マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう

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第十一王子と、その守護者

ハードクエスト

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 オレは、今!!


 最っ高に気分が良い!!


『がーっはっはっは!! 跪けー、敗者め! 許しなく面を上げるでないわ! がはは!!』


『オイ、誰だよ子どもにあんな言葉教えやがって。すっかり悪代官みたいじゃねーか』


『……いや、多分……アイツ自分の主人に似てきたんじゃないか?』


 外野がなんか言ってるけど全然気にならない! だってオレは今、目の前で膝をついたコイツに対して踏ん反り返るので忙しいから!!


 今日も今日とてギルドのクエストを進め、二件ほど終わったところで一旦ギルドに帰って来た。そこでバッタリと出会ったのが、あの憎き守護魔導師リューシー・タクトクトである。そして開口一番に奴はとんでもないことを言い出した。


【決闘を申し込む】


 これにはギルドも大盛り上がり。急ぎ受け付け窓口の職員がギルド長に許可を取るために連絡を入れれば、なんともすんなり許しを得た。そしてギルドの裏手に回り、オレたちの魔法攻撃一本勝負が始まったのだ。


 魔法攻撃一本勝負とは、魔法を一度だけ出してその優劣を競う非常にシンプルなじゃんけんみたいな勝負である。


『えっへっへっへっへ、旦那ァ。負けたらどうするんだい? 挨拶もそこそこに決闘を挑んで負けた気分はどうですか?』


 もう煽りに煽ってやったわ、積年の恨み!! 一ヶ月すら経ってないけどな!


 ギルド裏にある決闘場と言う名の、ただの広場。ただ何度となく誰かが戦ってきた場所のようで草はなく硬い地面が広がっている。その真ん中で一人、腕組みをして偉そうに仁王立ちするオレと足元で膝をついたままのリューシー。


 周りでは賭け事が行われていたらしいが、大半がリューシーが勝つと予想していたらしくブーイングが酷い。なんて勝手な連中だろうか。


『はいはい、オレの勝ち! みんなクエスト行ってくださーい。良いクエスト取られるぞー』


 そう言えば簡単に観客はいなくなる。まだ昼には遠い、クエストを逃しては夕方に二度目のクエストが張り出されるまで良いものは全て他の者に取られてしまうから。スローボードで片っ端から出掛けるオレには全く関係ないが。


 二人だけになった決闘場。鞄を背負い直し、やれやれと彼に目を向ける。


『それで? わざわざこんな茶番に付き合わせるだなんて、アンタ本当にオレのこと嫌いなんだな』


『……いいや。本気で叩きのめせるなら、そうしていた。それが出来なかったら正式に貴殿に謝罪すると決めていたのだ。

 先日の失礼な発言を、謝罪させてほしい。見事な一撃だった』


 魔法攻撃一本勝負。


 考えたのは、彼の属性だ。先日彼は足元からオレに攻撃を仕掛けようとしていた。それは不発に終わりどんな魔法かまではわからなかったが推察はある程度できたのだ。


 城の床に現れた魔法陣。オレのように下手に城のものを壊すはずないし、汚すことも躊躇われる。武器ではなく魔法だった点からそれらの心配がなかった魔法ということ。


 火は論外。


 水は濡れてしまう。


 土も床を汚す。


 光は攻撃に適さない。


 闇魔法にしては早過ぎる魔法。


 古代ほどの魔力は感じなかった。


 そして彼は恐らく個人魔法の使い手でもない。そして残された最も高い可能性があったのが、風。


『糸であれば、我の方が上手であると慢心した』


 オレは彼がオレに先手を譲って来ると確信していた。風魔法で糸を吹き飛ばしてしまえると、そう思うだろうと信じていたから。


『そっ。先手を譲った時点でアンタは負けさ』


 オレが使った魔法はただの拘束魔法。


『拳じゃなくて、掌でやったんだから許してくれよな!』


 リューシー・タクトクトの足元から糸を出し、足と地面を固定してやったのだ。あとは短い足を全力で動かして動揺している内に彼の胸目掛けて平手を食らわせてやった。


 良い筋肉だったぜ!!


