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第11話 青銀
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朝食後、ミライザは用意されたワンピースに着替え、グランと共に外出した。
馬車に乗り、たどり着いたのは高級服飾店が立ち並ぶライマーセン通り最奥の大きな建物だった。
その百貨店は、数十人が同時に通れそうな広く豪華な入り口に、塵一つなく清掃された店内。洗礼されたドレスやスーツを身についた店員が、微笑みながら接客をしていた。
ミライザは、グランにエスコートされながら店内へ足を踏み入れた。
「お久しぶりです。どうぞこちらへ。」
店の入り口には、白髪交じりの男性が待ち構えていた。グランを見つけた男性は、すぐに近づいてきて深々とお辞儀をする。
「ああ、ロジャー。よろしく頼むよ。今晩のパーティに参加する事にしたから。」
グランの言葉に、ロジャーと呼ばれた男性店員は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに笑顔となり言った。
「さようでございますか。皆様喜ばれる事でしょう。こちらへどうぞ。」
ミライザは、グランに手を引かれながら、男性店員の後をついて歩いて行った。
ガラスケースの中に展示されている無数の宝飾品の間を、歩いて行く。
高い天井には大きなシャンデリアが煌々と輝き、その光を受けて宝飾品がより輝きを増している。
店内には、大きなガラスケースに展示されている宝飾品が複数飾られていた。
自ら燃えるように輝いているルビーのネックレス。
無数のダイヤモンドの中心に輝くブルーダイヤのティアラ。
深い歴史を感じさせられる琥珀のイヤリング。
ミライザとグランは、宝石たちの間を進み、店の奥まで案内された。
店の奥には、複雑な彫刻が施された大きな扉があった。
黒いスーツに身を包んだ長身の男性店員が、恭しく扉を開く。
ゆっくりと扉の向こうに足を進めた。
案内された場所には、数百着のドレスと共に、煌びやかな宝飾品が並べられていた。
中央の大きなソファにミライザは案内され座らされた。
目の前のテーブルには、先程ガラス張りに見た宝飾品より一際輝きを放つ宝飾品の数々が並べられている。
ミライザは、目が眩むような品々に囲まれながら唖然として、言った。
「もしかして、ここから選ぶの?」
グランは、既に数着のドレスを確認している。
「時間がないから既製品しか用意できないが、許してくれ。」
既製品とグランは言ったが、グランが今手に取っているドレスは、複雑な刺繍を施された生地が光を反射し光沢を放っているように見える。銀糸とシルクを編み込んでいる生地が使われているのかもしれない。
「私、こんな高価な物を身に着けた事がないわ。選べれないわ」
帝国学院のパーティは毎年開催される。ミライザも今までに何度か参加した事がある。ミライザはいつも紺のスーツを着て、研究員として僅かな時間だけ参加していた。帝国学院のパーティには、学院卒業生が多く参加している。稀だが、皇族が顔を出す事もあるらしい。ミライザと同じ女性研究員達だけでなく、参加する多くの女性達が、パーティの為にドレスや宝飾品を購入している事は知っていた。ミライザはマージャス侯爵家出身だが、実家からの援助はなく、研究員の月収は生活費と研究に必要な文献や資料を揃えるとほとんど残らなかった。ドレスや宝飾品を揃える余裕なんてなかった。
「そう?じゃあ僕が選んであげるよ。ミライザに着て欲しいドレスがあるから。」
グランは、そういうと控えていたロジャーへ言った。
「ブルーシルバーのドレスを出してきてくれないか?」
「ですが‥‥‥あのドレスは。いえ、かしこまりました。すぐにお持ちします。」
暫くして、店員が持って来たドレスは、マーメードラインの美しいドレスだった。ブルーの生地は時折シャンデリアの光を浴びて銀色に煌めいている。
ドレスを受け取ったグランは、ミライザに手渡してきた。
滑らかで美しい生地は、触れると心なしか涼しさを感じさせられた。
「試着してみてくれないかな?」
刺繍やレース、宝石等のデコレーションが何もつけられていないブルーシルバーのドレスは、目の前に並べられている豪華な数々のドレスに比べてシンプルで好ましく感じられた。
「ええ、私も気に入ったわ。」
試着室へ移動し、身に着けてみるとミライザに誂えたようにドレスは肌に馴染んだ。
鏡で確認すると、濃紺のミライザの髪と、ドレスの色合いがとてもよく合っている。
亡くなった母が「将来は美人になる」と言っていた言葉を思い出す。
「お母様は正しかった。そうよね。」
鏡の中の、母に似た美人がミライザと共に微笑んだ。
ミライザが着替えている間に、グランは宝飾品も選んでいたらしい。
ダイヤモンドのネックレスとイヤリング。
グランに言われるがままに、ミライザは身に着けた。
「ねえ、帝国学院のパーティへ行くのよね。こんなに着飾る必要なんてないんじゃない?」
「僕の実家は裕福だと伝えただろ。今日は、僕の兄夫婦達も参加する予定なんだ。実家は身だしなみに煩くてね。僕のパートナーとして君を紹介する事になると思うから、それなりの物を身に着けて欲しいだけだよ。」
