マリオネットが、糸を断つ時。二

せんぷう

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アスターの罪

家族

『かっ、かわ…かわいっ…!!』

 まんまるの瞳。まぁろい、ほっぺ。ちっちゃな手に、乳の香り。

 タタラは魔人によって赤ん坊へと退化してしまったが…赤ん坊になったことで過去の記憶は封じられた。来る日が訪れるまで、彼は普通の赤ちゃんだ。

『僕が親ですッ!!』

【やーい、嘘吐きやろぉー】

 叶わなかった赤ちゃんとの対面が、こんな形で現実となるとは思わなかった。自分が健康に産んであげられなかったから、長男には…本当に申し訳ない。だけど、その欠片が目の前の子どもに受け継がれているのだと思うと愛しさが爆発した。

 キャッキャと笑う可愛い赤ちゃんを抱きしめていると、床で魔力不足でぶっ倒れている魔人がなんか言ってるけど気にしない!

 天使だ!!

【ていうかさぁ。こっちって、男同士でも妊娠するの? 自然に?】

『え? はい…そうですよ?』

【…ほー。へー。

 …クロもそういう風にしといた方が良いのかなぁ…】

 何か呟いた後で魔人がその日の夜、眠るタタラに何かしらの魔法を更に重ねて掛けていたのを見たが…彼がすることなら、タタラにとって良いことなんだろうと気にせず眠った。

 それまでは床で雑魚寝をしていた僕は、赤ちゃんになったタタラと一緒に眠るようになった。

 乳をやり、おしめを替え、泣いたらあやして、抱っこをする。タタラは赤ちゃんになると凄く表情が豊かになり、よく笑う子になった。たまに出掛けては帰って来る魔人を二人で迎えるのは…まるで、

 まるで家族になったような不思議な気分だった。

『はぁ…。こんなに可愛くてどうしましょう。絶対に将来言い寄られます!! だってこんなに可愛いんですよ、ていうか少年時代も現に可愛かったし!

 言い寄ってきた奴らを纏めて吹き飛ばす時限式の魔法とかないんですか?』

【それ空間魔導師のお前の役目じゃん…。

 まぁ、お前の息子の魔核の影響で黒い色は徐々に薄くなるはずだから。…黒い内にちょっと拝借しちゃうか? 黒髪はレアだからなぁ】

 物騒なことを言う魔人を睨み付け、タタラを隠すように抱きしめる。言いたいことがわかったようで魔人も冗談だよぉー、なんて言いながら再び部屋を出て行った。

 なんて奴だ。全くもう!

『ぅ?』

『ごめんね。アイツも本気じゃないんですよ。多分…君を人間の世界に渡すのが嫌なんです。本当は自分が抱えて魔の世界へ連れて行きたいのが本音かと』

 それをしないのは…この子が人間の世界で生きた方が良いと判断した結果なんだろう。

 何も知らずに僕の手で遊び始めた無邪気なタタラに微笑めば、嬉しそうに彼も笑う。

『…っ、もう…小悪魔さんなんだから』

 えい。と頬を突けば予想以上のプニプニ、もっちり肌に衝撃が走る。しかしタタラは遊んでくれていると判断したのか指を咥えてむにゃむにゃと頬張った。

『触って!! 触ってみてください!! もっちもちです、凄いんです!』

 帰ってきた魔人にタタラを抱っこしたまま迫り、あのもち肌を堪能させるべく押し付ければそのままタタラを取られてしまう。

 呆れたようにジト目で見下ろす彼に必死に手を伸ばしてタタラを返すよう抗議する。

【…何時だと思ってやがる。俺様が寝かし付けるから、お前さっさと寝ろぉ…】

『だ、ダメ! 僕がタタラと一緒に寝るんです!』

 貴重な親子の時間を奪うだなんて、悪魔なのかと問えば親子でもなければ魔人だと真っ当な返しをされてしまった。

 ふん。

 面白くない奴ですね!

