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癖
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『と、言うわけでっ! デートなのに寝ちゃった子をっ、連れて来たってわけだネ!
だからそんなに怒らないでほしいネ! 不可抗力でしかない、見てよコレ! 全然サスペンダー離してくんないの、この子! 我に此処でパンイチになれって?』
深い眠りに入っているのに、妙に騒がしい。嗅ぎ慣れない煙草と汗の匂い。疲れてしまって心細いのに誰かが俺から安定剤を奪おうとする。
止めてよ、取らないで。
『ほら全然離さないネ?! ヘルプ、ボス!』
『面倒臭ェな。お前がそれ差し出しゃ済む話だろ…ったく、貸してみろ』
握り締めた手に何か温かなものが重なる。凄く理想的な温度のそれと、先程から嗅ぎ慣れた良い匂いがするので重い瞼を開く。
『…起きたか。しっかりしろ、お前が行きたがってたンだろォが』
『宋平ちゃん起きた?! よしっ、セーフだネ! カフェにはさっき連絡入れたから十分遅刻だけど問題ないからネ! はいこれ、適当な店で買ったサンダル。帰るまでに良いの買っとくからネ~。はいはい、抱っこ代わってボス!』
ボス?
掴んでいた手に、重ねられる手。そっとそれを離して嗅ぎ慣れた安心する人の方に向くと無意識に身体がそっちに傾き、何かに抱き上げられる。
夏なのに、ヒンヤリとした服の素材が気持ち良くて引っ付く。
『怪我は打撲とか。辰見が診て湿布とか貼ってあるから気を付けてネ。ったく、相変わらず犬飼の作戦はハイリスク、ハイリターンなんだから』
『…まァ、襲撃の人数が大幅に増えたのは想定外だったか。死ぬ気で戦果上げて挽回したらしいな』
『当たり前だネ。これ以上の失態は許されない。ってことで、幹部で医務室行きは犬飼だけ。内容もただの擦り傷だし。
作戦も完了、いよいよ我々の反撃開始かネ。だからボスは、先にこの子と祝杯上げてネ!』
誰かに抱っこをされながら歩いているのか心地良い揺れにウトウトしていたけど、ふと目を開けたら誰かの首元が見えて擦り寄る。
『宋平。お前の行きたがってたカフェとやら、着いたぞ。歩けそうか?』
『か、ふぇ』
顔を上げて見ると落ち着いた雰囲気の道にある大きなビル。その窓には中から飾り付けられたキミチキ! のキャラクターの絵やグッズが所狭しとあり俺は夢のような場所に目を輝かせてそれを指差す。
『ポロポッチ…!!』
相変わらず可愛らしい満面の笑みを浮かべる少しふっくらした柴犬。コラボカフェ限定の衣装を身に付けた彼の愛らしい姿に歓声を上げる。
『入るぞ』
『…あれ? ボス?』
どうして、と言う前にボスが店内に入ってしまった。すぐに店員さんが近くに来ると何か話してから奥の席へ歩き出す。ぐしぐし、と目を擦りながら目を覚まそうとするとキミチキ! の代表曲が流れてきて自然と目が覚める。
…夢が覚めたら、また夢の世界にいる…。
『こちらのタッチパネルからお食事、グッズ等が全てお買い求めいただけます。店舗限定グッズのみあちらの窓口からお求め下さい。
動画は禁止ですが、お写真等は大丈夫です。では、こちらは入店特典となります。ごゆっくりお楽しみください』
『入店特典…? そういうモンがあるのか、ありがとよ』
裏返したカードが俺の前に置かれ、ピッピッと何かが注文される音がする。俺がやっと覚醒したのは料理が揃って並べられた時だった。
コラボカフェならではのキャラクターたちが好きな料理やイメージした料理、飲み物が並べられボスがカシャカシャと写真を撮ってからカトラリーを用意した。
『ボス…? あれ、俺…アジトが、囲まれて…』
『覚えてねェのか? 辰見の話じゃアジトが襲撃されてお前が助けを呼びに行ったところを、攫われそうになったンだぜ?
ああいう時は、ちゃんとアジトにいろ。無事で良かった…かなり大規模な襲撃で、横やりがなかったらかなりの被害が出てただろォな』
話を聞きながら目の前に置かれた料理に意識が向く。用意されたのはなんと、ポロポッチのお尻をイメージしたパンケーキだ。ポロポッチが罠にハマってお尻が抜けなくなるエピソードから生まれたらしい。
か、可愛いっ…俺の癒し!!
