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ストーカーではありません!

ツカマッタ!

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 「かわいい。大好きだよ。もう離さないからね。俺たちの邪魔は誰にもさせないよ。」

誰かが私にささやく声がする。私は抱きしめられたまま頭を優しくなでられる。

今までそんな経験がないはずなのに、なぜか以前にもこんな事があった気がする。

(変な夢、、、夢? なんだか本当にさわられているような、、、)

今までに着たことのないような滑らかな肌触りの服に、肌に感じる柔らかいブランケットはいい匂いがする。そよそよと風がふいてきている。私は抱きしめられたまま、頭を撫でられる。

「会いたかったよ。愛しい人。」

今度ははっきりと耳元で声がした。

(違う。夢じゃない。)

私は心地よい空間を名残惜しく感じながら、無理やり目を開けた。

目の前には銀髪で整った顔の男性がいる。腰に手を回され抱きしめられたまま、頭を撫でられていた。

驚き急激に覚醒する。

(どこ?ここは。どういう状況なの。)

明らかに学院ではない豪華な部屋のソファで抱きしめられていた。落ち目のグレゴール侯爵家とは違い、どれも一級品の家具が揃えられている。窓の格子でさえも彫刻が施されて高級感がある。

「あの?公爵様?ここはどこですか?」

なぜか私を離そうとしないザックバード公爵に話しかけた。

「ここは、ガイア公爵邸だよ。ソフィアの部屋だ。もし必要なものがあれば言ってくれ。なんでも用意するからね。」
ふいに、公爵の髪の毛を数本貰えないか尋ねようとしたが、思い留まる。


私は再度謝った。
「あの、公爵様のロッカーを開けてしまったのは申し訳ありません。本当に間違いだったんです。」

ザックバード公爵は思い出したように言う。
「ああ、ストーカーの件ね。ソフィアの独断だったの?それとも誰かに命令されたの?」


私は慌てる。ここでグレゴール侯爵家のお嬢様が主だと伝えるわけにはいかない。落ち目のグレゴール侯爵家は、ザックバード公爵に目をつけられたらすぐに潰れてしまうかもしれない。

「それは、、、、その。イグラード伯爵様が、、、」

「イグラード伯爵家には問い合わせたよ。君のような使用人は覚えがないみたいだ。」

(どうしよう。もうバレてる。動きが速すぎる。)

窓の外は、茜色に染まってきていた。ロッカーで捕まったのは昼過ぎだったはずだ。

「まさか。私寝ていましたか。」

「ああ、数時間程ね。君がどこの使用人か分からなかったから、とりあえず俺が引き取る事にしたんだよ。仕える主を言う気になったかな?」

「・・・」

「無理に言わなくてもいいよ。好きなだけこの部屋に滞在すればいいさ。俺もうれしいから。」

そういうと、ザックバード公爵は、私の項に顔を近づけ、強く抱きしめてきた。

(なんなの?この距離の近さは?)


スーハースーハー

「ソフィアはいい匂いがするね。ずっとこうしていたいよ。」

抱きしめられ、においを嗅がれゾクゾクする。

(変態なの?匂いフェチ変態なの?戦争の英雄がこんなに可笑しな人だなんて、、、)

私は、どうすればいいか分からず、呆然とした。












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