『ほら! 僕が抱っこしていた方が嬉しそうです、やっぱりわかるんですよ!』

【変わってねぇよ。早く詰めろ、俺様が入れない】

 この頃には何故か三人川の字になって寝るのが当たり前になっていた。タタラを真ん中にして、それを挟むように僕らが横になる。タタラは本当によく寝る子で夜はぐっすり。

 魔人曰く、魔核に馴染むためには寝ている方が良いらしい。それでも何かあったら大変だからと夜はこうして三人で寝る。

 なら何故僕がいるかって?  

 それは…。

『まっ。まぁ』

『うぅっ!!』

『まぁ! まぁ…』

『はい! 君の母さんだよ!』

【チガウチガウ】

 僕を呼ぶんです、僕のことを親だと思ってくれてるんですっ…!!

 布団の中でピッタリくっついて抱きしめれば、ニコニコと笑顔のまま僕の頬に擦り寄るタタラ。

 あーやってられません、愛し過ぎてもう何もやってられないです! 呼吸すら忘れてしまう!

【…随分とまぁ本物みたいになっちまってさぁ。良いのぉ? 俺様たちは異世界の敵同士。

 のお前には辛い相手だろぉ…】

 魔人の言葉に、本当に呼吸を忘れてしまう。

 薄暗い中で彼の表情はよく…わからなかったけど、ウトウトしだすタタラのお腹を布団越しに優しく叩く姿はいつも通りだった。

【調べてきたからなぁ。ま、それじゃなくてもわかるだろ…異世界の人間がなんて知らねぇ単語を言ったはずが、お前は理解してた。

 王族の中でも稀に生まれるの持ち主。人間は王権とか言ってたかぁ?

 …別に、今更お前が王族だろぉが驚かねぇよ。むしろ納得したわなぁ】

『どうして…。だって、戦争を仕掛けた世界の王族が、憎かったはずじゃ…』

 スヤスヤと寝息を立てるタタラを撫でながら、次に彼は僕へ手を伸ばした。骨張ったその手が近付き少しだけ身構えたが、成るようになれと受け入れる。

 だけどその手は、ただほんの少しだけ僕の頭を撫でただけですぐに引っ込んだ。

【…王族はその血筋全てに魔法を仕込んだ。自分たちの一族が、設置した異世界式魔楼道に残った僅かな痕跡を頼りに侵入者を探せるように、なぁ。

 だからお前がタタラを見つけたのは偶然なんかじゃないんだろ。王族だからこそ惹かれるものも、あっただろうよ】

『…そんな、僕…』

 そんなつもりはなかった。

 そもそも自分は王家の中でもかなり下の血筋とされる家の者。魔力もそこそこだし、属性は珍しいがそれだけ。この目も…偶然僕に宿っただけで一日一回くらいしか使えない代物だ。

 戦地にも赴けず、役立たずの烙印を押され…親も亡くなり…兄はいたが僕は家を出て結婚するから、ただのリーベとなった。

『僕っ…僕は、タタラのこと…』

【俺様はお前で良かったよ】

 弾けたように起き上がり、彼を見る。

【…お前がこの子を見つけて、愛してくれて良かった。赤ん坊の内は愛情が必要だ。人ですらねぇ俺様だけじゃ足りなかったかもしれねぇ。

 色んな感情を乗り越えて、それでもこの子に笑いかけてくれるお前がいて、良かった。

 。礼を言う。そして警告だ。

 これ以上はお前の命を奪うことになる。当初の計画はなしにしても良い。今なら、逃げて良い。でないとお前、本当に死ぬぞ】

 タタラは今の時代じゃ生きられない。ずっとダンジョンの中だけで生きるなんて無理だ、いつかはバレてしまう。

 だからこそ、僕の魔法と魔人の魔力で合体魔法を行い時を超える…それが契約だった。

『馬鹿ですね』

 そしてそんな魔法を使えば、僕はやがて朽ちる。

『こちらこそっ…壊れかけの僕に、たくさんの愛をくれて感謝し足りないんです。夢を叶えてもらいましたから、貴方たちには。

 素敵な家族を、最後まで守らせて下さい』

 それでも良いと胸を張れる。だって僕は、タタラの親だから。子どもを守るなんて素晴らしいことを…そんな機会が貰えた。

 僕は君たちが誇らしいんだ。


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