しあわせピエロ

夜桜アイル

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プロローグ(前編)

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この街には噂がある。
悪さをする子も母親からその名を聞くと、途端に押し黙る。
小さい子供の前に現れ、永遠に夢の国へと連れ去るという。

――〝不幸のピエロ〟が来る


 「また市松高貴だ」
「警察は何をやっとるのだ!早く捕まえろよ!」
「子供達の目に毒だわ」
「しっ!聞こえるよ」

散髪も髭剃りもアイロンもかったるい。
マトモな歩き方なんぞもう忘れた。
そんな俺を乏しめるヒソヒソ話ももう気にならなくなった。
まあ、俺が一睨みすれば、そんな話などすぐに止まるが。


 「ただいま…って誰もいねーわな」

軽く乾いた笑いをこぼす。
こんな俺にも、数年前までは、おかえりと迎え入れてくれる家族がいた。
数年前に不況なんてくだらない理由でクビを切られて、嫁さんにも娘にも逃げられた。
残ったのは生活のための借金と、ローンが8年残った虚ろな家だけだ。

ゴミと散らばった家具をかき分け、リビングのソファに腰掛ける。
何気なく横に目をやると、埃まみれの家族写真が転がっている。
「…金がなきゃ、俺は用無しか」
俺は写真を手で撥ね飛ばした。

〝ピンポーン〟

呼び鈴が鳴る。
どうせ借金の取り立てだ。
居留守を決め込んでソファにドカッと腰掛けた。

〝ピンポーン〟
〝ピンポーン〟
〝ピンポーン〟

呼び鈴はしつこいくらいに鳴り止まない。
どんどん腹が立ってきて、頭を掻きむしりながら玄関に向かう。

「うるっせぇ!誰だ!!」

ドアを勢いよく開ける。
誰もいない。

「あ、ご、ごめんなさい」

下から声がする。
何気なく視線を下げると、小奇麗な恰好をしたガキが呼び鈴を背伸びして押していた。
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