マリオネットが、糸を断つ時。二

せんぷう

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運命の糸を宿した君へ

君の出番

【それでぇ? 一日に二人から求婚されたご気分はぁ?】

『もう…置いて行って悪かったってば。鼻提灯揺らして寝てたリィブルー可愛かったのになぁ』

 リューシーに抱きしめられたままアンクレットを見ていたところ、聞き慣れた羽音が上空から聞こえて華麗にリューシーに着地したリィブルー。肩に足を、両手を頭に乗せてガジガジと頭に齧り付くものだから必死に尻尾を引っ張って引き剥がした。

 置いて行かれてプリプリ怒るリィブルーは甘えるようにオレの膝に体を丸める。勿論オレの膝では小さくて、すぐにずり落ちてしまうのだが必死にしがみ付いて耐えているのだ。

 …かわゆい。

『二人…、あの神殿のエルフか』

 すぐバレるじゃん…行動バレバレだぞ、師匠。

『闇のエルフであれば好意を向けた対象には愚直なまでに真っ直ぐ愛を捧げるのは当然である。…基本的に彼らは相手が頷くまで付き纏うものだ』

『…監禁待ったなし、か…』

 ハートを乱舞させながら喜ぶ自分の師が容易に想像出来てしまい、軽くヘコむ。

【お前も同類だろぉが。どいつもこいつも、ウチの可愛いガキに首ったけでまぁ…当然だなぁ!】

『ふむ。可愛く育てていただき、感謝の念が堪えない限りである』

 ぬいぐるみに深く頭を下げるリューシーに、満更でもなさそうに尻尾をタシタシと地面に叩き付けながら上機嫌にオレの膝に頬を寄せるリィブルー。

【しょぉがねぇなぁ~。まあ? 大事に大事にするってんなら、貸してやるか】

 膝から離れてしまったリィブルーは、自分で翼を動かして飛び立つ。自分の方がよっぽど可愛いくせにと文句を言ったところで、影が差して暗くなった。

 日輪を背負ったように光を纏うリューシーが、なんだか本当にカッコイイ。ポーっと彼を見つめていたらオレの顔を見たリューシーがギョッと目を見開いてから慌てて視線を逸らすようにそっぽを向く。こちらに向いた耳は真っ赤で、一体どうしたことかと思うが空から聞こえた声によって答えとなる。

【どぉしたタタラぁー! そぉんな惚れちまったよぉな熱い視線なんか向けちまってよぉ!】

『ぅえっ!?』

 オ、オレ…そんな顔してた!?

 顔を覆ってしゃがみ込んだオレを、空を旋回しているらしいリィブルーがずっと揶揄ってきて喧しい。だけどリューシーはすぐにオレの顔を覆う手を掴んだかと思えばグッと顔を近付けて頬にキスをする。

 また更に熱を集める顔を覗き込んだ彼は、意地悪そうな顔で笑ってしゃがんだオレを抱きしめたまま立ち上がると反対側の頬にまでキスをした。

『んっ…リューシーっ…』

『…止まらなくなってしまう。ああ、タタラ…我が愛しい人…最愛なる伴侶となる人っ早く…早く、我を受け入れてほしい』

 結局…リューシーがいつまでもオレを離さずにいるものだから、リィブルーが怒ってしまい渋々オレを抱えた彼は空へと飛び上がる。広い胸に寄りかかりながら、そっと顔を埋めてみた。

 …さっき洗濯してくれたせいか汗臭い。

『だけど…、うん。嫌いじゃない…』

 うっとりしながらスンスンと鼻を動かしているとリューシーが顔を覆っていたので、そっと離れてから咳払いを一つする。

 …だってリューシーってば、ノースリーブのせいか汗の匂いがすぐわかるから…。いやこんだけ鼻押し付ければ普通か…。

『次から着替えるなんて言ったら、嫌いになる』

『お、思っていたことがわかるのであるか?!』

 危機察知能力高いからな、がはは!!

『…汗の匂いするリューシー…好きなんだ』

 だから長袖着るとか言わないで、と言うと変な声を上げながらリューシーの胸に押し付けられた。メロメロな顔してオレを見つめるリューシーがヘロヘロな飛行を繰り返すため…先行しているリィブルーがめちゃくちゃキレてしまい、大変だったりする。

 なんとか城まで戻ると…そこには珍しい人が出迎えに来ていた。

『どーこ行ってたんです…もうカンカンなんですがぁー…』

 シルクハットを抱きしめて、トホホ…と言わんばかりに項垂れるのはレレンだ。リューシーに下ろしてもらって話を聞けば何ということだろう。

『城下の騒ぎ、報告を受けた王様は気絶するわ…お宅の王子様は即刻首を刎ねろと騒ぐは…もうしんどいです。早くどうにかして下さい…』

 君の出番です、とレレンが手を差し出す。

 それを見てリューシーを振り返ると…彼は深く頷いてから包み込むような優しい笑顔でオレを見送ってくれた。

『早く殿下との話も纏めて、我が元に帰って来てほしい。待っている…ずっと。貴殿がそれを身に付けてくれるのを、信じている』

『…うん。もう少しだけ待ってて、リューシー』

 グッと腕を引いてリューシーの体を傾けると精一杯の背伸びをして、チュッと彼の頬にキスのお返しをしてやった。バッと頬に手を当てて…信じられない、とばかりにこちらを見るリューシーになんだか腹を立てながら尋ねる。

『…なんだよ。嫌、だったのか』

 自分はあんなにチュッチュしてくる癖に、人にされた途端にこれはあんまりじゃね?

『…もうしない』

『ま、待て!! 待ってほしい、待つのであるタタラっ…!! 嬉しいっとても…幸せである!! だから頼む、もうしないなどとっ…!』

 チュ。

『…は』

 背中を向けていじけたオレに必死になって取り繕うリューシー。振り返ったオレが少し爪先立ちになったのをすぐに察知したリィブルーが駆け付け、背中を掴んで持ち上げてくれる。

 肩に手を置き、驚いて閉ざされた瞼にキスをしてからすぐに離れるとスタッと地面に着地してから走り出す。レレンの手にしがみ付き、更にリィブルーがオレにしがみ付いた。

『ふふん! お返しだぞ、リューシー! どうだ恥ずかしいだろう!

 またね~。あっ…この服ありがとう、またこれ着るから一緒に出掛けようね』

『…うわ。えっげつな、何この小悪魔…アカン、これは野に放ったら被害者えらい出ますよ…』

【馬鹿め。既に被害者が四人も出てんだろぉが】

 バイバイ、と手を振っていると左右にいるのがなんだか騒がしい。リューシーは未だに唖然としたままで状況を処理し切れていないらしいが、構わずレレンは移動する。

『…っ、はぁ…』

 一人残された、真っ赤な顔をしたまま佇む第一王子守護魔導師に…門番がそっと心の中でエールを送っていたことは、誰も知らない。

『あの子が、我の伴侶…。早く…時が過ぎないものか…』

 
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