純潔なオークはお嫌いですか?

せんぷう

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勇者の証

お布団

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 おはようございます、ところで何か不穏な単語を拾った気がするんだけど何処だ不届者め、再起不能にしてくれるぞナニを!!

 …いや待て、女性…という可能性もあるな。例え誰だろうが平等に再起不能だ!

『…ん?』

 ぐしぐしと目を擦っているとランと目が合い、思わず笑みが溢れる。

 うえへへ…、目が覚めて真っ先にランがいるなんて夢みたいだ。それに約束を守ってちゃんと側にいてくれるなんて、優しいなぁ。

『…ナラ。起きちまったのか』

『なんか聞き逃せない単語拾った。おはよう、ラン! やっぱりランと一緒だと安心してすぐ寝ちゃうや。あれ、もしかしてずっと抱えてたの…? ご、ごめんね?』

 その辺に寝かせといてくれて良かったのに、律儀にずっとオレを抱えてくれていた。改めて自分たちの関係を自覚すると恥ずかしくってつい顔を背けてしまう。

 恋人なんて人生初だからどんな反応したら良いかわかんなくて困る…!

『ナラが腕の中にいるなんて幸せで仕方ねぇんだ。ずっといてくれて構わねぇが?』

 ひえ。

 産まれてからずっと一緒だったはずなのに、二人の関係の名前が変わるだけでこんなにも言葉一つ、二つで心が掻き乱される。

 真っ赤になってしまったであろう顔を必死に背けるがランは楽しそうに顔を擦り寄せてくるから困る。

 いやそんな戯れてる場合じゃないんだ。オレはサネのSOSを聞いて目覚めたんだから、早く救出を…。

『サネ…?』

 周囲を見渡して目当ての人物を探し当てるも、なんともピンピンした様子のサネが軽く手を振ってくる。あまりのことに夢だったのかと手を振り返しているとサネがその手で何かを示す。

 なんかあるのかな?

 素直に指が示す方へ顔を向ければ、そこには…今にも首を落とされそうな天使がいた。

 …なんじゃありゃあ?!

 筒状の魔法障壁によって閉じ込められ、鎖によって身体の自由を奪われた…羽の生えた美しい人。その首を狙うのは巨大なギロチン。今にも刃が落ちてきそうな気配についランにしがみついてしまった。

 断罪を待つように一切の抵抗を止めたその天使様をまじまじと見てから気付く。

 …性悪天界族?!

『…ぁ。もしかして…』

 もしかして、オレのせいか?

 あのギロチンは恐らくランのもの。そしてあの天界族はオレを生き返らせてくれたと言えば聞こえは良いが、殺したのもまた事実。きっとヘマをしてランに捕まったに違いない!

 天界族はあの時の破天荒なテンションとは真逆なくらい大人しく、全然口も開かない。どこか怪我をしたか…ランの呪いでも食らったかと心配するがそっちは問題なさそうだ。

 やれやれ…、手が掛かる奴だ!

『殺しちゃうの?』

『殺しちゃう。アイツを生かしておいても何のメリットもねぇ。また何かやらかさない内に始末するのが一番良いんだよ』

 うーん。経験者は決断が早い、早過ぎる。

 弁明の余地なしか?!

『でもジゼたちの国を護ってる神様なんだよ』

『国なんてのは自分で守るもんだ。それが出来なきゃ勝手に滅ぶ。繁栄と巡りが人族の象徴だ。そこに天界族が入る余地はねぇんだ』

 ふむ。取り付く島もなし、と。

 いやそもそもランを相手にこういう問答を仕掛けて勝てるはずがないんだよなぁ。だってこちらの方、自分の年齢忘れてるくらい生きてんだよ?! 千とか二千とかそういう世界なんだよ?!

 こちとらまだ十代半ばだぞ!!

 …いや、転生前も合わせたら二十…いや十年程度増えたくらいじゃお話にならないんだわ。

『天界族がいた方が利用できる! ジゼたちに付いててもらえばそれだけで権力争いにも有利だしっ、それにいくら人族の国だって昔から天界族がいたなら一緒に守っていくのもアリだ…!』

 どうだ?!

 だけどどんなに力説したところで、ランには響かない。話は聞いてくれるようでどこから取り出したのか玉座まで引っ張り出し、そこに座ると膝にオレを乗せてずーっと頭を撫でている。

 …ねぇこれ禿げない?