『異論なし。罠だろうと防御だろうと魔法によるものだ。見事なり』


 後はお前の好きにしろと言うように地面に正座する大の大人は、結構格好良かった。潔く座して待つ彼に暫く考える。


 ふと見たリューシー・タクトクトは少しやつれたようだった。あの日、オレが王子を連れ去り処刑の件は有耶無耶にされた。王子ももう忘れているだろうが顔を合わせたら面倒臭くなること間違いなし。きっと彼も大なり小なり叱られたことだろう。


『オレなんかに許してもらって、どうすんの? 別に無視したままでも良かったじゃん。わざわざそんな風に謝るほどのことか』


『……貴殿はあの時、我を救ってくれたのだろう。それこそ処刑させれば良かったのだ。それを許さなかったのは色々考えた結果であり我を助けることはついでであったかもしれない。

 それでも、救われた。あんな風に暴言を吐いた我が所業……悔いても仕方ない。だが、撤回だけはさせてほしい。

 貴殿は強く、美しい人間だ』


『うつくっ……?!』


 う、美しいだぁ?!


『その姿も、内面も』


『んなぁっ!?』


 な、なんて恥ずかしい奴なんだ!!


 ていうか前はその見た目について魔人だ、なんだとかって言ってたくせに!!


『……何故照れる? 以前はあまりよく姿を見なかった。顔を隠さずもっとよく見せてほしいんだが』


『なんだコイツすげーグイグイ来るんだけどぉ!』


 やめてぇ、そういうの耐性ないんだからマジでやめてくれ! 


 熱を持った顔を隠そうと両手で交差させるも、その隙間から覗き込むようにリューシー・タクトクトが迫る。彼が膝立ちなのに立っているオレと目線が合う。手を掴まれ、更に近付く端正な顔立ち。あの時はあんなに冷たかったのに……今日は何故か熱を含んだように熱いのだ。


『どうか許してほしい……今後は二度と貴殿を傷付けたりしないと誓おう』


『ーっ、わかった!! わかったってば、だから離れろー! オレを揶揄うなバカリューシー!』


 バクバク鳴る心臓を押さえながら距離を取れば、そこには安心したように微笑む男がいた。花も恥じらい閉じてしまいそうな眩しい笑顔に目をシパシパさせながら取り敢えず手を伸ばす。


『……ほら』


『金銭か?』


『んなわけあるか!! 握手だよ、なーかーなーおーりー!!』


 どのタイミングで金をせびるんだ、オレは。


 呆れて下そうとした手をリューシーがすぐに抱きしめるように掴んできた。大きくて冷たい手が触れ、固く握り合う。


『完全に許してやったわけじゃないんだからな……。気が済むまでお前オレの子分な、子分』


『……子分? 承知した。我はギルドにいる間は貴殿の子分だ。好きに命じてくれ』


 てっきり冗談だと流されるかと思ったのに、予想外の快諾っぷりに拍子抜けする。


 この日からだ。この日からオレは何の縁か以前は敵対していたはずの男と肩を並べてギルドを歩くことが日常となる。今はまだそれを知らない。


 リューシーと和解してそのまま広場にて話し合いは続いた。簡単な自己紹介に、お互いの現状報告。聞けばリューシーもオレと似た状況に陥っていたのだ。


『タタラとの一件でクロポルド団長からもコッテリ搾られてしまった。良い機会だから見聞を広げるためにもギルドで揉まれて来いと締め出されている』


『お、オレもっ……! 殿下の結婚が近いから、もうすぐオレ解雇になるし……だから厄介払い? みたいな感じでここにいる!』


 何という共通の仲間。シンパシーを感じて少し警戒していたはずのリューシーに近付く。


 おお、仲間よ!! ちょっとは心開いてやる!


