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勇者の証
明星の君へ
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『却下だ。俺様とナラの記念すべき日に二人っきりにしないとか、テメェらそれでも部下なのか?』
『はぁ?! こちとら番のお父様だぞ何様だお前は!!』
『魔王様だが??』
大広間に大量に運び込まれたベッドに何事かとパンパンに膨れたお腹を摩りながら眺めているとまたランと父さんの口喧嘩が始まった。
内容はズバリ、今日の夜はみんなで語り明かそうの会VS番同士の初めての夜、である。
両者一向に譲らない戦いだったが折角ベッドも連結したことだし、今日くらいはみんなで寝ようという結果に収まった。
『ランと一緒の布団が良い』
の最後の一押しで目を輝かせたランが了承するとみんながベッドに乗って四つ合わせたベッドの真ん中に頭を向ける形で寝転ぶ。オレはランと一緒のベッドだから一つ足りないのだが、悲しいことに二人で寝ても全然余裕なのだ。
デンデニアの魔法によって汚れを落とされお風呂に入らなくても清潔で寝られる。だけど湯船に浸かるのも好きだからオーク城には巨大な浴場が用意されている。
何故お風呂を短縮したかと言えば、単なる時間の節約。オレが寝てしまう前によりたくさんの話がしたいというみんなの希望だ。
『おら入れ入れー。布団の中も適度な温度に調整してやったぜぇ』
『やったー! 流石デンデニアわかってるー!!』
よっ、大魔法使い!!
布団の端から潜って行くと先に中に入っていたランが出口を捲ってくれている。光に向かって顔を出せば温い布団には更に良い香りが移っているようで仄かに花のような匂いがする。
…なんだこの最高級ベッドは。
『全員入ったね? じゃあ、灯り暗くするから』
父さんが風魔法を操って灯りを調整すると部屋は良い暗さになって、前世の修学旅行を思い出す。外は夜…いつもならみんなは好きに過ごしたり休んだり、出掛けていたことも多かった。
だからこんな風に夜を過ごすのは、初めてかもしれない。
『ナラ。聞かせてくれないか? この数日間のナラの外での思い出を。ナラが触れた外の世界での暮らしをゆっくり…教えてくれ』
四人からの期待にお応えしてオレは生き返ってからの日々を話した。
そう。
本当は人間が好きで仲良くしたい。そんな思いから始まり、いつの間にか進化していた。出逢ったダイダラに必死に着いて行き、最初は門前払いだったジゼにもお許しをもらって共同生活のスタート。
ギルドで依頼をこなしたり、食堂で美味しいご飯を食べたり、お話できる人が増えたりして楽しかったこと。小さな家で三人で騒がしく過ごしたけどそれがとても嬉しかったこと。
ゴブリンたちとの出会いは心強かった。
サーネストとの因縁は良い方向に進んだ。
前魔王様からの真実は、オレの決断に繋がる。
『楽しかった、けど…やっぱり違うんだって、おれ…ずっと気付いてたんだ』
話を進めて二時間もすれば眠気も限界に近付き頭がガクンと落ち掛ける。
『…お墓。お墓、あるって聞いて…みんながオレのことを忘れないようにしてくれてるのが、すごく…凄くね嬉しくて…申し訳なくてっ』
『…ナラ』
そこに向き合うみんなの背中を想像したら涙が溢れて仕方なかった。忘れられて繁栄するオークの国があったら…それは喜ばしいことなのに、やっぱり自分はいなくて良かったのだと痛感することになるとずっと逃げていた。
本当はあんなに愛されていたのに。
『たくさん迷惑かけて、ごめんなさい…。まだまだ弱い…ナラだけど…みんなとずっと一緒に、
ランと…ナラのそばにいて、ほしい…。だってみんな、だいすきだか…ら』
そっとランに抱き寄せられるとそのまま胸の中でもぞもぞと動き、引っ付いて眠りに着いた。まだ半分起きている中でみんなが起き上がる音がして様子を見たいのに中々自分は起きれない。
『寝たか?』
『ああ。喋りっぱなしだったからな。
…で? 一時はナラがいないならまた四散するかって話も出たが…どうすんだ?』
え?
そんな話まで出てたのか…?!