『かわいい!』
『お前の方が、…いやなんでもねェ。遅れた分の時間短くなってるから食べな。写真は撮っておいた。あと、なんか紙がついてきたぞ』
ほら、と言われて渡された入店特典に料理に付いてくるコースター。何人かキャラクターがいるのにほぼ全てにポロポッチがいる。
…何この人、引き運が最強過ぎる。
『欲しいのは出たか?』
『出たっ、出た出た! 凄いよボス…! わぁ可愛い、帰ったらちゃんと見ようっ』
俺はポロポッチのパンケーキ、ボスは主人公が始まりの街の居酒屋で食べたローストビーフとパンのセットを注文していた。
…なるほど、ローストビーフもお好き、と。
『美味いか?』
『はい! この、このポロポッチの部分が勿体無くて食べられない…』
『食え。ほら、ちゃんと肉も食え』
ローストビーフを口元に運ばれ、反射的にパクリと口にして咀嚼する。美味しいなーと思っていたら今更ながら何をしたのか気付いて固まってしまう。
やべぇ。あまりにも自然に食べさせてもらうから普通に食べちゃった…。
そっとボスを盗み見ると気にせず追加で来た料理を受け取っているところだった。全然気にしてないようで安心したけど、それはそれで面白くない。
だけど…。
『終わった皿寄越せ、片付ける』
『まだ食えるか? 無理なら俺が食べるから食い過ぎるなよ』
『客が少なくなって来たから、写真撮って来るなら今だな。一緒に行くか?』
『黒が連れて来たから荷物なんも無ェだろ。今日頑張った報酬だ。全部払ってやるから、欲しいモンちゃんと買いな』
『レジが混むンだとよ。先に支払って来るからお前は茶でも飲んで待ってな』
行って来る、と言ってレジに向かうボスの背中を見送りながら渡されたお茶を飲む。
…甲斐甲斐し過ぎない? え。何、これ…ボスの持ち前の気配り上手? いやいや、あの人が人に気配りなんて…ええ?
ええっ…?!
『…ずっと待っててくれて、その上…こんなによくしてくれるなんて』
あの人、優し過ぎないか? ただでさえ自分は興味ないジャンルなのに…。
『これで惚れるなって無理だろっ…! 既に惚れているけどもっ!!』
一人で騒いでいたら店員さんが購入したグッズを持って来てくれた。なんだか選んだよりも数が多いみたいだけど、目の前で伝票と合わせて数えてくれたから間違いないみたいだ。
…さてはボスか?!
帰って来たらお礼を言わないと、と思いつつボスを待っていると何やらレジが一瞬だけ盛り上がったような気がする。
レジが盛り上がるってなんだ? 誰かゾロ目の会計でもしたのかな…。
『今の内に…』
そっと席を離れて、とあるショーケースを見つめる。そこにはなんと、等身大ポロポッチぬいぐるみが展示されていて会場限定で受注販売出来るらしい。
まぁ、値段がとんでもないから見るくらいしか出来ないが。仕方ない…等身大な上にコラボカフェの衣装を着たウルトラスーパーめちゃくちゃ可愛いポロポッチだもん。
『…ふふ。このふにゃふにゃした笑顔とベロ出してるの、可愛い…』
きっと大好きな主人公の前にいる時はこんな顔なんだろうと想像するとこっちも笑顔になれる。名残惜しいが他にもじっくり見たい人がいるだろうと席に戻った。
やっぱり混んでるかな? とレジを見ていたらボスが帰って来た。
『ボス…! あの、グッズ…いっぱい買ってくれてありがとうございます。ご飯代も…俺が来たかったのに、払ってもらって…』
『お前が楽しかったなら良い。帰るぞ』
立っていたボスが手を伸ばすので自然にそれを握って二人で店を出る。店の前で一緒に撮りたいな、と思っていたら背後から声を掛けられた。
『宜しければお写真、お撮りしましょうか?』
振り返ればスマホを持った覚さんがいて、その後ろでは双子が何か言い合っている。
何してんだ、あの二人。
『覚さん! 迎えに来てくれたんですか?』
