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ワタシではありません!

ウシロダ!

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アリア皇女は言う。

「まあ、信じられませんわ。そのような言葉を使うなんて、マーガレットの言う通りですわ。薄汚い下女だと聞きましたけど、まるでネズミのようだわ。輝くあの方を、卑しくも付け回し、あの方から愛されていると勘違いして堂々と掠め取る厄介者。」

アリア皇女は、複雑な刺繍が施された美しい扇で口元を隠し、ソフィアを睨みつけながら罵ってきた。

ソフィアは、美しいアリア皇女から紡ぎ出される信じられない言葉の数々に呆然とした。


(マーガレット、、、、、マーガレットお嬢様!)



「マーガレットお嬢様が、、、、もしかして、、、、」


アリア皇女は、嘲るように笑い言った。


「マーガレットとは黒魔術総会でお会いしましたの。ふふふ。彼女は優秀よ。何度もお願いしてやっとザックバード公爵様の等身大人形を譲っていただきましたの。私は毎晩一緒にザックバード様と過ごしていますのよ。この世界で一番ザックバード様を愛しているのは私ですわ。美しい茜色の瞳、煌めく銀髪、逞しい体、誰よりも強いザックバード様。そう、私こそがあの方の妻に相応しい。薄汚いネズミは、早くドブに帰りなさい。」

アリア皇女は、扇を閉じ、ソフィアに向けて突き付けてきた。

(ああああ、変態皇女。マーガレットお嬢様の使用済み人形で、夜な夜な楽しむ変態皇女。)


ソフィアは、思わず想像してしまい、気持ち悪くなって口元を抑えた。


顔色の悪いソフィアを見て気を良くしたのか、アリア皇女は嬉しそうに言った。

「帝国の為にソニア王女が必要だと、御父様やお兄様がおっしゃっていましたけど、貴方の正体について私は知っておりますの。何度もお父様に偽物だと伝えましたのに、相手にしてくれませんでしたわ。本当に忌々しい娘。ザックバード様には私が嫁ぐ予定でしたのよ。あの方も帝国の血を引く皇女と結婚するとおっしゃっていましたわ。当然私のはずでしたの。それなのに、行方不明だったソニア王女の名前を語ってまで、あの方に近づくなんて、、、、

この、変態下女!」





ソフィアは、首を思いっきり横に振り言った。

「変態は、私ではありません!」


(変態は、貴方でしょ!)


ここは、帝国だ。

なぜか、周囲の使用人達はソフィアとアリア皇女を遠巻きに眺めている。使用人達もソフィアと同じく顔色が悪い。




(なんなの?高貴な人達は、黒魔術とザックバードに執着する運命なの。そんなザックバードと一生を共にするなんて、、、本当に私にできるかしら。もしかしたら好機かもしれない。ザックバードの事は好きだけど、時々怖いもの。)


ソフィアは目の前のアリア皇女を見る。艶めく黒髪、美しい瞳、豪華な衣装。きっとザックバードと並ぶとお似合いだと思う。それに、ザックバードが愛しているのは、ソニア王女だ。
王族やザックバード公爵は、ソフィアの事をソニア王女だと言うが、どうしても信じられない。アリア皇女の方がザックバードに相応しい、、、かもしれない。



ソフィアは、アリア皇女を見て言った。

「皇女様のおっしゃっている事はわかりました。確かに私より貴方様がザックバード公爵に相応しいかもしれません。私は身を引きま、、、、、、、。」



ソフィアの言葉を聞きながら、目の前のアリア皇女の顔がどんどん火照り、目が潤み、呆けたようにソフィアを見ている。明らかに様子がおかしい。どうやら、ソフィアの後ろを見ているようだ。



ソフィアは、話の途中で後ろを振り返った。













そこには、満面の笑みで立つザックバード公爵がいた。


銀髪が太陽の光を反射して煌めいている。茜色の瞳の奥は全然笑っていない。


ゾクゾクする。ダメだ。身を引くなんて絶対に言ったらいけない。ソフィアは、涙を堪えながら言った。


「、、、、せん。ザックバードとは一生側にいると誓いました。愛しているの。ごめんなさい。アリア皇女様。」




ソフィアを、ザックバード公爵は強く抱きしめて言った。




「興味深い話をされていましたね。私の人形をお持ちだとか?探していたのです。もちろん返していただけますよね。アリア皇女。」



(どこから聞いていたの!絶対いなかったはずなのに!盗聴?盗聴器なの?)




ソフィアは、ザックバードの腕の中で涙目で震えた。

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