とある伯爵の憂鬱

如月圭

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 マリアはスチュワート伯爵家の一人娘だった。黒髪黒目で大人しやかな性格で、趣味はお菓子作りと刺繍で、パット見たら、平凡な女の子だった。国立高等学校の三年生で、婚約者は、王家の近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵である。ジルは金髪碧眼の二十五歳の美丈夫で、大変モテた。十八歳のマリアにとって、とても大人なジルは優しく、包容力があった。しかし、近衛騎士の仕事は大変そうだった。何故なら、王族の警護という仕事がある。

 現国王チャールズ三世の王子、王女の中でも、第二王女のアイリーン王女は、ジルがとてもお気に入りで、何かとジルを自分の護衛騎士にしたがった。体の弱いアイリーン王女に国王は昔から弱く、態度も甘々で我儘放題に育った。アイリーン王女は、今年十七歳になる国立高等学校の二年生である。

 三年制の王立高等学校は、マリアも通っていた。いつも学校にアイリーン王女が通学すると、護衛騎士として、ジルの姿があった。警護というよりは、王女がジルの腕を取って、恋人のように人々の前に現れるので、王女とジルが懇意にしている、と噂がたった。ジルは、王女の約束を優先していたが、マリアへの配慮も忘れなかった。何かあれば、手紙で文通をしていた。学校でも、王女の目を盗んで、会いに来ていた。

 マリアはそれが嬉しくて、ジルの仕事が大変なのを知り、マリアは、王女の目を掻い潜って、ジルに手作りのサンドイッチを自分で作り、

 「昼食にどうぞ」

 とジルに渡した。ジルは嬉しそうに目を細め、

 「ありがとう、マリア」

 とオデコにキスをした。マリアは顔を真っ赤にして、

 「どういたしまして、お役に立てて、光栄ですわ、どうかお仕事頑張って下さいませ!お体に気をつけて下さいませね」

 と言った。ジルは満足そうに、マリアの姿を見て、王女の警護に戻って行った。
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