『勿論。ボス、お疲れ様です。こちらも無事に終わりました』
『ああ。ご苦労』
覚さんに店の前で写真を撮ってもらう。本当はボスや皆と撮りたいが皆は写れないから俺一人で撮ってもらった。それから覚さんとボスが話している間に双子が寄って来る。
『ネー。宋平ちゃんはやっぱり黒いスニーカーが良いよネ? そうだよネ?』
『やだやだ、わかってないヨ兄者。今のオシャレは白だヨ。これで決まり!』
どうやら俺の靴が紛失したと思っているらしい二人が、新しいのを買ってくれたみたいだ。新品の…しかもちょっと良い俺でも知ってるようなブランドの黒と白の二足の靴。
『これって同じ種類の別カラーだよね?』
それなら、と二人が持っていた靴を片方だけ入れ替えて持つ。
『これで履くね。古くなってもまた片方ずつ履けるなんて最高じゃん。ありがとう、二人とも』
どうせ突き返しても受け取ってくれないだろうし、返品の為の箱とかもない。返したところでサイズも違うし。ならば自分の為に買って来てもらったのだから大切に使おうとお礼を言う。
…スニーカーすぐダメにしたの謝らないと。蒼二兄、怒るだろうなぁ。
『…うん。もう、なんて言うか。宋平ちゃん大好きネ。何。我らの取説とか持ってる?』
『ズキュンと来たヨ、胸苦しい! 恐ろしいっ、恐ろしい子だヨ!!』
はいはい、とワーワー言う双子の手を引いて近くのベンチに座るとコラボカフェで得た戦利品を見てもらう。ボスが当ててくれたポロポッチのグッズを見せると二人は更に嬉しそうに笑うのだ。
『やっぱりボスの癖が出てるネ。これ買ったのボスだネ?』
『うわ。凄い数だヨ』
癖…? なんだ、癖って。
不思議そうにしていたら黒河がそれに気付いて覚と共にこちらに来るボスを指差す。
『ん? 貢ぎ癖。あの人、こういうことになるとなんでも買い与える癖があるんだよネ。わかりやすいネー』
『これで二例目だヨ』
ふと思い出すのは、ボスの部屋にあったオメガの部屋。なるほど。あれはそういうことだったのかと胸が痛むも、それを出さないで戻って来たボスを迎える。双子と覚が車へ誘導してくれるので、隣に立つボスを見上げる。
『ボスと一緒だったから、凄く楽しかったです。こんなことなら最初からボスを一番に誘えば良かった!』
何の気も無しに、…いや。気持ちを抑えるように出てしまった言葉。
だけどボスは、それを聞いて少しの間だけ立ち止まってから俺の手を取ってしっかりと握る。
『…またいつでも連れて来てやる。約束だ』
『え…、っはい! 楽しみです!』
貴方から出る約束の言葉の重みを理解しているから嬉しくて仕方ない。波瀾万丈の襲撃からこんなことになるなんて思わなかった。
ここから弐条会は本格的な巻き返しを図り、二つの陣営の実力は完全に拮抗することになる。
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だからそんなに怒らないでほしいネ! 不可抗力でしかない、見てよコレ! 全然サスペンダー離してくんないの、この子! 我に此処でパンイチになれって?』
深い眠りに入っているのに、妙に騒がしい。嗅ぎ慣れない煙草と汗の匂い。疲れてしまって心細いのに誰かが俺から安定剤を奪おうとする。
止めてよ、取らないで。
『ほら全然離さないネ?! ヘルプ、ボス!』
『面倒臭ェな。お前がそれ差し出しゃ済む話だろ…ったく、貸してみろ』
握り締めた手に何か温かなものが重なる。凄く理想的な温度のそれと、先程から嗅ぎ慣れた良い匂いがするので重い瞼を開く。
『…起きたか。しっかりしろ、お前が行きたがってたンだろォが』
『宋平ちゃん起きた?! よしっ、セーフだネ! カフェにはさっき連絡入れたから十分遅刻だけど問題ないからネ! はいこれ、適当な店で買ったサンダル。帰るまでに良いの買っとくからネ~。はいはい、抱っこ代わってボス!』
ボス?
