いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう

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きっと、何度でも

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 朝。いや、朝なのかはよくわからない。ボスの仮眠室は真っ暗で窓なんてない。枕元のスマホを確認するとまだ朝の六時。

 やれやれ、ヤクザの朝は遅いからなぁ。

『おはようございまーす…』

 部屋を出てボスのフロアを一周するが、やはり誰もいない。洗面所で新品の歯ブラシを出して歯を磨き、顔を洗って仕事用の服に着替える。靴下は履けなかったので片足は裸足に包帯のままだ。

『お腹空いたなぁ。…どっか食べに行くか?』

 流石にこの時間に出前は取れないし、冷蔵庫には調味料くらいしかなかった。すると、またしてもエレベーターが開いている。

『…ディーちゃん、だな?』

 エレベーターに入って半ば確信して名前を呼べば、ボタンが光ってからあの無機質な声が響く。

【おはようございます。より良い今日を、より良い明日を。産まれてきたことに感謝を。

 貴方をサポートするAI、バースデイ。僭越ながら宋平様のサポートをさせていただきました】

 やっぱりか!

 あの日、別れを告げたはずの人工知能。しかしディーちゃんは機械には強いようで、こうしてエレベーターを勝手に動かしていたらしい。

 おいおい。好き勝手してんなぁ。

【何処へでも、お連れ致します】

『あんまり勝手なことしたらボスに怒られないか?』

【問題ありません】

 強気な発言だ。頼もしい。

 お言葉に甘えてロビーへと向かってもらう。近くにやっている店がないか聞くと、ファミレスがあるそうでテイクアウトにしようか迷う。

 …あんまりお金ないしな。

『やっぱりコンビニにしようかなー』

【宋平様。それでしたら無人販売所がございます】

 あ。そうだ! 此処にコンビニあるんだ!

 なんて気付いた時には、既にロビーに着いてしまった。無駄足だったかと再びエレベーターを動かしてもらおうとしたら、玄関の向こう側に誰かいる。

 よく見る制服と帽子、そして手に持った小包み。その人が宅配便屋だということは服装ですぐにわかったが時間帯が気になった。

『宅配便って朝早くやってるんだな。…あ。もしかして弐条会の特別なコネってやつかな?』

 しかし、まだ皆が休んでいる時間帯でもあるから妙だなとエレベーターから出て話を聞こうかと近付く。

【宋平様】

『ディーちゃん待ってて、荷物受け取って来るから』

【…宋平様】

 松葉杖を突いて外に向かう。すると、帽子を深く被った配達員が俺に気付くと何か動揺したような…挙動不審な態度になる。怪しく思い自動ドアを開いて彼に向かい声を掛けた。

『あの? その荷物、もしかして』

 弐条会にですか? という問いは、出せなかった。何故なら男が慌てて身を翻すと持っていた荷物をこちらに向かって投げたのだ。

【警告警告警告】

【緊急事態発生、緊急事態発生。直ちに防御機能を展開します】

 ディーちゃんの警告が鳴り響き、警報がアジトに響き渡る。

【宋平様、宋平様、…至急救援求む。救援求む。宋平様、にげてー…、】

 投げられた小包みが自動ドアをすり抜けてアジトの中に入る。どうして相手が逃げたのか、何故は此処に投げられたのか。

 一瞬の間だった。でも、それが良くないものだと直感で判断した瞬間…脳裏に浮かんだのは昨夜のゴルフ。

 足を、開き過ぎず…肩を回すイメージっ、顔を…すぐ上げずに…あとなんだ? ええっと…そう。力み過ぎず…

 打つ!!

 松葉杖を構えて地面スレスレまで迫った小包みにぶち当て、フルスイング。閉まる寸前の自動ドアの向こうへ飛ばされた小包みが逃げる男のすぐ近くに落ちる寸前、自動ドアの向こうからシャッターらしきものが落ちて来て完全に外と遮断される。

 刹那、ドン…という音と衝撃が伝わりコロコロと地面を転がった。

 なんだ今の…?

