いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう

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弐条会VS弐条会

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Side:覚

 クリスマスイブ当日。朝早くからボスと刃斬さんは野暮用があると車で出掛けて、残った自分と部下たちは宋平の為にクリスマスイブのパーティーの飾り付けを行っていた。

 犬飼は近くにあるセーフティーハウスにて作業中、猿石は朝はよく散歩に出ていてアジト内や街など気分でフラフラしている。魚神兄弟は相変わらずアジトにはいないがパーティーには参加予定。

『ボスと刃斬さん、何処行ったんスかねー』

『確かあの古城って言ってなかったか? なんか気になることでもあんじゃねーの』

 飾り付けをしながら部下たちがする話に聞き耳を立てる。

 そう。野暮用とはあの古城の件だ。実は事件の後で持ち主が売却を考えているらしいと聞き、二人は話を聞きに行った。このアジトも場所がバレた上に少し手狭になっていたから、あの土地は少し魅力的だ。

 宋平の迎えには間に合うだろうとダンボールの中から星の飾りを取り出した。

 その瞬間、聞き慣れない爆音に続いてアジトが大きく揺れる。思わず手から星の飾りが転がり落ち、自分自身も床に倒れた。

『っ、地震じゃ、ないですね…。また襲撃か。ボスには自分が連絡します! 情報が入り次第共有、防衛システム室にいるから何かあれば来なさい!

 …は。宋平…、早ければもう出てるか』

 起き上がってすぐに複数の部下と防衛システム室へと走る。幾つものパソコンとスマホ、中でも一際大きな画面にいつも向き合う男は今はいない。

 全く。あの男はとっとと防衛隊長を引退するべきですね。

『覚さん。全員の位置情報出します。一斉にアジトの現状に損傷を送信。

 …一番近い人物は宋平ですね。駅にいるようです』

『は?! 宋平が一番近い? …ったく、猿石は一体どこまで行ったんですか! 実行部隊隊長及び処理部隊隊長も速やかに召集を』

 迎えに行ってあげたいが、まだ状況がわからず役に立たない幹部ばかりで手が離せない。宋平の近くに誰かいないか見るが誰一人いない上に、その場から宋平が全く動かない。

『まさか…。っ駅の防犯カメラを!』

『すぐに出ます』

 ライブカメラの映像をハッキングさせて巨大な液晶に駅の映像が出る。すると、そこに映った光景に全員が息を呑んだ。

 そこには数十人の怪しげな服装をした連中に囲まれる宋平の姿。この寒空にも関わらず、カーディガン姿でマフラーだけを巻いている彼はいつもの柔らかな表情から一転して凛々しい横顔で相手を睨む。

 嘘でしょう…、もう囲まれてるなんて…。

『大変です覚さん!! アジトにも同じ風貌の輩が迫っていて、今得た情報だと犬飼さんにも敵が迫っていて繁華街方面に向かう怪しげな集団を確認!

 恐らく我々の幹部を各個撃破するつもりかと!』

『そのようです。しかし妙ですね…、あまりにもこちらの情報が抜かれてる。

 …ウイルスか…』

 一体、いつ。

 しかしそれを排する術がない。それをどうにか出来る技術を持つのはウチには刃斬さんか犬飼しかいないのだ。そしてその二人は不在であり、これ以上情報を抜かれない為にどうすべきか考える。

 …いっそ電源を落としてやりましょうか?

 ピロン。

 そんな中で届いた、一通のメール。不審に思いながらもそれを見れば件名が気になって構わず開いた。そしてそこには、ある人物からの協力要請があり自分は構わずそのファイルを開いてそれを起動する。

 その協力要請をしたのは他でもない、

 人工知能バースデイだ。

【より良い今日を、より良い明日を。産まれてきたことに感謝を。

 貴方をサポートするAI。何なりとお申し付けください。いえ、この度はこちらからの協力要請を受けて頂き誠にありがとうございました。

 …城に有害な虫が入りました。必要であれば早急にこれを排除した後に全面バックアップ態勢に移行します。のっとり、目には目を。歯には歯を。攻撃には猛攻を。いつでもいけます】

 何もしていないのに、全ての電子機器が起動して画面には弐条会の代紋が浮かび上がる。

【この場所は預かります。全ての幹部に情報を開示、構成員は直ちにこれに加わり幹部の自由を取り戻してください。

 ウイルスを解析、解体します。…三、二、一…完了。新たにシステムを再起動。成功します。五秒後に再起動が完了します。

 成功しました。

 弐条様の元に敵の主力が集まりつつあります、幹部を集めてこれを救出してください。

 正面玄関に敵を確認。排除してください】

 圧巻。

 バースデイによって、あっという間にウイルスが消されると次々とシステムが復旧していき防衛システム室もバースデイが居座ることで様々な情報がすぐに集まるようになった。アナウンスも任せて正面玄関まで向かうと、そこには意外な人物が立っている。