掴んでいた手に、重ねられる手。そっとそれを離して嗅ぎ慣れた安心する人の方に向くと無意識に身体がそっちに傾き、何かに抱き上げられる。
夏なのに、ヒンヤリとした服の素材が気持ち良くて引っ付く。
『怪我は打撲とか。辰見が診て湿布とか貼ってあるから気を付けてネ。ったく、相変わらず犬飼の作戦はハイリスク、ハイリターンなんだから』
『…まァ、襲撃の人数が大幅に増えたのは想定外だったか。死ぬ気で戦果上げて挽回したらしいな』
『当たり前だネ。これ以上の失態は許されない。ってことで、幹部で医務室行きは犬飼だけ。内容もただの擦り傷だし。
作戦も完了、いよいよ我々の反撃開始かネ。だからボスは、先にこの子と祝杯上げてネ!』
誰かに抱っこをされながら歩いているのか心地良い揺れにウトウトしていたけど、ふと目を開けたら誰かの首元が見えて擦り寄る。
『宋平。お前の行きたがってたカフェとやら、着いたぞ。歩けそうか?』
『か、ふぇ』
顔を上げて見ると落ち着いた雰囲気の道にある大きなビル。その窓には中から飾り付けられたキミチキ! のキャラクターの絵やグッズが所狭しとあり俺は夢のような場所に目を輝かせてそれを指差す。
『ポロポッチ…!!』
相変わらず可愛らしい満面の笑みを浮かべる少しふっくらした柴犬。コラボカフェ限定の衣装を身に付けた彼の愛らしい姿に歓声を上げる。
『入るぞ』
『…あれ? ボス?』
どうして、と言う前にボスが店内に入ってしまった。すぐに店員さんが近くに来ると何か話してから奥の席へ歩き出す。ぐしぐし、と目を擦りながら目を覚まそうとするとキミチキ! の代表曲が流れてきて自然と目が覚める。
…夢が覚めたら、また夢の世界にいる…。
『こちらのタッチパネルからお食事、グッズ等が全てお買い求めいただけます。店舗限定グッズのみあちらの窓口からお求め下さい。
動画は禁止ですが、お写真等は大丈夫です。では、こちらは入店特典となります。ごゆっくりお楽しみください』
『入店特典…? そういうモンがあるのか、ありがとよ』
裏返したカードが俺の前に置かれ、ピッピッと何かが注文される音がする。俺がやっと覚醒したのは料理が揃って並べられた時だった。
コラボカフェならではのキャラクターたちが好きな料理やイメージした料理、飲み物が並べられボスがカシャカシャと写真を撮ってからカトラリーを用意した。
『ボス…? あれ、俺…アジトが、囲まれて…』
『覚えてねェのか? 辰見の話じゃアジトが襲撃されてお前が助けを呼びに行ったところを、攫われそうになったンだぜ?
ああいう時は、ちゃんとアジトにいろ。無事で良かった…かなり大規模な襲撃で、横やりがなかったらかなりの被害が出てただろォな』
話を聞きながら目の前に置かれた料理に意識が向く。用意されたのはなんと、ポロポッチのお尻をイメージしたパンケーキだ。ポロポッチが罠にハマってお尻が抜けなくなるエピソードから生まれたらしい。
か、可愛いっ…俺の癒し!!
『かわいい!』
『お前の方が、…いやなんでもねェ。遅れた分の時間短くなってるから食べな。写真は撮っておいた。あと、なんか紙がついてきたぞ』
ほら、と言われて渡された入店特典に料理に付いてくるコースター。何人かキャラクターがいるのにほぼ全てにポロポッチがいる。
…何この人、引き運が最強過ぎる。
『欲しいのは出たか?』
『出たっ、出た出た! 凄いよボス…! わぁ可愛い、帰ったらちゃんと見ようっ』
俺はポロポッチのパンケーキ、ボスは主人公が始まりの街の居酒屋で食べたローストビーフとパンのセットを注文していた。
…なるほど、ローストビーフもお好き、と。
『美味いか?』
『はい! この、このポロポッチの部分が勿体無くて食べられない…』
『食え。ほら、ちゃんと肉も食え』
ローストビーフを口元に運ばれ、反射的にパクリと口にして咀嚼する。美味しいなーと思っていたら今更ながら何をしたのか気付いて固まってしまう。
やべぇ。あまりにも自然に食べさせてもらうから普通に食べちゃった…。
そっとボスを盗み見ると気にせず追加で来た料理を受け取っているところだった。全然気にしてないようで安心したけど、それはそれで面白くない。
だけど…。
『終わった皿寄越せ、片付ける』
『まだ食えるか? 無理なら俺が食べるから食い過ぎるなよ』
『客が少なくなって来たから、写真撮って来るなら今だな。一緒に行くか?』
『黒が連れて来たから荷物なんも無ェだろ。今日頑張った報酬だ。全部払ってやるから、欲しいモンちゃんと買いな』
『レジが混むンだとよ。先に支払って来るからお前は茶でも飲んで待ってな』
行って来る、と言ってレジに向かうボスの背中を見送りながら渡されたお茶を飲む。
…甲斐甲斐し過ぎない? え。何、これ…ボスの持ち前の気配り上手? いやいや、あの人が人に気配りなんて…ええ?
ええっ…?!