『プライドだけがアホみたいに高い奴等がホイホイそう簡単に人族の前に姿を現すわけねぇ。いるかいないかもわからない存在を、そう長いこと信じられるような殊勝な一族じゃねぇだろ…人族は』

 うぅ。

『そもそも。あの天界族が真面目に人族の国を守り続けるか? そんなことしてたら奴の国はもっと繁栄してた。アイツが不真面目だからこうなった』

 ふぐぐ。

『実りもなければ天候にも恵まれなかった国が、正常な判断力を失って魔族の国に喧嘩を売ったんだ。それが出来たのが天界族なのに、だ。

 魔族は育てるだの作るだのが苦手だが何とかやってこれた。そこに天界族なんかいやしねぇ。自分たちの力が全て』

 と、言い掛けた辺りで玉座に何者かの蹴りが入った。自慢のブーツでランが座る側の玉座を蹴った父さんは、般若みたいな顔で自分の息子を顎で示す。

 ランが覗き込んだオレは、最高に涙ぐんでいてぷっくりと頬が膨れ上がっていた。

『なっ、ナラ…?!』

『お前がごちゃごちゃと下らないことばっかり話すからナラが怒っちゃったじゃないか!!』

 はわわ、と慌ててオレの涙を拭おうとするランの手を避けるとあからさまにショックを受けて絶望し始める。それでもめげずに頬に触れようとするものだから、ピョンとその膝から降りて逃げ出す。

『ナラ~っ、!!』

 …はん。

 どうせオレは口ではランに勝てませんよ。物分かりのクソ悪いオークですよ。

 ああ、でも。初めてかもしれない。こんな風にランと自分の意見を言い合って、上手くいかなくて衝突して…言葉で向き合うってこうなんだなぁ。

 …あれオレ今避けてるな。

 でもなんかちょっと、嬉しい。

『ナラっ…俺様が悪かった、だから何処かに行ったりしないでくれ…!』

 内心ではちょっと喜んでいるなんて知らないランはこの世の終わりみたいな顔で真っ青だ。別にちょっと腹が立っただけで何処にも行ったりしないのに、必死になって止めるランの姿になんだか申し訳なさが募る。

『そうだよな。ナラの言う通りにしよう、な? ナラの願いは全部俺様が叶えてやるから』

『…やだ。

 というか、オレのお願いを全部聞いたら多分碌なことにならないからちゃんと止めてほしい』

 ぶっ。と誰かの噴き出すような声が聞こえたが、何も聞いてないフリをしてランの手を握る。

『ランは正しいんだ。正しいけど、それに納得出来ない時はこんな風に言い合って良いと思う。

 だってなんか嬉しいもん…。ランがちゃんと本音で話してくれて、対等に扱ってくれるのが凄く…嬉しいの。だからこれからもこんな風に話し合ってちゃんと落とし所を決められるようになりたいな』

『なっ、ならぁ…!』

『ということで』

 抱きしめられる前にヒョイとランの手を躱すと、未だに拘束されたままの天界族を指差す。

 あ。人は指差しちゃダメだ。アレは天界族だから、ヨシ!

『オレは引き続きあの天界族を見逃してほしいと願います』

『…ナラ、それは』

 わかってる。

 わかっているとも。世の中ってのはどう自分の意見を押し通せるか、常に争うもの。だからオレはこうするのだ!

『天界族が変な動きをしたらランがどうしてくれても構わないから、今回だけは見逃してほしい。

 …と。我儘を聞いてくれたら…その、これからは毎日…一緒のお布団で寝たりとか…どうかなって』

 ダメでしょうか?

 天界族を指差しながら、ランのズボンをくいくいと引っ張る。あんぐりと口を開けたランの姿と周囲の静けさに一瞬時が止まったのかと思ったが、みるみると真っ赤になるランの顔。

 はっ。そういえばランは別に毎日寝なくても平気だから何のメリットもないな、これ?!

『…忘れて下さい』

『する!! 一緒のお布団で寝たりする!! ヒャッホーイッ!!!』

 うわチョロい、チョロ過ぎるこの魔王!

 ワーキャー言いながら頬を染めて喜ぶ魔王に、少し後ろに控えていた父さんはドン引き。ランツァーはとても残念な生き物を見る眼差しを向け、デンデニアは呼吸困難になるほど笑い転げた。

『ナラ!! それは今夜から適用されるのか?!』

『あ。はい』

 ふぉーっ、と新たな雄叫びを上げて喜ぶランはもうニッコニコで次々と天界族へ仕掛けた魔法を解除していき最後にキリッとした魔王らしい顔で言い残した。

『邪魔だ。さっさと人族の国へ帰れ。俺様はこれからナラと一緒に寝る為に布団を新調するんだよ』

【…そのまま永眠してしまえ】

 ピョン、と胸に飛び込んで来たネコ魔王様を抱きしめて存分に毛並みを堪能する。

 …死なせるわけないじゃない。

 だってまだ、君にはオレたちの結末を見せてないんだから。

『ね~、ネコ魔王様』

「にゃん」


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