『…え。もしかして、アレってやっぱ爆弾? やべーじゃん、ディーちゃん開けてー?』

【承知しました。どうぞお気を付けて】

『ていうかゴルフ楽しいかも!!』

【宋平様。あれはゴルフではありません】

 だよね!

 シャッターが開いて外に出ると、爆風により腰を抜かした犯人がヨロヨロと逃げ出そうとしていたのですかさず目の前を松葉杖で塞いでから笑う。

『爆弾投げる悪い子、捕まえたー』

『ひっ!』

 バランサーの力を展開して辺り一帯を探れば仲間らしき連中を発見。目が合って逃げようとした奴等を追い掛けようとしたが、それは無駄に終わる。

『…お前らここで何してるんですかネ?』

『兄者。見張りがいないヨ』

 魚神兄弟!

 外にいた二人が帰って来たのだ。安心して取り敢えず爆弾野郎の背中に乗れば、カエルが潰れたような声を上げて倒れた。

『宋平ちゃん?! …まさかウチの子に手を出したわけ? 良い度胸ネ~。

 可愛がってやる。来い』

 一瞬で敵を気絶させるとスマホを取り出して連絡を取る黒河。その場を白澄に引き渡すと、こちらに駆けて来た彼がすぐに俺を抱き上げて器用にも片足で爆弾野郎を踏み付けて拘束する。

 …お、おう…スゲー雑…。

『一体何が…、おやー? アジトからなんかいっぱい来るネ』

『俺ね、爆弾野郎を捕まえたんだ。ふふん。凄いだろ?』

『え? 爆弾…? もしかしてさっきの爆音? ちょ、どゆことネ?』

 アジトから来た兄貴たちによって襲撃者たちは捕まり、連行される。休んでいた者も全員がディーちゃんによる警報で叩き起こされ、出動したというわけだ。

 あの爆弾野郎は、見張りの交代の僅かな隙間時間に現れた。そこに偶然居合わせた俺に見つかり、パニックを起こして雑に爆弾を起動させたという顛末てんまつだ。

 デカイ顔をして黒河に抱っこされていた俺だが、何故か刃斬にめちゃくちゃ怒られた。

『なんでー?! 俺すっごい活躍! むしろ褒めるべきではないですか、兄貴?!』

『どアホ!! そんな不審者にフラフラ近付くな! 打ち返してなかったら、お前死んでたかもしれねえんだぞ!!』

 正論っ!!

『…うう。ごめんなさい…』

『そんなに怒る? よくやった方だし良いんじゃない、ネ?』

 く、黒河…!!

 まさかの援護に感動して見上げれば、片手で俺の頭を撫でつつ外を顎で指す。

『大事に仕舞っておく気がないなら、これくらいのことで騒がない。宋平ちゃんも貴重なウチの戦力。手柄を上げたら黙って褒めようネ?

 てことで。敵の増援来たから、この子借りるネ』

『はぁ?! てめっ、宋平はまだ怪我がっ』

『言ってる場合じゃないネ。宋平ちゃん、良いネ?』

 なんだか急かすような黒河の言葉に頷くと、そのまま肩に乗せられて移動する。すぐに白澄が松葉杖を持って追い掛けて来ると煽るように刃斬に手を振って歩き出す。

 果たしてどんな場所に連れて行かれるのかと緊張していた。こんな足で役に立てるのかと不安だったのに、どうしたことだ。

 俺は今、牛丼屋にいる。

『いや! おかしいだろ!!』

『あ。特盛五つネ』

 五つ?! どういう計算だ!!

『我と愚弟が二つずつで、宋平ちゃんが一つだネ』

『食欲旺盛っ…!』

 朝早くからやっていた牛丼屋に入って朝食を摂る。敵の増援とはなんだったのか、三人で牛丼を食べて腹ごしらえ。

 …お腹空いてたから嬉しいけど、どうしてこうなるんだ?