どうせ、今日だけの付き合いになるだろう。グランもこう言っているし、そんなに気にする事もないかとミライザは納得した。
馬車に乗り、たどり着いたのは高級服飾店が立ち並ぶライマーセン通り最奥の大きな建物だった。
その百貨店は、数十人が同時に通れそうな広く豪華な入り口に、塵一つなく清掃された店内。洗礼されたドレスやスーツを身についた店員が、微笑みながら接客をしていた。
ミライザは、グランにエスコートされながら店内へ足を踏み入れた。
「お久しぶりです。どうぞこちらへ。」
店の入り口には、白髪交じりの男性が待ち構えていた。グランを見つけた男性は、すぐに近づいてきて深々とお辞儀をする。
「ああ、ロジャー。よろしく頼むよ。今晩のパーティに参加する事にしたから。」
グランの言葉に、ロジャーと呼ばれた男性店員は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに笑顔となり言った。
「さようでございますか。皆様喜ばれる事でしょう。こちらへどうぞ。」
ミライザは、グランに手を引かれながら、男性店員の後をついて歩いて行った。
ガラスケースの中に展示されている無数の宝飾品の間を、歩いて行く。
高い天井には大きなシャンデリアが煌々と輝き、その光を受けて宝飾品がより輝きを増している。
店内には、大きなガラスケースに展示されている宝飾品が複数飾られていた。
自ら燃えるように輝いているルビーのネックレス。
無数のダイヤモンドの中心に輝くブルーダイヤのティアラ。
深い歴史を感じさせられる琥珀のイヤリング。
ミライザとグランは、宝石たちの間を進み、店の奥まで案内された。
店の奥には、複雑な彫刻が施された大きな扉があった。
黒いスーツに身を包んだ長身の男性店員が、恭しく扉を開く。
ゆっくりと扉の向こうに足を進めた。
案内された場所には、数百着のドレスと共に、煌びやかな宝飾品が並べられていた。
中央の大きなソファにミライザは案内され座らされた。
目の前のテーブルには、先程ガラス張りに見た宝飾品より一際輝きを放つ宝飾品の数々が並べられている。
ミライザは、目が眩むような品々に囲まれながら唖然として、言った。
「もしかして、ここから選ぶの?」
グランは、既に数着のドレスを確認している。
「時間がないから既製品しか用意できないが、許してくれ。」
既製品とグランは言ったが、グランが今手に取っているドレスは、複雑な刺繍を施された生地が光を反射し光沢を放っているように見える。銀糸とシルクを編み込んでいる生地が使われているのかもしれない。
「私、こんな高価な物を身に着けた事がないわ。選べれないわ」
帝国学院のパーティは毎年開催される。ミライザも今までに何度か参加した事がある。ミライザはいつも紺のスーツを着て、研究員として僅かな時間だけ参加していた。帝国学院のパーティには、学院卒業生が多く参加している。稀だが、皇族が顔を出す事もあるらしい。ミライザと同じ女性研究員達だけでなく、参加する多くの女性達が、パーティの為にドレスや宝飾品を購入している事は知っていた。ミライザはマージャス侯爵家出身だが、実家からの援助はなく、研究員の月収は生活費と研究に必要な文献や資料を揃えるとほとんど残らなかった。ドレスや宝飾品を揃える余裕なんてなかった。
「そう?じゃあ僕が選んであげるよ。ミライザに着て欲しいドレスがあるから。」
グランは、そういうと控えていたロジャーへ言った。
「ブルーシルバーのドレスを出してきてくれないか?」
「ですが‥‥‥あのドレスは。いえ、かしこまりました。すぐにお持ちします。」
暫くして、店員が持って来たドレスは、マーメードラインの美しいドレスだった。ブルーの生地は時折シャンデリアの光を浴びて銀色に煌めいている。
ドレスを受け取ったグランは、ミライザに手渡してきた。
滑らかで美しい生地は、触れると心なしか涼しさを感じさせられた。
「試着してみてくれないかな?」
刺繍やレース、宝石等のデコレーションが何もつけられていないブルーシルバーのドレスは、目の前に並べられている豪華な数々のドレスに比べてシンプルで好ましく感じられた。
「ええ、私も気に入ったわ。」
試着室へ移動し、身に着けてみるとミライザに誂えたようにドレスは肌に馴染んだ。
鏡で確認すると、濃紺のミライザの髪と、ドレスの色合いがとてもよく合っている。
亡くなった母が「将来は美人になる」と言っていた言葉を思い出す。
「お母様は正しかった。そうよね。」
鏡の中の、母に似た美人がミライザと共に微笑んだ。
ミライザが着替えている間に、グランは宝飾品も選んでいたらしい。
ダイヤモンドのネックレスとイヤリング。
グランに言われるがままに、ミライザは身に着けた。
「ねえ、帝国学院のパーティへ行くのよね。こんなに着飾る必要なんてないんじゃない?」
「僕の実家は裕福だと伝えただろ。今日は、僕の兄夫婦達も参加する予定なんだ。実家は身だしなみに煩くてね。僕のパートナーとして君を紹介する事になると思うから、それなりの物を身に着けて欲しいだけだよ。」
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