いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう

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嘘発見器

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『今日は助かりましたネ。宋平ちゃんは潜入も上手でもう言うことなしでしたネ!』

『もう怪我も治ったみたいで安心したヨ! 帰りは儂らが送ってあげるヨ~』

 午後からの仕事は魚神兄弟との任務で俺が最初に施設に侵入してから突入の合図を送った。バランサーで五感を尖らせ、的確なタイミングで増援を送って制圧すると施設からは続々とガラの悪い男たちが連れ出される。

 どうやらこの施設では不当なやり方で金を集める輩が屯していたらしく、弐条会のシマでそんなマネをされたら当然怖いお兄さんたちが突入するわけだ。

『ありがとう…でも、此処からなら駅も近いし…』

『ダメダメ! ちゃーんと駅まで我々が送りますネ。ちょい待って。すぐ片しますからネ』

 二人の作業が終わるのを待つ間、色んなことを思い出しながらマスクをし直す。

 家に帰れば兄弟喧嘩。職場では上司の許嫁発表。

『…バランサーに産まれても、全然上手く出来ないなぁ、俺は』

 へこんでいても仕方ない。座って待っていたけど近くを通り掛かった兄貴たちに手伝いはないかと聞いて、一緒に作業しながら双子を待つ。

 夕暮れ時には迎えに来てくれた二人と歩いて最寄りの駅まで行った。

『ねぇ。二人は兄弟喧嘩とかしたことありますか? どうやって仲直りしたか聞いても良い…?』

 大きな背中にやっとの思いで問い掛けることができた。だけど、気付けばもう駅はすぐそこで焦った俺はなんでもないと話を切り上げようとする。

『おやおや。やっと言葉が出てきたようですネ?』

『まだ話したいってことだヨ!』

 ニコニコとした双子が俺の手を取り、駅を通り過ぎると電気が灯り始めた繁華街へと足を向ける。一体全体どうなってこんなことになっているかわからない俺は手を引かれるままに足を動かす。

 客引きが声を掛けようとした瞬間、双子の姿を見て即座に逃げ出すし…店を開けようとしていた店主らしき人もすぐに閉店の看板を出して奥に引っ込む。

 …さては悪い知名度が高いな?

『我々は弐条会の番犬。そういう者だと長年、名前と顔を売ってきましたネ』

『ワンワン五月蝿くするヨ。喰らい付いたら、離さない』

 四十手前にしてなんて元気なんだ、この双子。だけどその言葉に間違いはないんだろう。気軽に話し掛ける人間なんていないし悪いことをしていなくても誰もが目を逸らす。

 弐条会という組織の力を表している。

『ゆっくり話せるところ、知ってるネ。さぁ入った入った』

『楽しい夜になりそうだヨ~』

 なんだろう、なんか胸騒ぎするんだけど。

『あの、黒河さん…白澄さん。俺あんまり遅くなると兄が…』

 そう言っても二人は答えてくれなかった。ハッと周囲を見渡せば誰もが我関せずといったように目を合わせず、稀に視線が合っても憐れみのそれを向けられる。

 一体何がどうなってる? 俺、なんか双子を怒らせるようなことしちゃったのか…?

 辿り着いた先は繁華街の奥に構えた豪華絢爛な、みやびな雰囲気を放つ館。大きな看板には美人なお姉さんたちの写真がたくさん飾られていてここがキャバクラなのではないかと背中に嫌な汗をかく。

『ちょ、俺未成年っ…!』

 必死の抵抗も虚しく階段を引き摺られるようにして上がる。勝手知ったる様子で中に入り、奥へ進むと大きな観音開かんのんびらきの扉の前に立つ。

 双子がそこを開けると…見たこともないような天蓋付きのベッドに良い匂いのお香が焚かれ、なんと部屋の奥には全面ガラス張りのスケスケなお風呂まである。

 …何、ここ?

『あーあ。ダメですネ、こんなところまで無抵抗で連れて来られて』

『いけないヨ。大人は悪い奴いっぱいヨ~?』

 黒河に腕を引かれると真っ白なベッドに乗せられる。フワフワのベッドに思わず和んでいると白澄にジト目で睨まれた。

『…君。危機感というものをどっかに置いて来てるヨ。男と密室に閉じ込められたんだヨ? もーちょっと焦ってほしいヨ、オジサンは』

『どうして? 黒河さんと白澄さんがすぐ側にいるのに警戒?

 は。もしかして、此処で何か任務あるの?! ご、ごめんなさい俺ってば危機感ないね、そっかそっか。よし…で? 何すれば良いの?』

 なんだよもー、任務なら早く言ってよね!
  