『バカじゃないの。息子を置いて何処に行けってのさ。結婚は許してやらなくもないけど、ボクちゃんはお前がナラを傷付けないようずっと見張る!』
焦る暇も与えず否定する父さんに胸を撫で下ろす。父さんはいてくれるとは思ったが、問題は後の二人。
『私も残るとも。ナラがいるとなれば話は別。それにまだまだ試したい戦法やら実験があるからね。手が多い方が楽だし今更自分が旗頭になるのも面倒だ。
ナラには着てほしい服があるし、私の楽しみの一つだ。お前と番うなら将来の安寧は保証されたも同然だな』
最初から最後まで不穏な単語をニコニコしながら紡ぐランツァーに若干の不安を抱きつつも、なんだかんだ義理堅いキングオークだから大丈夫だとは思っていた。
問題は、あの風来坊だ。
『んあ? 最後か。
そりゃあナラが戻るってんなら居座るだろ。アイツは本当に面白い星の元に生まれたなぁ…これからも成長が見られるなんてお得だろ。
それに。この世で最も強い男を振り回す男ってのは、見ていて最高の気分に浸れるからなぁ!』
気持ち良いくらい豪快に笑い飛ばすデンデニアだが一斉に各所から五月蝿い、喧しい、と枕を投げ飛ばすような音が聞こえた。
あ。良いなぁ、オレも枕投げしたい…。
『…まぁ、なんだ。これからもキングオーク一同、揃って頑張るってことでな…』
『何を頑張るのさ。ランツァーはただ戦がしたいだけだろ…。それよりラン。お前はボクちゃんたちがサポートしてやるからなるべくナラの側にいろ。
次、逃したら…わかってるよね…?』
ランたちの話し声を子守唄にオレはすよすよと完全なる眠りに落ちる。布団から出たランがオレを抱き寄せ、持ち上げるとベッドから出たのにも気付かず。
『騒がしい奴等だ…。
わかってる。頼まれたって逃してやれねぇ。だから俺様が世界で一番ナラを幸せにしてやるよ』
深い眠りから覚めた時。
頬を撫でた澄んだ空気にパッと意識が覚醒する。何時間か寝ていた記憶があり不思議に思って今の状況を確認すると額に何か柔らかいものが触れた。
『おはよう、ナラ。丁度見えてきた頃だ』
見てご覧。とランが顔を向けたのはまだ朝日が顔を出す前の赤い空に爛々と輝く金色の星。思わず手を伸ばしそうになるくらい美しい光景に自然と笑顔になる。
さては転移魔法で外に来たな…?
『この時間が一番綺麗に見える。少し冷えるからしっかり寄り掛かってくれ』
大きなブランケットに包まれたオレを抱えるランは、星を見つめるオレの横顔ばかり見る。星を見なくて良いのかと問えばランは幸せを噛み締めるように笑ってからより強くオレを抱く。
『ずっと見てる。あの星のように手が届かないと思っていたのに…ナラは俺様の元に降ってきた。手に入ったらどうだ…見上げていた頃よりずっと綺麗で、参ってる』
『…オレを恥ずか死にさせたいのか…』
顔を背けるのも許さないとばかりに頬に手を当てられ、真っ赤な顔のままランを睨むが効果は期待できない。
『ナラ』
『…今度はなんだよぉ』
また恥ずかしいこと言ってオレを困らせる気に違いないと思っていたのにランは真面目な顔をして絞り出すような声で言った。
『番になって式も挙げたい。…誰にも、ナラを取られたくねぇんだ。早く形だけでも…ナラと一緒になりたい』
ダメか? と少し顔を赤らめて問うランが、なんだか可愛くて仕方ない。愛おしくて…胸の高まりが止まない。
肩に手を置き、少し身を乗り出してから今度は首に腕を回す。不意打ちのはずがしっかり反応したランに腰を支えられ身を預けた。
チュ、と短いリップ音が鳴りすぐに離れたオレは…唇に手を当てながらこれでもかってくらい目を見開くランに返事をした。
『言っただろ。純潔のオークはお嫌いですか? って…まぁ、正式に番うにはまだちょっと時間が…って、コラ!!』
ガバッと抱きしめて来るランを笑いながら、朝を迎える。今までの我慢が外れたように再びキスを迫るランに悲鳴を上げた日の午後、