 しかも食べるのが恐ろしく早い。俺がまだ半分も食べてないくらいのタイミングで、二人は食事を終えた。半分は飲んでいたんじゃないかと疑う。

『我々はボスの事情を知ってて、その上で宋平ちゃんの気持ちも知ってたネ。

 どう。怒ってる?』

 パンパンになった腹を抱えて苦しんでいればお冷を差し出した黒河が妙なことを聞いてくる。いきなりなんだと思えば二人は相変わらず何を考えているのかわからない笑顔を浮かべていた。

『許嫁はオメガの一人息子。しかも結婚したら長年の夢が叶う。そりゃあ、結婚するってもんだよネ~。

 実はネ。ボスには忘れられないオメガがいてネ…だから後釜もオメガにするって決めてたわけ』

 黒河の言葉で思い出すのは、ボスの居住区にあった部屋。ボスには似合わない可愛らしいあの部屋を思い出して胸が苦しくなる。

『ベータの宋平くんには、どうしようもないヨ。君じゃ儂らに何も与えられない。儂らも君からは何も得られない。

 オメガでもない、血筋も平凡な君じゃどうすることも出来ない。ただの恋心だけじゃ何も出来ないヨ。そんなに風に身を削ったところで、なんになるって?』

 松葉杖を指差され、思わずそれを引き寄せる。ふと包帯に巻かれた足を見る…これは俺のせいだけど、確かに最近は傷が多い。

『危ない目に遭ってもさ、なーんにもならない。振り向いてなんてもらえないネ?』

『むしろ今よりもっと酷い目に遭うかもヨ? 家族だってさ、大事でしょ? だったら』

 コトン、とお冷を置いて話を遮る。顔を上げて二人を睨んでやる。少し安心したように笑う二人に、今度は笑ってみせた。

『忘れちゃった?

 …地獄へだって、連れて行って…って。ボスに忘れられないオメガの子がいるのは知ってる。ディーちゃんに教えてもらったから。

 別に…、そんなに脅さなくても逃げないよ。ボスの力になるって約束した。そこに恋だの愛だの、関係ない。何があってもボスの力になる。

 それに…ボスを好きになったことに後悔はない。あの人が魅力的過ぎるのが悪いんだ、好きになっても仕方ない。きっと生まれ変わって記憶を失ってもあの人を好きになる…、何度でも。

 その何度目かで、相手がいなかったら…振り向いてもらえるように頑張るんだ』

 だから、平気。

 そう言ってお冷を飲み切るとふとポケットの中の財布を開けてみる。何度数えても並しか買えない金額なので、二人に向かって微笑む。

『うん! こんなに恥ずかしい話をさせたんだから奢って下さい、お願いします!』

 食い逃げだ! このままだと食い逃げになってしまうぞ!

 内心冷や汗をかく俺だが、目の前の二人は暫く放心状態だったのにやがてプルプルとその巨体を揺らし始める。二人してテーブルを叩きながら大笑いをして、今度は互いの肩を叩き、ヒーヒー言いながら腹を抱え始める。

 黒河は笑いながら精算を済ませ、白澄は何度も俺の頭を撫でて、高い高いをし始める。

『なに!! なんなの?! あ?! 待って天井近い、すごく近い!!』

『あーっははははっ、ひーっ! あんな口説き文句っ儂らにっ、いっひっひ! はー面白いヨ!!
 
 …うん。君はそーゆー子だった。ありがとう、宋平くん。ありがと…』

 白澄が俺のお腹に顔を埋めるものだから、黙って綺麗な銀髪を撫で回す。気持ち良さそうに笑う白澄が歩き出すと黒河と合流して一緒に店を出た。

 俺の答えに満足したらしい双子はその後、二度と俺を試すような真似はしなかった。


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