11 / 11
11
しおりを挟む
「お、おはよー」
約束の時刻5分前に広場にやってきたアベルは、既に待ち合わせ場所に来ていたカイに声をかけた。
「おはよう。今日は時間通りだったな」
「まあ、さすがにね、アハハ…」
まだ9時頃ということもあり、近くの屋台で朝食を摂っている人もちらほら見かける。
「じゃあ行こうか」
「う、うん!」
「そういえば昨日寄ってたアップルパイの屋台、もう一度寄れたのか?」
「あー、帰り際に寄ってってさ、件のお兄さんに会う約束を取り付けられたんだ!」
「おー、じゃあ、あのアップルパイがもう1回食べられるのか!」
「それ、私が作ること前提で言ってるよね!?」
「アベルが作るお菓子はうまいからな」
カイが嬉しそうに笑う。
アベルは血が顔に上った気がして少し顔を背けた。
そんなアベルに気づかず、カイは上機嫌に歩きながらアベルに話しかける。
「もうそろそろ着くから、用意しといてな。いい人たちばっかだから大丈夫だと思うが」
もう着いちゃうんだ…
そんなことを考えたアベルは硬直した。
カイは歩みを止めたアベルの顔を覗き込む。
「どうした?」
この鈍感!
赤いはずの顔を見たカイは、なんの反応も見せない。
アベルは顔の熱が引いていくのを感じた。
「なんでもないっ!」
歩き始めたアベルに、カイは言った。
「あ、そこ右に曲がるぞ!」
****
門番への顔合わせが済むと、アベルとカイは騎士団の寄宿舎へやってきた。
「ここ、寄宿舎だよね?みんな今いないんじゃないの?」
日中であるから訓練か見回りをしているのではないか、という危惧をしているアベルに、カイが言った。
「あぁ、今の騎士団長が、自分の部屋に近いところの方がいいからって。多分、お役所関連のところと気が合わないんだけだろうな」
カイが楽しそうに言った。
「へー。カイは、騎士団長が好きなんだね」
「まあ、そうだな。尊敬しているよ」
「?複雑そうな顔してるけど、なんかあったの?」
「いや、…見てもらったらわかる」
そんなことを話していると、カイが立ち止まった。
「ここだ。今から入るからな」
コンコン。
「失礼しま…」
「うおー!カイじゃないか!なになに?とうとう僕の直属の部下になる気になった!?」
カイが少し押し開けた扉をこじ開け、20代前半のように見える細身の男が、満面の笑みで両手を広げた。
カイは顔を引きつらせて言った。
「違います。新入団員の紹介に来ました」
「あぁ、例のね、」
男はアベルのことをまじまじと見回した。
「平民の、アベルです!カイに紹介されてきました!」
「僕は騎士団長のルイス・シェパードだよ!じゃあ、カイと仲いいみたいだし、朱のとこで!ところでカイ、これからお茶会を…」
「わかりました、じゃあアベルは俺が連れて行くんで事務処理はお願いします」
待って~!と縋る騎士団長を尻目に、何がなんだかまだよくわかっていないアベルを、カイはずるずると引っ張っていく。
「まあ、アレが団長だ」
遠い目をするカイの肩を、カイの手から逃げ出したアベルはそっと叩いた。
「がんばれ…」
「それで、ここが俺達が所属する、『朱』の寄宿舎だ」
一度もとの玄関まで戻り、右に曲がったところにある建物を手で指し示しながらカイは言った。
「おー。ちなみに、さっきのところは?」
「あぁ、あそこは蒼だな。騎士団長が一番最初に配属されたところで古巣だから、あそこに団長室があるんだよ」
「色で名前がつけられてるんだねぇ」
そんなことを言いながら階段を登り、端っこの部屋まで歩く。
「ここがアベルの部屋だ。本来は四人部屋なんだが、いまは人数の都合上、一人しか使ってない。そいつは今日は非番だから部屋にいるはずだ」
カイがその部屋のドアを叩いた。
「おーい、起きてるか、カイだが…」
中からはなんの物音も返ってこない。
「だめだ、やっぱりこいつ寝てるわ…というわけで、これアベルの分の鍵。開けて、入ってみて」
カイから渡された涼やかな銀色に光る鍵を、アベルが鍵穴に差し込むと、カチッと小さな音がして、錠
が回った。
ドアノブをひねる。
「すいませぇーん、失礼します…」
身を縮めて入っていくアベルの横を、カイが堂々と入っていく。
「おい、起きろベン!」
「んぁ…子猫ちゃん達、俺はもう帰らないとカイに怒られる時間…ヘブッ」
「まぁた女遊びしてたのか!早寝早起きは剣士の基本だ!」
きちんと切り揃えられた薄紫のサラサラヘアーの青年が、寝ぼけているらしい様子で起き上がったところを、カイが容赦なく枕でぶん殴る。
若干引いて見ていたアベルに、青年が声をかける。
「おや、君が俺の新しいルームメイト?よろしく」
「名を名乗れ!ったく、こいつはベン・クレイン。これでも貴族の端くれだ」
「これでもって、酷いなぁ。」
「まあ、そういうわけで、俺は説明したからな!午後の業務があるから、悪いけど後のことはこいつに聞いといてくれ!」
そう言ってカイはダッシュで部屋を出て行った。
まだ流れについていけていないアベルと、にまーっと笑っているベン。
「じゃあ、俺がアベルのことを、あんなところやこんなところへ連れて行くってことで!早速しゅっぱーつ!」
寝起きのまま、ぐちゃぐちゃのシャツとズボンを見につけたベンに、またもやアベルは引きづられていくのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そういえば、クリスマスですね。
クリスマスの話とか、なんも考えてなかったです。
肩こりと頭痛が酷いですが11連勤。
抹茶ケーキ食べたい…
約束の時刻5分前に広場にやってきたアベルは、既に待ち合わせ場所に来ていたカイに声をかけた。
「おはよう。今日は時間通りだったな」
「まあ、さすがにね、アハハ…」
まだ9時頃ということもあり、近くの屋台で朝食を摂っている人もちらほら見かける。
「じゃあ行こうか」
「う、うん!」
「そういえば昨日寄ってたアップルパイの屋台、もう一度寄れたのか?」
「あー、帰り際に寄ってってさ、件のお兄さんに会う約束を取り付けられたんだ!」
「おー、じゃあ、あのアップルパイがもう1回食べられるのか!」
「それ、私が作ること前提で言ってるよね!?」
「アベルが作るお菓子はうまいからな」
カイが嬉しそうに笑う。
アベルは血が顔に上った気がして少し顔を背けた。
そんなアベルに気づかず、カイは上機嫌に歩きながらアベルに話しかける。
「もうそろそろ着くから、用意しといてな。いい人たちばっかだから大丈夫だと思うが」
もう着いちゃうんだ…
そんなことを考えたアベルは硬直した。
カイは歩みを止めたアベルの顔を覗き込む。
「どうした?」
この鈍感!
