マリオネットが、糸を断つ時。二

せんぷう

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アスターの罪

良い子は、ねんねしな

『お゛ーい。お前いつまで缶詰してんです? 夕ご飯なんですけどー。このオレヴィオ様が直々に用意してやった有り難い飯よ?』

『要りませーん!! 絶対! 誰とも! 顔なんか合わせませーん!』

 何それ可愛くねー! という絶叫が扉の外からしたが構うものか。

 時刻は夜。外から逃げるようにダッシュして与えられた自室に籠るオレは、細やかな反抗期を迎えている。アーエードよりテメェの初恋は気のせい発言を頂いたオレは最高にキレていた。

 何が運命だ、ディスティニーじゃなくてフェイトでしたってか!!

 どいつもこいつもオレの人生を一体どうしたいっつーのよ!?

『なぁ食えよー。上でバロックが人間相手に遊んでやがるし、アーエードの野郎はダンマリだし…お前は人間なんだから食わなきゃやってけねーんですけど?

 …ターターラー?』

 コンコン、としつこさの割には控えめなノックが聞こえるが扉にはオレの糸魔法により糸が雁字搦めになって籠城の意志を表している。

 冷えたベッドに飛び込みドラゴンと共に寝転がるオレはオレヴィオの声など聞こえないとばかりに扉に背を向けた。

『怒っちゃったのかい?』

『そー。全然出て来なくなりましたっと…。何も食ってないから腹減ってるでしょうに、ったく。バロックもアーエードも、早く手に入れたいからって急ぎ過ぎでしょ…』

 やがて声が聞こえなくなると、もう部屋の前には誰もいなくなったらしい。静かになったら色々なことが頭を占める…まだ温まらないベッドから抜け出して部屋に設置された窓から見える月を見上げた。

 月は同じだ。地球と殆ど一緒で、柔らかな光が心地良い。

『…どうしたら良いんだろうな』

 王子はどうしているだろう。

 オレなんか拾わなければ良かったと思っているだろうか? 関わらなければ、もう少しこの世界は長らえたと後悔しているだろうか。

 別の世界の人間なんて…嫌われたに、違いない。

『もっと一緒にいれば良かった…。たくさん触れてもらえば…

 でも、それはそれで思い出したら辛いか…』

 いやいや。自分が傷付いたことなんかどうでもいい、今はこの世界の全ての命が懸かってる。

 そう奮起しようとしたのに何をする気にもならなければ、頭も回らない。この世界とオレはどうやったって水と油。

 何かやって…それが上手くいって、果たしてどうなるというのか。この世界の人々が喜ぶとはとても思えない。今だってオレの同胞が同じように世界を一つ滅ぼそうとしている。そんな奴等の仲間であるオレが何かしたところで…。

『どうしてオレなんだよ…もっとさ、他にいただろ…こんな状況でもスパッと華麗に問題を解決できるような人がさ…なんでっ、なんでオレかなぁ…。

 オレには…何もないよ。助けたくても、どうしたら良いかなんて…わかんない…わかんないよ』

 生きてほしい。

 例え、もう一緒にいられなくても王子に生きていてほしい。

 故郷と同じくらい美しく、優しさを兼ねたこの世界で。過去の罪は消せない。オレには裁く権利があるかもしれない。

 だけど。

 嫌だ。あんな風に、地球のような最後に見たあの酷い光景が…またこの星でも起こるなんて耐えられない。大切な人たちがまた同じように悲劇を繰り返すなんて、そんなの…もうたくさんだ。

『オレ、千年も生きたのに頼りないなぁ…お前もそう思わない?』

 隣に置いたぬいぐるみは、同じように月を見上げている。

『お前も千年を生きるドラゴンさんなんだろ。知恵を貸してよ…。

 誰か…一緒に世界、救ってくれないかなぁ…』

 なぁんて。

 それこそ、勇者にでも言わなきゃいけないのにドラゴンのぬいぐるみに頼むなんて。

 やめやめ、寝ようとドラゴンに手を伸ばしたのに…いつまで経っても隣にあったドラゴンを触れない。床に置いていたはずが、倒してしまったのかと見てみるが…いない。

 ドラゴンがいない?!







 パタパタパタ。

 パタパタパタパタ。







【良いよぉ】


 短い羽を動かしながら、不恰好としか言えないけど確かにそれは飛んでいた。いや飛ぶだけならまだしも今…喋った…ような?

【だぁから良いよってばぁ】

『シャベッタァ!!! トンダァ!!?』

 うるさ。と一言呟きながら、ドラゴンはドンッと目の前に座る。紛れもなくオレのドラゴンぬいぐるみ。咄嗟に体を掴んで背中のファスナーがないかを見たりケツに電池がないか確認したがない。

 まっさらだ。

【でも明日で良ぃよねぇ? クロはもう寝んねの時間だよぉ】

 寝んねて。

 赤ちゃんかよ、オレは。

『あ、あの…えぇ? おまっ…いつからぬいぐるみ辞めたの…?』

【正確には、ただ入ってるだけぇ】

 やっぱり電池?

 なんて馬鹿なことを考えていたら、突然ドラゴンの影がぐにゃぐにゃと動き出し…ぬいぐるみがパタリと倒れて代わりにとんでもない奴が出てきた。

 骨の翼。

 黒い髪に、青い瞳。

 体の周りに人魂みたいな青い炎を灯すその姿は、間違いない。

 リーベの魔人。

『ぎゃああああああっ!!』

【久し振りの再会に絶叫される身にもなってくれる? やれやれ、折角知らないフリしてあげてたのに…も少し上手くやれなかったわけぇ?】

 魔人が何を言ってるかはまるでわからない。だけど、敵意はないようでずっとオレの反応を見ては笑っている。

 …あ。

『そ、そうだ…あの、オレ…お前に助けてもらったって聞いた…』

【うん。死にそう、ってか死んでたから慌てて飛んで行ってあげたんだぁ。まだ魔王共はお前に気付いてないし死なれたらこの世界は本当の意味で終わりの中の終わりをキメるとこだったからさぁ】

 やっぱり、そうだったのか。

 慌てて床に正座してからべチャリと上半身と両手を床につける。

『あ、ありがとうございましたっ! 暫くしてダンジョンの近くにも行ったけど会えなくて、どこ行っちゃったか心配だったんだ』

 どういう意図かは知らないが、リーベの魔人は間違いなく命の恩人だ。再度ありがとうと繰り返すと骨張った手が触れて、顔を上げるようにされる。

 優しい顔だった。何かを思い出すような優しい目をして、眩しいものを見るみたいに細めてから彼は笑った。

【…やっぱ。親子だよなぁ…血、繋がってねぇけど】

『え? 親?』

 何が、と質問したかった口をそっと指で押さえられると魔人は立ち上がって窓を開く。

【行くぞ】

 無防備に向けられた背中に飛び乗り、どこに添えようか迷っていた手を遠慮なく首に回すよう言ってくれた。

【寝れねぇなら、散歩に連れてってやる】

 広く大きな背中はひどく安心感を与えてくれた。

【良い子だなぁ…。

 寝ていろ、タタラ。見せてやるから…お前をこの世界で一番愛して、送り出した愚かで騒がしい男のことを。

 お前は運命なんて巫山戯たもんに愛されたわけでも、奇跡なんて面倒なもんに生かされたわけでも、まして定めだなんて最悪なもん背負わされたわけでもねぇよ。

 ただ。たった一人の男に愛されて、どうかこの世界で生きてくれと願われた…普通の男の子なんだからなぁ】


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