 遅くなるって連絡しなきゃなぁ、と思っていたら黒河と白澄が顔を見合わせてからヒソヒソと何かを話し合い始めた。

『…兄者あにじゃ。どうするんだヨ? これ絶対に裏表ない子だヨ…だからわしは尋問なんて止めようって言ったヨ』

『いや…色々と不思議な子だし怖がらせたらなんか喋るかもって…ネ? ボスたちの目が離れた隙に色々探りたくてネ』

 両サイドの双子が座ると二人の吸っているであろう煙草の匂いがした。大半の人が煙草を吸っているけど同じ人はあまりいない。双子のは、少しスッキリとした匂いがする。

『宋平ちゃん。ちょっと我々とお話しましょうネ?』

『話…? 良いよ、なんでも聞いてよ』

 手を膝に置いて黒河の質問を待つと、少ししてから彼は意外なことを聞いてきた。

『我々のボスについて、どう思ってるかお聞かせ願いますかネ? 二ヶ月程経って最初の印象とも変わってきているかと、気になりまして』

 そっか。もう、二ヶ月くらい経つんだ。

 黒河の質問に頷きつつすぐには返答出来ないでいた。絶妙な唸り声のようなものを上げながら、ベッドに乗る身体を少しズラしたり、足をふらふら動かしたりと騒がしい。

 思い浮かべる彼との思い出は、どれもこれも自分の中で一際輝いている。

『どう、思ってるって…最初は、うん…。見ず知らずの子どもが来て向こうも面倒に思ってたと思う。アルファの威嚇フェロモンとか容赦なく飛んできて怖かったし…』

 え、威嚇? みたいな台詞が飛び交うが記憶の中のボスは全部カッコ良くて、全部頼り甲斐のある人。思い出す度に頬に熱を感じる。

『でも…。俺の兄ちゃんの会社の借金、全部移してくれて…凄く良くしてくれるし、返し切れない恩がある。危ない時は絶対助けようとしてくれるし、落ち込んでる時にわざわざ来てくれたんだ…。

 だから、どう…思ってるかって、そりゃ』

 笑っていてほしい。

 大好きなんだ。だから、そう…笑って。

『大切な人って、そう思ってる。俺なんかの力でも一緒にいられる内は守りたい。…色んなものを、貰ったから…

 幸せに、なってほしいなぁ』

 そうだ。そうだったんだ。俺はあの人に幸せになってもらいたい。そこに俺の気持ちなんてなくて良い、ただボスにとってより良い未来ならそれが一番。

 こんな大切なことすら見失うなんて、ダメだな俺。

『…愚弟ぐてい、どうですかネ』

『…兄者。わかってるのに聞かないでほしいヨ。儂じゃなくたってわかるヨ』

 はぁ。と重たい溜め息を同時に吐いた双子は二人して俺の方に寄り掛かってきた。

 ぎゃあ! 重っ、筋肉おっもい!!

『…宋平ちゃん。あのネ、我々双子は弐条会の中でも汚れ仕事が主で我は武力で全てを片す者。際どい作戦では最前線にいますネ。それを指示しているのは勿論、弐条会のボス』

『儂は掃除屋。まぁ、綺麗にするのは色々ヨ。情報とか…人間とかもあるヨ。儂ら双子は産まれた時から性格も性癖も終わってるから、むしろ有り難いヨ?』

 両側に座る双子が、掌を出す。右に座る黒河は左手。左に座る白澄は右手。大きくて分厚い手は様々な傷跡が刻まれていて随分と荒れていた。

『いつかこの手は君を傷付けるかもしれないネ』

『いつかこの手で君の息の根を止めるかもしれないヨ』

 そっと俺から離れたせいで、やけに左右が寒く感じる。筋肉ってあったかいんだ。

『逃げるなら、手伝ってあげるネ』

『君だけは、特別だヨ』

 どうする。そう問い掛けられたような気がして俺は迷わず双子の手に自分のを重ねた。三人で一緒に手を繋ぐ光景を少し笑いながら温かい手を握る。

 手は、触れた瞬間にビクリと逃げ出しそうだった。

『知ってるよ。

 二人はよく、薄ら血の匂いとかするし。そもそもボスから紹介してもらったのが遅かったのは弐条会の切り札みたいな二人を俺に教えても良いって判断してもらうくらいには信用してもらえたのかなって一人で喜んでたくらいだし。

 だから逃げたりしないよ』

 水臭いな。大切なゲーム仲間を置いて行くわけないじゃないか。

『地獄に堕ちる時は、ちゃんと俺も連れてって』

 弐条会がなければ兄ちゃんの会社は借金なんてしなかったかもしれない。だけど、きっと弐条会がなくても別のところで借金をしたかもしれない。

 弐条会だったから、兄ちゃんはまた大好きな会社で働ける。俺たちも生きていける。自分の選択は間違っていなかったと胸を張れる。けど。

 終わった後に、制裁があるというなら

 俺は貴方たちと一緒にそれを受ける。

『こうしてくれたら、俺は怖くないよ』

 しっかりと手を繋ぎ直す。すると二人同時にゆっくりと握り返されてから、再び両サイドが寄り添うような力加減になって心地良い温もりに思わず目を閉じる。

 双子は何も言わなかったけど、手は…ずっと握り締めたまま暫く離すことはなかった。


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