赤いはずの顔を見たカイは、なんの反応も見せない。
アベルは顔の熱が引いていくのを感じた。
「なんでもないっ!」
歩き始めたアベルに、カイは言った。
「あ、そこ右に曲がるぞ!」
****
門番への顔合わせが済むと、アベルとカイは騎士団の寄宿舎へやってきた。
「ここ、寄宿舎だよね?みんな今いないんじゃないの?」
日中であるから訓練か見回りをしているのではないか、という危惧をしているアベルに、カイが言った。
「あぁ、今の騎士団長が、自分の部屋に近いところの方がいいからって。多分、お役所関連のところと気が合わないんだけだろうな」
カイが楽しそうに言った。
「へー。カイは、騎士団長が好きなんだね」
「まあ、そうだな。尊敬しているよ」
「?複雑そうな顔してるけど、なんかあったの?」
「いや、…見てもらったらわかる」
そんなことを話していると、カイが立ち止まった。
「ここだ。今から入るからな」
コンコン。
「失礼しま…」
「うおー!カイじゃないか!なになに?とうとう僕の直属の部下になる気になった!?」
カイが少し押し開けた扉をこじ開け、20代前半のように見える細身の男が、満面の笑みで両手を広げた。
カイは顔を引きつらせて言った。
「違います。新入団員の紹介に来ました」
「あぁ、例のね、」
男はアベルのことをまじまじと見回した。
「平民の、アベルです!カイに紹介されてきました!」
「僕は騎士団長のルイス・シェパードだよ!じゃあ、カイと仲いいみたいだし、朱のとこで!ところでカイ、これからお茶会を…」
「わかりました、じゃあアベルは俺が連れて行くんで事務処理はお願いします」
待って~!と縋る騎士団長を尻目に、何がなんだかまだよくわかっていないアベルを、カイはずるずると引っ張っていく。
「まあ、アレが団長だ」
遠い目をするカイの肩を、カイの手から逃げ出したアベルはそっと叩いた。
「がんばれ…」
「それで、ここが俺達が所属する、『朱』の寄宿舎だ」
一度もとの玄関まで戻り、右に曲がったところにある建物を手で指し示しながらカイは言った。
「おー。ちなみに、さっきのところは?」
「あぁ、あそこは蒼だな。騎士団長が一番最初に配属されたところで古巣だから、あそこに団長室があるんだよ」
「色で名前がつけられてるんだねぇ」
そんなことを言いながら階段を登り、端っこの部屋まで歩く。
「ここがアベルの部屋だ。本来は四人部屋なんだが、いまは人数の都合上、一人しか使ってない。そいつは今日は非番だから部屋にいるはずだ」
カイがその部屋のドアを叩いた。
「おーい、起きてるか、カイだが…」
中からはなんの物音も返ってこない。
「だめだ、やっぱりこいつ寝てるわ…というわけで、これアベルの分の鍵。開けて、入ってみて」
カイから渡された涼やかな銀色に光る鍵を、アベルが鍵穴に差し込むと、カチッと小さな音がして、錠
が回った。
ドアノブをひねる。
「すいませぇーん、失礼します…」
身を縮めて入っていくアベルの横を、カイが堂々と入っていく。
「おい、起きろベン!」
「んぁ…子猫ちゃん達、俺はもう帰らないとカイに怒られる時間…ヘブッ」
「まぁた女遊びしてたのか!早寝早起きは剣士の基本だ!」
きちんと切り揃えられた薄紫のサラサラヘアーの青年が、寝ぼけているらしい様子で起き上がったところを、カイが容赦なく枕でぶん殴る。
若干引いて見ていたアベルに、青年が声をかける。
「おや、君が俺の新しいルームメイト?よろしく」
「名を名乗れ!ったく、こいつはベン・クレイン。これでも貴族の端くれだ」
「これでもって、酷いなぁ。」
「まあ、そういうわけで、俺は説明したからな!午後の業務があるから、悪いけど後のことはこいつに聞いといてくれ!」
そう言ってカイはダッシュで部屋を出て行った。
まだ流れについていけていないアベルと、にまーっと笑っているベン。
「じゃあ、俺がアベルのことを、あんなところやこんなところへ連れて行くってことで!早速しゅっぱーつ!」
寝起きのまま、ぐちゃぐちゃのシャツとズボンを見につけたベンに、またもやアベルは引きづられていくのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そういえば、クリスマスですね。
クリスマスの話とか、なんも考えてなかったです。
肩こりと頭痛が酷いですが11連勤。
抹茶ケーキ食べたい…
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる