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第5話 海先
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水色に輝く指輪を、指に嵌めてミライザは考えた。
ミライザには帰る場所が無い。
今のミライザには何も残っていない。
そう、ミライザは自由だ。
何をしてもいい。どこに行ってもいい。
(だったら帝国へ行こう。)
マージャス侯爵家がある王国には帰りたくなかった。
帝国へ留学していたミライザだが、帝国学院から殆ど出た事が無かった。世界で最も広い国土を持つ帝国を旅するのも良いかもしれない。
ミライザは、海の廃墟から脱出した。
地底へ伸びる無数の建物の間をミライザは泳いでいく。
上空から無数に伸びる光の帯はミライザの未来を祝福しているかのように輝いている。
狭い洞窟を潜り抜け、沢山の魚や泡と共にミライザは海面へ向かった。
ダイヤモンドのように輝く水面が近づいてくる。光の枠を通り抜けミライザは勢いよく水面に出た。
ザバァー。
周囲には海と空だけが広がっていた。どこまでも伸びるコバルトブルーの海。水平線を境界に上空一杯に広がるホワイトブルーの空。
海に漂いながらミライザは、自分の指を見た。そこには水色の指輪が光り輝いている。
やはり視界がクリアで、遠い波飛沫までよく見える。
(これは現実だわ。私は変わったの。)
ミライザを包み込むように海に広がる髪は、いつの間にか青みがかり濃紺の髪に変化していた。
水面を時折、勢いよく泳ぎ出た魚が飛び跳ねる。
その魚を狙う海カモメの頭部は黄色だった。
(あの海カモメは、帝国南部のジーン諸島周辺にしか生息しないガウリアスという名の鳥だわ。)
陸地は周囲に見えないが、今のミライザはどこまでも泳げそうな気がする。
頭上高く、強い光を放つ太陽が、今の時刻を知らせてくれる。
帝国へ行くにはミライザは北へ進めばいい。
ミライザは指を一本立てて、太陽の影を作り出した。
太陽を背に海の中に再び潜り、帝国へ向けて泳ぎ出した。
南の海は暖かく、カラフルな熱帯魚が泳ぎ回っている。
ほとんどの熱帯魚が集団で漂っている。
仲間がいる彼らを見ると無性にミライザは羨ましくなる。
ミライザは、イルカのように潜り熱帯魚達へ近づき、手を伸ばした。
小さくて美しい彼らはすぐにミライザから逃げて離れて行った。
予想通りに動きにも関わらず、ミライザは落胆を感じた。
帝国大学院では研究チームに所属していた。帝国ならミライザを受け入れてくれる場所があるかもしれない。
手紙が届くまでは、それなりにチームメンバーと仲良くしていると感じていた。些細な誤解があっただけだと今でも思っている。
ミライザは、帝国へ向かって泳いでいった。
数時間泳ぎ続け、ミライザはやっと岸辺を見つけた。無数の白い砂で覆われている小さな砂浜と、それを取り囲む岩場が見える。
どこまでも泳げると感じていたミライザだが流石に疲れ切っていた。
重たい体を動かして、白い砂浜に辿り着き、体を横たえた。
「はぁはぁ。少しだけ、休んだら。」
ずっと泳ぎ続けていたミライザは、浜辺に着くなり瞳を閉じて横たわった。
ギシギシ。
闇に吸い込まれる意識の中、ミライザは誰かの足音を聞いた気がした。
ミライザには帰る場所が無い。
今のミライザには何も残っていない。
そう、ミライザは自由だ。
何をしてもいい。どこに行ってもいい。
(だったら帝国へ行こう。)
マージャス侯爵家がある王国には帰りたくなかった。
帝国へ留学していたミライザだが、帝国学院から殆ど出た事が無かった。世界で最も広い国土を持つ帝国を旅するのも良いかもしれない。
ミライザは、海の廃墟から脱出した。
地底へ伸びる無数の建物の間をミライザは泳いでいく。
上空から無数に伸びる光の帯はミライザの未来を祝福しているかのように輝いている。
狭い洞窟を潜り抜け、沢山の魚や泡と共にミライザは海面へ向かった。
ダイヤモンドのように輝く水面が近づいてくる。光の枠を通り抜けミライザは勢いよく水面に出た。
ザバァー。
周囲には海と空だけが広がっていた。どこまでも伸びるコバルトブルーの海。水平線を境界に上空一杯に広がるホワイトブルーの空。
海に漂いながらミライザは、自分の指を見た。そこには水色の指輪が光り輝いている。
やはり視界がクリアで、遠い波飛沫までよく見える。
(これは現実だわ。私は変わったの。)
ミライザを包み込むように海に広がる髪は、いつの間にか青みがかり濃紺の髪に変化していた。
水面を時折、勢いよく泳ぎ出た魚が飛び跳ねる。
その魚を狙う海カモメの頭部は黄色だった。
(あの海カモメは、帝国南部のジーン諸島周辺にしか生息しないガウリアスという名の鳥だわ。)
陸地は周囲に見えないが、今のミライザはどこまでも泳げそうな気がする。
頭上高く、強い光を放つ太陽が、今の時刻を知らせてくれる。
帝国へ行くにはミライザは北へ進めばいい。
ミライザは指を一本立てて、太陽の影を作り出した。
太陽を背に海の中に再び潜り、帝国へ向けて泳ぎ出した。
南の海は暖かく、カラフルな熱帯魚が泳ぎ回っている。
ほとんどの熱帯魚が集団で漂っている。
仲間がいる彼らを見ると無性にミライザは羨ましくなる。
ミライザは、イルカのように潜り熱帯魚達へ近づき、手を伸ばした。
小さくて美しい彼らはすぐにミライザから逃げて離れて行った。
予想通りに動きにも関わらず、ミライザは落胆を感じた。
帝国大学院では研究チームに所属していた。帝国ならミライザを受け入れてくれる場所があるかもしれない。
手紙が届くまでは、それなりにチームメンバーと仲良くしていると感じていた。些細な誤解があっただけだと今でも思っている。
ミライザは、帝国へ向かって泳いでいった。
数時間泳ぎ続け、ミライザはやっと岸辺を見つけた。無数の白い砂で覆われている小さな砂浜と、それを取り囲む岩場が見える。
どこまでも泳げると感じていたミライザだが流石に疲れ切っていた。
重たい体を動かして、白い砂浜に辿り着き、体を横たえた。
「はぁはぁ。少しだけ、休んだら。」
ずっと泳ぎ続けていたミライザは、浜辺に着くなり瞳を閉じて横たわった。
ギシギシ。
闇に吸い込まれる意識の中、ミライザは誰かの足音を聞いた気がした。
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