アベル、騎士団に入る。

桐谷 渚

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10 ガイルside

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「さては、例の観察対象とやらの話だな~?」

詰所を後にし、いつもながら規則通りの礼服に着替えたガイルが執務室の扉を開けた途端、エドワードの声が聞こえた。

「そうですね」

ガイルが特に感情も出さず言葉を発すと、エドワードは大げさに眉を下げた。

「もうちょっとからかってやろうと思ってたんだけどなぁ~、面白くねーの」
「私のことをおもちゃにしないでください」
「いや~、でもお前、さっきちょっとニマニマしてたんだぜ?」
「してません」

ガイルはつかつかとエドワードの腰掛けている机に歩き寄り、紙の束をおいた。

「これが、手続きに必要な書類です。確認してください。あとちゃんと椅子に座ってください。」

パラパラとめくったエドワードは、すぐにサインをした。

「いーよ」
「毎度言ってますけど、ちゃんと確認してください」

ベロをだしてウインクしたエドワードに、ガイルはため息をつく。

「ね~、それより面白い話ないの?せっかく街に行ったんだったらなんかあるでしょ」

エドワードは猫のように体を伸ばし、机に寝転んだ。

「面白い話ではないですが、殿下に伝えておきたい話はあります」

「ふぅん…。好きな女の子に彼氏ができたとか?」

エドワードはニヤリとわかりやすく笑った。

「違います。魔族に力を弱めていると思われる指輪をもらってたんです」

エドワードは跳ね起きる。

「やっぱ好きなんじゃん!」
「何がですか?」

本当にわかっていない様子のガイルに、エドワードは心から残念がった。

ーーコイツ絶対付き合った女の子に嫌われる…

エドワードの心の中を知る由もないガイルは、そのまま言葉を続ける。

「どうやら前々から次の聖女候補であったクレアの祈りがこもった指輪のようで、聖女はクレアで確定かと」

「え、それ、何て言って聞き出したの」

目をガン開きにしたエドワードにちょっとひきながら、ガイルは答えた。

「多分、その指輪はだれからもらったのか、というような内容だったと思いますが、」
「キャー!!」

急に奇声を発して床をゴロゴロ転がり回り始めたエドワードに、もうそろそろ医者を呼ぶべきかどうか思案するガイル。

「それは『他に男がいるのか、俺以外とは付き合うなよ…!』って言ってんのと同じなんだよぉぉ!」

エドワードはものすごく嬉しそうに言うが、ガイルにはピンときていないらしい。

「はあ…そうですか」
「今頃俺と同じようになってるって!その子も!」
「というか、女性じゃないですし…」

「…………は?」

時が止まったのかのように錯覚するほどの時間の後、エドワードは顎をガクッと落とした。

「いや、本人は自分が女だと思っているようですが、基本的にこっちに渡ってくる魔族は男ですよ」

「確かにそうだけどさ、例外もいるじゃん。ガイルの母親と、その妹だろ?」

「そうですが、確率的には非常に低いですし、それに、女性の魔族はこちらでは短命ですよ」

今度はエドワードがこれみよがしにため息をつく。

「運命を、信じてみようぜ…?」
「あいにくですが、信じられないので」

相変わらずなガイルに、可哀想な目を向けるエドワードだった。
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