れる。こういう時に教養があってよかったとしみじみ思う。
「何か怖いことあった?僕も昨日は弱いとこ見せたし、頼って?」
こと、と音を立ててテーブルに紅茶を置く。エルの好みは少しミルクが入っているくらいだ。熟知している。
「ありがと、メウィル。実は、」
この時、エルが言ったことを僕は生涯忘れないと思った。
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