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第27話 涙化
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ミライザは、頭からゆっくりと落ちていった。
ミライザの頬から離れた涙が、朝日を浴びて輝きながら丸い球体になる。
澄んだ水色の球体に、黄色やオレンジ色の光が無数に絡まり蠢いている。
美しい涙を見ながら、ミライザは落ちていった。
これは、私が選んだ道だ。
寂しくて、悲しみを感じるけれど後悔はしていない。
離れたくないけど、一緒にはいられない。
真っ逆さまに落ちるミライザの目の前に、輝く小さな球体が浮かんでいる。
共に落ちる美しい水色の宝石のような雫の色に、ミライザは見覚えがあった。
ミライザの父ギーザック・マージャスは、実母リアンナとミライザに冷たく接した。もしかしたら母は、政略結婚であるにも関わらず父を愛していたのかもしれない。幼心に母の悲しみをミライザは感じ取っていた。父の態度とは裏腹に祖母のアーリン・マージャスは、ミライザをとても可愛がってくれた。
祖母が生きていた頃は、屋敷の最奥にある厳重な鍵が掛かったマージャス侯爵家の宝物庫にミライザを何度も連れて行き、その度にお話を聞かせてくれた。
「可愛いミライザ。この真鍮の鎧は、昔は海のように輝いていたそうだよ。200年前に起こったルーナ大戦で、鎧の力は全て枯れ果てて今では残骸しか残っていないが、先祖代々伝わる治癒の鎧だよ。」
「ちゆってなあに?おばあさま」
「傷を癒してくれるのさ。ブルーティアーズの力がマージャス侯爵家を守ってくれるからね」
「ブルーティアーズは、あの剣でしょ」
「ふふふ。よく覚えているね。そうだよ。もう残っているのは、このブルーティアーズの短剣だけだ。この家宝の短剣で斬られた者は泡となって消え失せる言われている。大事にするんだよ。ミライザ。」
「私も消えちゃうの?おばあさま」
「お前は別だよ。私達、海の民の血筋の者にとっては、ブルーティアーズは癒しの力になる。遥か昔の御先祖様が、別れを惜しみ流した癒しの涙なんだよ」
「やっぱり、ミライザは消えちゃうのかな?お父様が、ミライザは違うって言っていたの。髪の色が違うって!」
「まあ、ギーザックがそんな事を!悪い狐の口車に、まだ踊らされているなんて不甲斐ない!ミライザ。お前はマージャス侯爵家の正統な血筋の娘だよ。私とブルーティアーズが保証する。心配しなくていい。」
お婆様は、ミライザをそっと抱きしめてくれた。
(ああ、そうだ。ブルーティアーズだ。お婆様が言っていた。別れの涙が癒しの力になるのだと)
ミライザの目の前には、無数の光を浴びて渦を巻きながら輝く球体が浮かんでいる。これは、ミライザが流した涙だ。宝石のような球体の向こうには、遥か彼方まで続く水平線と、そこから僅かに姿を見せ出した太陽が強烈な光を放ちながら、世界を輝く白へ変えていっている。
無数の波飛沫がミライザの頭下から飛び散る。
ザバーーン。
ミライザは、波飛沫に飲まれながら海の中に吸い込まれた。
ブクブクブクブク。
体が軽い。
生き返ったかのように、清々しい。
海の中のミライザの目の前には、輝きを放つブルーティアーズの宝石が浮かんでいた。
ミライザは、目の前の宝石を両手で包み込んだ。
宝石は、ミライザの手の中で、一瞬で変化した。
美しい水色のシンプルな短剣は、デザインが違うが、確かにマージャス侯爵家に伝わる家宝のブルーティアーズだ。
以前より、小ぶりになった気がするが、その美しさには変わりがない。
ミライザ・マージャスは、船から落ちて死んだ事になっている。
ミライザは、もうマージャス侯爵家の者では無い。マージャス侯爵家には、美しい妹のローザリンがいる。正統なマージャス侯爵家の水色の髪をしたローザリンが。
このブルーティアーズの短剣を本来の持ち主へ返そう。
デザインも、大きさも違うけれど、言い伝え通り子孫を守る家宝である事には間違いない。
ミライザは、ブルーティアーズの短剣を胸元に挟み、目の前の海を見た。
コバルトブルーの海は澄んでいて、どこまでも続いているように見える。
海底には、ゴツゴツした岩場に、貝や珊瑚、海藻が乱立し、蟹や小魚が悠々と流れに身を任せている。
頭上には、ダイヤモンドのようにキラキラと光を放つ海面がオレンジ色の光をミライザまで運んでくる。