『…ずっと待っててくれて、その上…こんなによくしてくれるなんて』
あの人、優し過ぎないか? ただでさえ自分は興味ないジャンルなのに…。
『これで惚れるなって無理だろっ…! 既に惚れているけどもっ!!』
一人で騒いでいたら店員さんが購入したグッズを持って来てくれた。なんだか選んだよりも数が多いみたいだけど、目の前で伝票と合わせて数えてくれたから間違いないみたいだ。
…さてはボスか?!
帰って来たらお礼を言わないと、と思いつつボスを待っていると何やらレジが一瞬だけ盛り上がったような気がする。
レジが盛り上がるってなんだ? 誰かゾロ目の会計でもしたのかな…。
『今の内に…』
そっと席を離れて、とあるショーケースを見つめる。そこにはなんと、等身大ポロポッチぬいぐるみが展示されていて会場限定で受注販売出来るらしい。
まぁ、値段がとんでもないから見るくらいしか出来ないが。仕方ない…等身大な上にコラボカフェの衣装を着たウルトラスーパーめちゃくちゃ可愛いポロポッチだもん。
『…ふふ。このふにゃふにゃした笑顔とベロ出してるの、可愛い…』
きっと大好きな主人公の前にいる時はこんな顔なんだろうと想像するとこっちも笑顔になれる。名残惜しいが他にもじっくり見たい人がいるだろうと席に戻った。
やっぱり混んでるかな? とレジを見ていたらボスが帰って来た。
『ボス…! あの、グッズ…いっぱい買ってくれてありがとうございます。ご飯代も…俺が来たかったのに、払ってもらって…』
『お前が楽しかったなら良い。帰るぞ』
立っていたボスが手を伸ばすので自然にそれを握って二人で店を出る。店の前で一緒に撮りたいな、と思っていたら背後から声を掛けられた。
『宜しければお写真、お撮りしましょうか?』
振り返ればスマホを持った覚さんがいて、その後ろでは双子が何か言い合っている。
何してんだ、あの二人。
『覚さん! 迎えに来てくれたんですか?』
『勿論。ボス、お疲れ様です。こちらも無事に終わりました』
『ああ。ご苦労』
覚さんに店の前で写真を撮ってもらう。本当はボスや皆と撮りたいが皆は写れないから俺一人で撮ってもらった。それから覚さんとボスが話している間に双子が寄って来る。
『ネー。宋平ちゃんはやっぱり黒いスニーカーが良いよネ? そうだよネ?』
『やだやだ、わかってないヨ兄者。今のオシャレは白だヨ。これで決まり!』
どうやら俺の靴が紛失したと思っているらしい二人が、新しいのを買ってくれたみたいだ。新品の…しかもちょっと良い俺でも知ってるようなブランドの黒と白の二足の靴。
『これって同じ種類の別カラーだよね?』
それなら、と二人が持っていた靴を片方だけ入れ替えて持つ。
『これで履くね。古くなってもまた片方ずつ履けるなんて最高じゃん。ありがとう、二人とも』
どうせ突き返しても受け取ってくれないだろうし、返品の為の箱とかもない。返したところでサイズも違うし。ならば自分の為に買って来てもらったのだから大切に使おうとお礼を言う。
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『ズキュンと来たヨ、胸苦しい! 恐ろしいっ、恐ろしい子だヨ!!』
はいはい、とワーワー言う双子の手を引いて近くのベンチに座るとコラボカフェで得た戦利品を見てもらう。ボスが当ててくれたポロポッチのグッズを見せると二人は更に嬉しそうに笑うのだ。
『やっぱりボスの癖が出てるネ。これ買ったのボスだネ?』
『うわ。凄い数だヨ』
癖…? なんだ、癖って。
不思議そうにしていたら黒河がそれに気付いて覚と共にこちらに来るボスを指差す。
『ん? 貢ぎ癖。あの人、こういうことになるとなんでも買い与える癖があるんだよネ。わかりやすいネー』
『これで二例目だヨ』
ふと思い出すのは、ボスの部屋にあったオメガの部屋。なるほど。あれはそういうことだったのかと胸が痛むも、それを出さないで戻って来たボスを迎える。双子と覚が車へ誘導してくれるので、隣に立つボスを見上げる。
『ボスと一緒だったから、凄く楽しかったです。こんなことなら最初からボスを一番に誘えば良かった!』
何の気も無しに、…いや。気持ちを抑えるように出てしまった言葉。
だけどボスは、それを聞いて少しの間だけ立ち止まってから俺の手を取ってしっかりと握る。
『…またいつでも連れて来てやる。約束だ』
『え…、っはい! 楽しみです!』
貴方から出る約束の言葉の重みを理解しているから嬉しくて仕方ない。波瀾万丈の襲撃からこんなことになるなんて思わなかった。
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