アベル、騎士団に入る。

桐谷 渚

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「お、おはよー」
約束の時刻5分前に広場にやってきたアベルは、既に待ち合わせ場所に来ていたカイに声をかけた。

「おはよう。今日は時間通りだったな」
「まあ、さすがにね、アハハ…」

まだ9時頃ということもあり、近くの屋台で朝食を摂っている人もちらほら見かける。

「じゃあ行こうか」
「う、うん!」
「そういえば昨日寄ってたアップルパイの屋台、もう一度寄れたのか?」
「あー、帰り際に寄ってってさ、件のお兄さんに会う約束を取り付けられたんだ!」
「おー、じゃあ、あのアップルパイがもう1回食べられるのか!」
「それ、私が作ること前提で言ってるよね!?」
「アベルが作るお菓子はうまいからな」

カイが嬉しそうに笑う。
アベルは血が顔に上った気がして少し顔を背けた。
そんなアベルに気づかず、カイは上機嫌に歩きながらアベルに話しかける。

「もうそろそろ着くから、用意しといてな。いい人たちばっかだから大丈夫だと思うが」

もう着いちゃうんだ…
そんなことを考えたアベルは硬直した。
カイは歩みを止めたアベルの顔を覗き込む。

「どうした?」

この鈍感!
赤いはずの顔を見たカイは、なんの反応も見せない。
アベルは顔の熱が引いていくのを感じた。

「なんでもないっ!」

歩き始めたアベルに、カイは言った。

「あ、そこ右に曲がるぞ!」


****

門番への顔合わせが済むと、アベルとカイは騎士団の寄宿舎へやってきた。

「ここ、寄宿舎だよね?みんな今いないんじゃないの?」

日中であるから訓練か見回りをしているのではないか、という危惧をしているアベルに、カイが言った。

「あぁ、今の騎士団長が、自分の部屋に近いところの方がいいからって。多分、お役所関連のところと気が合わないんだけだろうな」

カイが楽しそうに言った。

「へー。カイは、騎士団長が好きなんだね」
「まあ、そうだな。尊敬しているよ」
「?複雑そうな顔してるけど、なんかあったの?」
「いや、…見てもらったらわかる」

そんなことを話していると、カイが立ち止まった。

「ここだ。今から入るからな」
コンコン。
「失礼しま…」

「うおー!カイじゃないか!なになに?とうとう僕の直属の部下になる気になった!?」

カイが少し押し開けた扉をこじ開け、20代前半のように見える細身の男が、満面の笑みで両手を広げた。
カイは顔を引きつらせて言った。

「違います。新入団員の紹介に来ました」
「あぁ、例のね、」

男はアベルのことをまじまじと見回した。

「平民の、アベルです!カイに紹介されてきました!」
「僕は騎士団長のルイス・シェパードだよ!じゃあ、カイと仲いいみたいだし、朱のとこで!ところでカイ、これからお茶会を…」
「わかりました、じゃあアベルは俺が連れて行くんで事務処理はお願いします」

待って~!と縋る騎士団長を尻目に、何がなんだかまだよくわかっていないアベルを、カイはずるずると引っ張っていく。

「まあ、アレが団長だ」
遠い目をするカイの肩を、カイの手から逃げ出したアベルはそっと叩いた。
「がんばれ…」

「それで、ここが俺達が所属する、『朱』の寄宿舎だ」
一度もとの玄関まで戻り、右に曲がったところにある建物を手で指し示しながらカイは言った。

「おー。ちなみに、さっきのところは?」
「あぁ、あそこは蒼だな。騎士団長が一番最初に配属されたところで古巣だから、あそこに団長室があるんだよ」
「色で名前がつけられてるんだねぇ」

そんなことを言いながら階段を登り、端っこの部屋まで歩く。

「ここがアベルの部屋だ。本来は四人部屋なんだが、いまは人数の都合上、一人しか使ってない。そいつは今日は非番だから部屋にいるはずだ」
カイがその部屋のドアを叩いた。

「おーい、起きてるか、カイだが…」

中からはなんの物音も返ってこない。

「だめだ、やっぱりこいつ寝てるわ…というわけで、これアベルの分の鍵。開けて、入ってみて」

カイから渡された涼やかな銀色に光る鍵を、アベルが鍵穴に差し込むと、カチッと小さな音がして、錠
が回った。
ドアノブをひねる。

「すいませぇーん、失礼します…」

身を縮めて入っていくアベルの横を、カイが堂々と入っていく。

「おい、起きろベン!」
「んぁ…子猫ちゃん達、俺はもう帰らないとカイに怒られる時間…ヘブッ」
「まぁた女遊びしてたのか!早寝早起きは剣士の基本だ!」

きちんと切り揃えられた薄紫のサラサラヘアーの青年が、寝ぼけているらしい様子で起き上がったところを、カイが容赦なく枕でぶん殴る。

若干引いて見ていたアベルに、青年が声をかける。

「おや、君が俺の新しいルームメイト?よろしく」
「名を名乗れ!ったく、こいつはベン・クレイン。これでも貴族の端くれだ」
「これでもって、酷いなぁ。」
「まあ、そういうわけで、俺は説明したからな!午後の業務があるから、悪いけど後のことはこいつに聞いといてくれ!」

そう言ってカイはダッシュで部屋を出て行った。

まだ流れについていけていないアベルと、にまーっと笑っているベン。

「じゃあ、俺がアベルのことを、あんなところやこんなところへ連れて行くってことで!早速しゅっぱーつ!」

寝起きのまま、ぐちゃぐちゃのシャツとズボンを見につけたベンに、またもやアベルは引きづられていくのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そういえば、クリスマスですね。
クリスマスの話とか、なんも考えてなかったです。
肩こりと頭痛が酷いですが11連勤。
抹茶ケーキ食べたい…
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