純潔なオークはお嫌いですか?

せんぷう

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黄金の時代

番の約束

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『カーン隊長…、前線は問題なく快勝しているとのことですが…あの。生きてます?』

『…ナラに、説明…くそ、カシーニの奴に殺される…。

 あ? ランツァーがバカみてぇに張り切ってんだ。どこぞの魔族なんかに負けるかよ』

 戦が始まった。

 しかし、全くの戦力外であるオレは主に応援係である。いないよりは部隊の士気が上がるだろうから激励を飛ばしたり、偵察部隊を労ったりしていた。

 その最中に彼らについても見聞きする。

 曰く、性奴隷というのは戦場にてたかぶってしまうオークをしずめる為の道具。性的な欲求解消が最も効率が良いとされ身体が交われる種族であれば誰でも捕まえて戦用の性奴隷にされてしまう。

 全くなんてことだ。

『若君に性奴隷は必要ないだろ…、てかカーン隊長が若君に他のオークが触れるだけでも容赦なく捻り潰すってのによ』

『いやいや~。坊ちゃんにだって決める権利はあるだろう? 将来カーン隊長を選ぶとは限らないわけだ』

『お前それ絶対隊長の前で言うなよ』

 豪勢な玉座に座らされ、ただ待機するのは退屈だ。最初こそお行儀良く座っていたが一時間もすれば疲れてしまう。

 ランも天幕からいなくなっちゃったし、暇過ぎるよなぁ。

『ナラたち勝てる?』

『ふふっ、若。今の世代のオーク軍は負けなしですよ。あなた様はただそうして待っていて下されば…我々オークが勝利をお送り致します』

 隣の玉座には誰も座っていない。

 ここは後方遊撃隊でありながら全く陣地を動かす気配はない。天幕を張ってこんな豪勢な玉座まで設置したのは、つまりは俺の為だから。

 それでもオークたちは平伏し、絶対の服従をこんな子どもに誓う。

『…わかった。

 オーク軍に勝利を。お前たちを信じる』

 それから間もなく、第一陣が勝利を収めたところで日が沈み夜を迎える。夜に強いオーク軍をわざわざ強襲きょうしゅうするはずもなく戦争の一日目は終わろうとしていた。

 正に最強の代と言われるに相応しい一日だ。

『お疲れ様でした』

『ナっ、ナラ…! わざわざランを待っててくれたのか?!』

 オレが過ごすのは陣地の最深部に置かれた天幕。中に入ると手前に二人掛けのソファとテーブルがあり、奥には天蓋付きの巨大なベッドがある。

 本来ならキングオークでも二体同じ陣地にいれば個人の天幕も一つずつだが、戦闘能力が低くまだ子どものオレは護衛という名目でランと一緒になった。

 小さい頃とかも一緒に寝てたし、全然大丈夫なのだが…何故か父さんは嫌がりまくったらしいのだ。

『うん。今日はあんまり一緒にいて話せなかったから…もう帰って来て平気? もう出ない?』

『火急の知らせでも来なきゃ平気だ。

 ごめんな、初陣なのに傍にいてやれなくて…不安にさせた』

 入口まで来たオレを軽々と抱き上げたランと額を合わせる。入って来た時は少し疲れたような顔をしていたが、見間違いだったかと思うくらいにはなんだかキラキラしたイケメン顔だ。

 …どゆこと??

『みんながいたから、大丈夫だよ。それに見える場所にいなくてもランがいたんだ。それだけで俺は無敵だよ』

 いや、この場合…オレたちは無敵、か?

 まぁいいかと片付けると欠伸を漏らしながらランの首に腕を回して抱きしめる。懐かしくて、ずっと昔から近くにある安心する匂いをいっぱい肺に入れた。

 …うん。ランの匂いだ。

『やっぱりランが一緒で良かった』

 きっと他のキングオークがいても、安心して初陣を飾ることは出来た。勿論父さんだって…誰よりもオレを護ろうとしてくれただろう。

 だけど。

『ランがいい』

 よくわからないけど一番は、ランだから。

『っ…ナラ、…ナラ!』

 俺はすぐ近くにいるのにランが焦ったように名前を呼んで、強く優しくかき抱かれる。ふと見えた耳は真っ赤っかでなんなら声すら震えていた気がするけど?

『ナラ! …、ランはナラが好きだ!

 ナラは覚えていないだろうが、一番最初に名前を呼んでくれたことも。いつも笑顔で駆け寄って来てくれた時も。泣いている時はどうしようもなくなって、すぐに近くに行きたくなる…、離れた時は身が引き裂かれるような苦しみが襲うんだ。

 苦いものは嫌いなのに料理下手で下拵えもマトモに出来ないからしょっちゅう料理を苦くするカシーニの奴が作った料理を、必ず食べるところも。

 ランに抱っこされるとすぐにあったかくなって眠っちまうところも。

 全部、ぜんぶ…!! 余す所なくお前への好きで満ちている』

 グッと顔が近づいて来て思わず頬に手を添えると、その手に手を重ねられてゆっくりと絡んだ。

『お前が大きくなって、その時に俺様のことを少しでも…好きでいてくれたら! ずっとずっと、お前の隣にいることを許してくれるか?』

『…ランが、ずっと隣…?』

 カクン、カクン…と上下する重たい頭。ポカポカしてきて心地良い。無性に横になりたい。この瞼が重くて仕方ない。

『い、嫌…か?』

 ランが…ずっと、オレの隣。

 この手を伸ばせば必ず握ってくれる。

『うん…、いいよ。大きくなったらずっと一緒って、こと…だよね?

 …ふふっ、うれしーっ。どうしてナラがしてほしいことがわかるの?』

 ランがずっと一緒にいてくれるなんて夢みたいだ。

 …ん? ずっと? って、いつまでだ…?

『かっ、かわっ…! なんでそんな可愛いこと言って俺様を試すような!!』

 いつまで?

 と、問いかけることは出来なかった。ガクリと落ちた頭はランの肩に突っ伏し、もう起き上がることは叶わない。

『ああ、クソ…!! なんだって俺様はオークなんだよ畜生っ!!

 …はぁ、クソ可愛い…お前はまだ性欲のせの字も知らねぇのにな。早く大きくなれよ』

 俺様の大切なつがいよ。

 その肝心な一言を聞き逃したオレは、その後にとんでもないやらかしをするとはまだ…誰も知らない。

 ベッドに運ばれ、ランが耐えるように眠りに着いたことも知らずに深夜に目を覚ますとランが熟睡しているのを良いことにそっとベッドから抜け出して行く。

 誰にも見つからないように辿り着いた場所でシーツを被って中に入るそこは、

 オレがずっと夢見ていた種族たちが身を寄せ合うようにしてジッと時を過ごしていた。



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