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第16話 夜空

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ミライザは、急いで控え室から離れた。
慣れない高いヒールの靴を、脱ぎ捨てたくなるのを我慢しながら、出来るだけ早歩きで前へ足を進める。

(仲間だと思っていたのに、違っていた。皆、私を貶めて満足そうに笑っていた。私は何も悪い事なんてしていないのに)

ギーガンはミライザより年配だが、ミスが多く思い込みが激しい所がある。いつの間にか研究内容から脱線するのを、何度も説明して修正してきた。

ローザは優秀だが、金銭への拘りがある様子だった。地道な研究を続ける事より、直ぐに結果が出る事を好んでいた。それでも指示した内容を着実にこなすローザに、ミライザは好感を持っていた。

マイクは、大人しく発言する事が少ない。だが、数字にとても強く、データ分析に秀でていた。もっと評価されてもいい人物だとミライザは感じていた。

キリアンは、いつも周囲をよく観察し、率先して様々な事を手伝ってくれる気の利く人物だった。


ずっと一緒に行動してきたのに。



悔しくて仕方がない。



裏切られた。



信頼していたのに。




仲間だと思っていたのに。



ここから離れたい。



落ち着いて考えれば、もしかしたら違うかもしれない。







ミライザは前へ歩き続けた。
控え室からも、パーティ会場からも離れるように歩いていくと、屋外通路が見えてきた。

開いたままのドアから外へ出る。舗装された地面の向こうには、芝生の広場があり、一面の夜空が広がっていた。

空には黄金に輝く満月と、強い光を放つ星が煌めきミライザを照らしている。

遥か昔から存在する月と、想像出来ないほど遠く離れた場所から光を届ける星を見ていると、急にミライザは自分の悩みが些細でつまらない事のように感じた。

確かにミライザは研究に尽力した。だが、ミライザだけの力ではなくチームで進めてきた研究だ。ミライザがいなくなっても研究結果は残る。そして沢山の人の目に触れて、いつか誰かの役に立つかもしれない。

それでいいのではないか。

ミライザがしてきた事は、決して無駄ではなかったのだから。




「待ってくれ!ミライザ!」



後ろから呼び止められ、ミライザは立ち止まった。


(私は死んだ事になっている。私は海の底で変わったわ。今の私に気がつく人なんていないはずなのに。どうして?)


「すまなかった。ミライザ。こんな事になるなんて思っていなかった。ギーガンとローザが君に情報漏洩の罪を被せた時、俺は何も言えなかった。君が直ぐに帰ってきて、否定すると思っていた。」


立ち止まったミライザの背後から、男の声が近づいてくる。

ミライザはゆっくり振り返った。

キリアンは、ミライザへどんどん近づいてくる。

「ああ、ミライザ。会いたかったよ。俺が力になる。今から君の汚名を晴らす事は、かなり難しいかもしれない。だけど、出来るだけ手伝うよ。だから俺と一緒に行こう」


ミライザは疑問を口にした。
「どうして?私がミライザだと思うの?」


キリアンが言った。
「確かに皆は分からないと思う。だけど、俺は違う。俺はずっと君の事が気になっていた。髪の色が少し違うが君はミライザだ。眼鏡や白衣に隠されていた美しい顔も身体つきも何も変わらない。君が死んだと聞いてずっと後悔していた。もっと早く君に・・・・・・」

キリアンは興奮した様子で、ミライザに近づき、急に右手で手首を掴んできた。

「離して!痛いわ」

「ミライザ!謝るから。俺は平民だけど、真面目に働いている。今まで色んな事をしてきたから貴族の伝は多い。君一人なら養える。君の汚名を晴らせるのは俺だけだ。俺なら証言できる。ギーガンとローザが嘘の証言をしたって知っている。証拠だってある。ギーガンのロッカーの中に、ライ伯爵家からの指示書がまだあるはずだ。俺が協力すれば、君の功績を、アイツらから取り戻せるかもしれない。君だって悔しいだろ。家からも仲間からも学院からも捨てられた可哀想なミライザ。もう君には俺だけだ。」

ミライザは思いっきり首を振った。

目の前のキリアンが見知らぬ男性のように感じる。いつも余裕があり、そつ無く仕事をこなすキリアンはどこにいったのか。目の前の男性は、ミライザの手首を強く握り締め、瞳は血走っている。目の下には隈があり、顔色も悪い。恐怖を感じ、腕を引き離そうとするが、その行為がいっそうキリアンの力を強めている様子だった。

「ああ、俺のミライザ。心配ないよ。俺が君を愛してあげるから・・・・・・」

ミライザは、必死に声を上げた。
「お願いだから離して!私は、貴方のミライザじゃない」

「俺が、せっかく君を助けてやるって言っているのに!哀れで可哀想な君を!俺が!」

キリアンは、左手を大きく振り上げた。


(打たれる!)


ミライザは、衝撃に備えて両眼を強く閉じた。

















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