『あれ? 変だなぁ。パニックになった愉快な現場を見に来たつもりだったけど…、意外と冷静じゃん。つまんない』

『…羽魅。貴方、一体どうやって…』

 この包囲網を? という言葉は続かなかった。ぞろぞろと集まる過激派と黒づくめの集団。それらに襲われない彼を見ればもう答えなど一つしかない。

 月見山は弐条会を…否、ボスを裏切ったのだ。

 この男、ボスではなく…恐らく、弟側に寝返っている。そもそも最初からウチに近付くつもりで嫁入りと偽って入って来た可能性すらある。

『そうか。…ウイルスは貴方たちが持ち込んだんですね…。そちらからのメールであれば、警戒心もなく我々は開いてしまう。その中にウイルスが仕込まれていたわけだ』

 真っ黒なボアのコートに身を包んだ男は、妖艶とも言える笑みを浮かべる。

『なんだ。それもバレてたか』

 後ろ手に組んでから可愛らしくステップを刻んでアジトを去る羽魅は、思い出したように振り返ってから声を上げる。

『欲しいものが手に入る瞬間って、愉しいよね? 僕はずーっと欲しかったものがあるんだ。それをあの男は叶えてくれるんだから有り難いよね。

 ふふっ。

 あははは!! 羽魅のことをお嫁さんにするだなんて、バカみたい! …誰があんな奴のオメガなんかになるか。羽魅の望みを叶えてくれたのは感謝するけど、結婚だなんて有り得ない』

 幼さの残る少年は周囲に合図を送る。銃火器を手に迫る奴等にアジト内ではアラームが鳴り、次々と防火シャッターが下がり始めた。部下に手を引かれて中に入るが、まだ避難させていない弟分が気掛かりで何度も道路を見る。

 …流石に、無理ですね。あの敵を突破するのは並の人間でも難しい。あれを容易く片付けられるのは圧倒的なアルファの力を持つ者のみ。

 むしろ。防戦一方の我々も、いつまで保つか。

『お前たちには踏み台になってもらうから。さてと、羽魅も仕上げに入らなきゃ。

 自分たちのボスが殺されるのを、そこで指を咥えて見てたら良いんだ』

『っ待ちなさい!! ボスに何をしたんですか! 貴様…っ弐条会の主人にこんなことをして、タダで済むと思っているのか!』

『は? 弐条会の主人はアイツじゃない。変なこと言わないでよ。これから死ぬ人間が弐条を背負えるわけないでしょう?

 お前も要らないや。羽魅みたいな有能なオメガでもない、ただの運転手なんて。優秀な奴は引き抜くように言われてるからさ。忠誠心だけが高いなんて、今時流行らないよ。じゃあね~』

 閉まるシャッターの向こう側で、優雅に歩いて去って行くオメガ。

 その後ろ姿を見た自分は何とも言えない敗北感と、屈辱でどうにかなりそうだった。

 自分は…っ、自分はあんなオメガをずっと夢見て来たのか。いつか、こんな自分でも供をしてサポートしてあげる…そんな後輩のような、弟のような…そんな存在を待ち焦がれて生きてきたのか?

 最悪だ。悪夢以外の何ものでもない。

 シャッター越しでも敵の侵攻の音が響く。床に蹲っている場合ではない、自分はアジトの留守を守る者として最後まで責任を果たさなければ。

 それぞれの幹部に、勝ち目のある者から援護を送って回収するしかない。…宋平は、あのままではきっと手遅れ。切り捨てなければならない。

 …でも。

『クソッ!! 僅かでも良い! 一番近い宋平に援軍を! あの子を救うのと同時に猿石にも援軍を出す!』

 可愛くて仕方ない子。きっと、ボスだって許してくれますよ。こんなお別れは我々のしたかったことじゃない。最後まであの子を笑顔にして、終わりにする。

 そうですよね、ボス。

【必要ありません】 

 突然のバースデイの発言に自分や部下たちの動きが止まる。一体何を、と声を荒げようとしたところで驚きの言葉が。

【間もなく、到着します。…はい。到着したようです。

 周囲の敵の排除を確認。モニター、出します。あ。宋平様、少し近いですよ】

 何故か柔らかさすら感じるバースデイの言葉に混乱していると、ロビーに設置された液晶パネルが起動して、そこにあるものが映る。

【だれかー。見てるー? あれ。これ確か防犯カメラだよな…、もしかして動いてないか。

 ていうか寒い。うー。誰かぁ…】

 そこには、画面にドアップで映し出された宋平の姿。真っ赤な鼻と頬は寒さではなく、血まで付着しているが本人はピンピンしていた。

 額から流れる血を拭いながらクシャミをする子。その姿に、自分は胸を打たれた。

【開けてよぉ…、寒い…。マジで寒…、ぶぇっくしょい!!】

 命じなくてもゆっくりと開くシャッター。

 地面に転がる敵を踏ん付けながら、自分は寒さで震える子の元へ飛んで行き、しっかりと抱きしめた。


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