ミライザは、両足をつけ腰を大きく振りながら前へ泳ぎ出した。
海の向こうで、輝く朝日に向かって。
ミライザの頬から離れた涙が、朝日を浴びて輝きながら丸い球体になる。
澄んだ水色の球体に、黄色やオレンジ色の光が無数に絡まり蠢いている。
美しい涙を見ながら、ミライザは落ちていった。
これは、私が選んだ道だ。
寂しくて、悲しみを感じるけれど後悔はしていない。
離れたくないけど、一緒にはいられない。
真っ逆さまに落ちるミライザの目の前に、輝く小さな球体が浮かんでいる。
共に落ちる美しい水色の宝石のような雫の色に、ミライザは見覚えがあった。
ミライザの父ギーザック・マージャスは、実母リアンナとミライザに冷たく接した。もしかしたら母は、政略結婚であるにも関わらず父を愛していたのかもしれない。幼心に母の悲しみをミライザは感じ取っていた。父の態度とは裏腹に祖母のアーリン・マージャスは、ミライザをとても可愛がってくれた。
祖母が生きていた頃は、屋敷の最奥にある厳重な鍵が掛かったマージャス侯爵家の宝物庫にミライザを何度も連れて行き、その度にお話を聞かせてくれた。
「可愛いミライザ。この真鍮の鎧は、昔は海のように輝いていたそうだよ。200年前に起こったルーナ大戦で、鎧の力は全て枯れ果てて今では残骸しか残っていないが、先祖代々伝わる治癒の鎧だよ。」
「ちゆってなあに?おばあさま」
「傷を癒してくれるのさ。ブルーティアーズの力がマージャス侯爵家を守ってくれるからね」
「ブルーティアーズは、あの剣でしょ」
「ふふふ。よく覚えているね。そうだよ。もう残っているのは、このブルーティアーズの短剣だけだ。この家宝の短剣で斬られた者は泡となって消え失せる言われている。大事にするんだよ。ミライザ。」
「私も消えちゃうの?おばあさま」
「お前は別だよ。私達、海の民の血筋の者にとっては、ブルーティアーズは癒しの力になる。遥か昔の御先祖様が、別れを惜しみ流した癒しの涙なんだよ」
「やっぱり、ミライザは消えちゃうのかな?お父様が、ミライザは違うって言っていたの。髪の色が違うって!」
「まあ、ギーザックがそんな事を!悪い狐の口車に、まだ踊らされているなんて不甲斐ない!ミライザ。お前はマージャス侯爵家の正統な血筋の娘だよ。私とブルーティアーズが保証する。心配しなくていい。」
お婆様は、ミライザをそっと抱きしめてくれた。
(ああ、そうだ。ブルーティアーズだ。お婆様が言っていた。別れの涙が癒しの力になるのだと)
ミライザの目の前には、無数の光を浴びて渦を巻きながら輝く球体が浮かんでいる。これは、ミライザが流した涙だ。宝石のような球体の向こうには、遥か彼方まで続く水平線と、そこから僅かに姿を見せ出した太陽が強烈な光を放ちながら、世界を輝く白へ変えていっている。
無数の波飛沫がミライザの頭下から飛び散る。
ザバーーン。
ミライザは、波飛沫に飲まれながら海の中に吸い込まれた。
ブクブクブクブク。
体が軽い。
生き返ったかのように、清々しい。
海の中のミライザの目の前には、輝きを放つブルーティアーズの宝石が浮かんでいた。
ミライザは、目の前の宝石を両手で包み込んだ。
宝石は、ミライザの手の中で、一瞬で変化した。
美しい水色のシンプルな短剣は、デザインが違うが、確かにマージャス侯爵家に伝わる家宝のブルーティアーズだ。
以前より、小ぶりになった気がするが、その美しさには変わりがない。
ミライザ・マージャスは、船から落ちて死んだ事になっている。
ミライザは、もうマージャス侯爵家の者では無い。マージャス侯爵家には、美しい妹のローザリンがいる。正統なマージャス侯爵家の水色の髪をしたローザリンが。
このブルーティアーズの短剣を本来の持ち主へ返そう。
デザインも、大きさも違うけれど、言い伝え通り子孫を守る家宝である事には間違いない。
ミライザは、ブルーティアーズの短剣を胸元に挟み、目の前の海を見た。
コバルトブルーの海は澄んでいて、どこまでも続いているように見える。
海底には、ゴツゴツした岩場に、貝や珊瑚、海藻が乱立し、蟹や小魚が悠々と流れに身を任せている。
頭上には、ダイヤモンドのようにキラキラと光を放つ海面がオレンジ色の光をミライザまで運んでくる。
ミライザは、両足をつけ腰を大きく振りながら前へ泳ぎ出した。
海の向こうで、輝く朝日に向かって。
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