『貴殿が厄介払い……? あのハルジオン殿下が、か? 俄には信じられないが、貴殿がそう言うのであればそうなのだろう……世の中はわからないものだな?』


『仕方ないさ。結婚を控えてるんだから、繊細な時期なんだよ』


 子どもみたいに足元の草をブチブチと抜いていたら、後頭部を撫でられた。チラリと上を向けば無表情のリューシーがロボットみたいに繰り返し撫でてくる。


『もっとわしゃわしゃ! ってしてくれ』


『心得た』


 豪快にかき混ぜられ、キャーキャー言いながら時を過ごす。話してみれば穏やかで少し天然さを兼ねたリューシーはとても面白い奴だった。同じ守護魔導師という肩書きのせいか込み入った話も出来るし、少し安心する。


 髪を掻き混ぜながら、彼は静かに昔話を始めた。


『もう数年前の話だ。我が魔導師学園リベラベンジの一年生の園外演習に出た際……目的地を同じにした当時の日の輪騎士団と、あるダンジョンで遭遇した。ダンジョンの前で演習を行っていてな、その時にまだ入団したばかりのクロポルド団長もいたのだ』


『リーベダンジョンじゃないのか?』


『ああ。リーベダンジョンは当時はまだ発現して僅かしか経っていないダンジョンだったからな。西の方にあるそのダンジョンは比較的大きなダンジョンだ』


 ダンジョンってのは、結構あるもんなんだな。


 関心して話を聞いていれば、リューシーの表情が暗くなる。崩していた片膝を立ててそこに額をつけ……暫く沈黙をしてから続きを話した。


『……そこで我々は、魔人に襲われた』


 魔人……!?


『日の輪騎士団と共にダンジョンに潜っていた騎士団が、ダンジョンにて魔物に襲われて全滅し……三十名いた騎士団全てを食らって魔人と化した。

 我が学友も、多くが犠牲となり……世話になるはずだった教師たちも死んだ』


 その時、ふと思い出した。


【魔人と戦ったにしてはあまりにも被害が少な過ぎる。死人が一人も出てないなど、奇跡の中の奇跡だ】



 そうか……あの時、リューシーが怒っていたのは。


『我の時は奇跡は起こらなかった。我が生き残ったのは当時の日の輪騎士団団長の命懸けの死闘と、最後の一押しに魔人を葬った……後に最強の騎士と謳われることになるクロポルド団長の力があったからだ。日の輪騎士団団長は死に、未だ若いクロポルド団長が後継にと後押しされた。

 ……すまない、本当に。完全な八つ当たりであった。我はあの恐ろしさを知っていた。知っていたのに貴殿に詰め寄ったのだ。本当にすまない……すまな、かった……』


 そっと彼の服を掴み、隣にある温もりに少しだけ寄り掛かる。髪を混ぜていた手は震えながら肩を掴みオレたちはまるで寒さを凌ぐように寄り添った。


『あんな恐怖の前に、当時の我よりも更に幼い貴殿が立ったのだ。手も足も出なかった……だから今回魔人が出て、そこに自分がいなかったことを怒りはしたが……今でも通用するとはとても思えない。

 ……貴殿はもうすぐ、いなくなってしまう。しかしその間で良い。その少ない時間で構わないから、近くで貴殿の勇気を見せてくれ。

 いつか、いつかまたあの恐怖に立ち向かう時……貴殿の持つ勇気に力を貸してほしい。タタラが、同じように立ち向かったことを思い出すために』


 みんな凄いんだ。


 あんな奴等に、また挑むっていうんだ。まだ、戦うって言うんだ。クロポルド団長殿もトワイシー殿もリューシーも。


『仕方ないなぁ』


 ここを出ても、彼らさえいれば。


『可愛い子分の頼みだからなぁ。聞いてやるか』


 きっと……次こそは。


 だけどそう簡単にいかないのが人生である。


 目尻に浮かぶ光るものを拭いてやったその時、ギルドから受け付け窓口によくいる青年が息を切らして走ってきた。どうしたのかと問い掛ける間もなく、ギルドから耳をつんざくような警報が鳴り響く。


『第一王子守護魔導師リューシー・タクトクト様!! 並びに第十一王子守護魔導師タタラ様!!

 緊急事態です! ハードクエストが発注されました! 西のダンジョン、バビリアダンジョンが崩壊、崩壊です!

 巻き込まれた第六王子タルタカロス様救出のためギルド長命令により御二方に出動命令が!!』


『西の……?』


 振り向けば、真っ青な顔をしたリューシーが震える唇から言葉を落とした。


『バビリア、ダンジョン……』


 近くで、鈴が鳴る。


『魔人が、出た……あの、バビリア……?』


『第六って、確か……シュラマの?』




 波乱、開幕。




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