オレたちは身内間での式を挙げて後日…同盟国となったアガーネスの地に足を踏み入れた。
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『はぁ?! こちとら番のお父様だぞ何様だお前は!!』
『魔王様だが??』
大広間に大量に運び込まれたベッドに何事かとパンパンに膨れたお腹を摩りながら眺めているとまたランと父さんの口喧嘩が始まった。
内容はズバリ、今日の夜はみんなで語り明かそうの会VS番同士の初めての夜、である。
両者一向に譲らない戦いだったが折角ベッドも連結したことだし、今日くらいはみんなで寝ようという結果に収まった。
『ランと一緒の布団が良い』
の最後の一押しで目を輝かせたランが了承するとみんながベッドに乗って四つ合わせたベッドの真ん中に頭を向ける形で寝転ぶ。オレはランと一緒のベッドだから一つ足りないのだが、悲しいことに二人で寝ても全然余裕なのだ。
デンデニアの魔法によって汚れを落とされお風呂に入らなくても清潔で寝られる。だけど湯船に浸かるのも好きだからオーク城には巨大な浴場が用意されている。
何故お風呂を短縮したかと言えば、単なる時間の節約。オレが寝てしまう前によりたくさんの話がしたいというみんなの希望だ。
『おら入れ入れー。布団の中も適度な温度に調整してやったぜぇ』
『やったー! 流石デンデニアわかってるー!!』
よっ、大魔法使い!!
布団の端から潜って行くと先に中に入っていたランが出口を捲ってくれている。光に向かって顔を出せば温い布団には更に良い香りが移っているようで仄かに花のような匂いがする。
…なんだこの最高級ベッドは。
『全員入ったね? じゃあ、灯り暗くするから』
父さんが風魔法を操って灯りを調整すると部屋は良い暗さになって、前世の修学旅行を思い出す。外は夜…いつもならみんなは好きに過ごしたり休んだり、出掛けていたことも多かった。
だからこんな風に夜を過ごすのは、初めてかもしれない。
『ナラ。聞かせてくれないか? この数日間のナラの外での思い出を。ナラが触れた外の世界での暮らしをゆっくり…教えてくれ』
四人からの期待にお応えしてオレは生き返ってからの日々を話した。
そう。
本当は人間が好きで仲良くしたい。そんな思いから始まり、いつの間にか進化していた。出逢ったダイダラに必死に着いて行き、最初は門前払いだったジゼにもお許しをもらって共同生活のスタート。
ギルドで依頼をこなしたり、食堂で美味しいご飯を食べたり、お話できる人が増えたりして楽しかったこと。小さな家で三人で騒がしく過ごしたけどそれがとても嬉しかったこと。
ゴブリンたちとの出会いは心強かった。
サーネストとの因縁は良い方向に進んだ。
前魔王様からの真実は、オレの決断に繋がる。
『楽しかった、けど…やっぱり違うんだって、おれ…ずっと気付いてたんだ』
話を進めて二時間もすれば眠気も限界に近付き頭がガクンと落ち掛ける。
『…お墓。お墓、あるって聞いて…みんながオレのことを忘れないようにしてくれてるのが、すごく…凄くね嬉しくて…申し訳なくてっ』
『…ナラ』
そこに向き合うみんなの背中を想像したら涙が溢れて仕方なかった。忘れられて繁栄するオークの国があったら…それは喜ばしいことなのに、やっぱり自分はいなくて良かったのだと痛感することになるとずっと逃げていた。
本当はあんなに愛されていたのに。
『たくさん迷惑かけて、ごめんなさい…。まだまだ弱い…ナラだけど…みんなとずっと一緒に、
ランと…ナラのそばにいて、ほしい…。だってみんな、だいすきだか…ら』
そっとランに抱き寄せられるとそのまま胸の中でもぞもぞと動き、引っ付いて眠りに着いた。まだ半分起きている中でみんなが起き上がる音がして様子を見たいのに中々自分は起きれない。
『寝たか?』
『ああ。喋りっぱなしだったからな。
…で? 一時はナラがいないならまた四散するかって話も出たが…どうすんだ?』
え?
そんな話まで出てたのか…?!
