【完結】人魚の涙

仲 奈華 (nakanaka)

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第6話 連去

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ミライザは暖かい世界を一人漂っていた。

ここは暖かくて優しくミライザを受け入れてくれる。

水色の世界を漂う中、無数の泡と光がミライザを包み込む。

じんわりと背中とお腹の辺りが暖かい。







ミライザはゆっくりと瞳を開いた。

ミライザの目の前には真っ白なシーツが広がっていた。

どうやらベットの上で寝ていたみたいだ。

見知らぬ部屋の中でミライザは目を覚ました。

明らかに最高級の物だと分かる本革のソファ。精巧な彫刻が施された柱。茶褐色のテーブルセットは、宝石のように光り輝いている。ミライザは横になったまま、呆然と辺りを見渡す。

少し離れた場所に銀枠の鏡を見つけたミライザは、ゆっくりと起き上がり鏡を見た。

鏡の中には美しい娘がいた。

濃紺の髪は緩やかにウェーブを描き、艶がある。長いまつ毛に彩られた大きな瞳。紅い唇に真っ白な肌。

ミライザは鏡を見て驚き瞬きをした。

鏡の中の美女も瞬きをする。

(本当に私なの?)

心なしか亡くなった実母に似ている気がする。ミライザは父の後妻から何度も醜い娘だと言われてきた。移り住んだ薄暗い北部屋には鏡が無く、視力が落ちてから分厚い眼鏡をいつもかけ、ミライザは眼鏡が無ければ自分の顔さえもはっきりと見えないようになっていた。

ミライザは海に落ちるまで、自分は醜いと思い込んでいた。でも本当は違ったのかもしれない。

ずっと会いたかった母は、ミライザの中にいた。

ミライザは鏡を、もっとよく見ようと立ちあがろうとした。












その瞬間、ミライザは動きを阻まれ、ベッドへ引き戻された。







ミライザのお腹に大きな手が添えられている。
いつの間にかミライザは、暖かい何かに背後から抱きしめられ撫でられている。
この感触には覚えがある。起きる前に感じていた、あの暖かさだ。


ミライザは混乱していた。


そうだ。泳ぎ疲れて浜辺で休もうと寝てしまったのだ。


清潔なシーツの上にいるのも、ベッドに寝ているのも可笑しい。

何より誰かに抱きしめられている事が、何よりもあり得ない。

ミライザは、ベッドに横たわりながら後ろの人物を振り向いた。









ミライザは、見知らぬ男性に抱きしめられていた。整った顔立ちの金髪の男性は、瞳を閉じている。上半身は裸の彼は当然のようにミライザを抱きしめ包み込んでいる。ミライザは彼に抱きしめられ、彼が筋肉質で体格がいい事が肌で感じられた。

ミライザは自分の体を見る。

ミライザは男物のシャツを着ていた。海にいた筈なのに、ミライザの体はサラサラで、サッパリしている。

少し苛立ちながらミライザを抱きしめる男の腕を持ち上げ、そこから逃れようとした。その時、ミライザの耳元で低い声がした。

「起きたの?僕の人魚姫?」



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