『バカじゃないの。息子を置いて何処に行けってのさ。結婚は許してやらなくもないけど、ボクちゃんはお前がナラを傷付けないようずっと見張る!』
焦る暇も与えず否定する父さんに胸を撫で下ろす。父さんはいてくれるとは思ったが、問題は後の二人。
『私も残るとも。ナラがいるとなれば話は別。それにまだまだ試したい戦法やら実験があるからね。手が多い方が楽だし今更自分が旗頭になるのも面倒だ。
ナラには着てほしい服があるし、私の楽しみの一つだ。お前と番うなら将来の安寧は保証されたも同然だな』
最初から最後まで不穏な単語をニコニコしながら紡ぐランツァーに若干の不安を抱きつつも、なんだかんだ義理堅いキングオークだから大丈夫だとは思っていた。
問題は、あの風来坊だ。
『んあ? 最後か。
そりゃあナラが戻るってんなら居座るだろ。アイツは本当に面白い星の元に生まれたなぁ…これからも成長が見られるなんてお得だろ。
それに。この世で最も強い男を振り回す男ってのは、見ていて最高の気分に浸れるからなぁ!』
気持ち良いくらい豪快に笑い飛ばすデンデニアだが一斉に各所から五月蝿い、喧しい、と枕を投げ飛ばすような音が聞こえた。
あ。良いなぁ、オレも枕投げしたい…。
『…まぁ、なんだ。これからもキングオーク一同、揃って頑張るってことでな…』
『何を頑張るのさ。ランツァーはただ戦がしたいだけだろ…。それよりラン。お前はボクちゃんたちがサポートしてやるからなるべくナラの側にいろ。
次、逃したら…わかってるよね…?』
ランたちの話し声を子守唄にオレはすよすよと完全なる眠りに落ちる。布団から出たランがオレを抱き寄せ、持ち上げるとベッドから出たのにも気付かず。
『騒がしい奴等だ…。
わかってる。頼まれたって逃してやれねぇ。だから俺様が世界で一番ナラを幸せにしてやるよ』
深い眠りから覚めた時。
頬を撫でた澄んだ空気にパッと意識が覚醒する。何時間か寝ていた記憶があり不思議に思って今の状況を確認すると額に何か柔らかいものが触れた。
『おはよう、ナラ。丁度見えてきた頃だ』
見てご覧。とランが顔を向けたのはまだ朝日が顔を出す前の赤い空に爛々と輝く金色の星。思わず手を伸ばしそうになるくらい美しい光景に自然と笑顔になる。
さては転移魔法で外に来たな…?
『この時間が一番綺麗に見える。少し冷えるからしっかり寄り掛かってくれ』
大きなブランケットに包まれたオレを抱えるランは、星を見つめるオレの横顔ばかり見る。星を見なくて良いのかと問えばランは幸せを噛み締めるように笑ってからより強くオレを抱く。
『ずっと見てる。あの星のように手が届かないと思っていたのに…ナラは俺様の元に降ってきた。手に入ったらどうだ…見上げていた頃よりずっと綺麗で、参ってる』
『…オレを恥ずか死にさせたいのか…』
顔を背けるのも許さないとばかりに頬に手を当てられ、真っ赤な顔のままランを睨むが効果は期待できない。
『ナラ』
『…今度はなんだよぉ』
また恥ずかしいこと言ってオレを困らせる気に違いないと思っていたのにランは真面目な顔をして絞り出すような声で言った。
『番になって式も挙げたい。…誰にも、ナラを取られたくねぇんだ。早く形だけでも…ナラと一緒になりたい』
ダメか? と少し顔を赤らめて問うランが、なんだか可愛くて仕方ない。愛おしくて…胸の高まりが止まない。
肩に手を置き、少し身を乗り出してから今度は首に腕を回す。不意打ちのはずがしっかり反応したランに腰を支えられ身を預けた。
チュ、と短いリップ音が鳴りすぐに離れたオレは…唇に手を当てながらこれでもかってくらい目を見開くランに返事をした。
『言っただろ。純潔のオークはお嫌いですか? って…まぁ、正式に番うにはまだちょっと時間が…って、コラ!!』
ガバッと抱きしめて来るランを笑いながら、朝を迎える。今までの我慢が外れたように再びキスを迫るランに悲鳴を上げた日の午後、
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