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限界離婚≪再≫

そぐわない微笑み

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真理は結婚後、すぐに違和感を持った。


義母の綾乃が、真理にこっそり教えてくれた情報では元妻は不妊だったらしい。

跡取りを産む。

その事を、今回の結婚で重要視されている事は分かっていた。


だけど、結婚し同居が始まった初日から夫は用意していた自室に引きこもり、出てこようとしない。

真理が話し合おうと声をかけても、聞こえていないのか返事がない。

いつも「忙しいから」、「余裕がないから」「気分が乗らないから」と言い、真理と触れ合おうとしなかった。


何度か夫と口論になった。



だけど、その度に夫は顔を顰めて真理と向き合おうとしなかった。


時に夫から声をかけられる事があると思ったら、夫は信じられない事を言ってきた。


「レポートを手伝ってくれ。」


「資料を用意しておいてくれ。」


「麗奈はしていた。」


「麗奈ならできた。」


「麗奈なら。」


「麗奈なら。」


麗奈という女性が、夫の前妻である事については知っていた。どうして今の妻である私に、麗奈の事ばかり言ってくるのか?真理は信じられなかった。夫はかなり困っているようで、真理に我が儘言わないでくれと頼んでくる。


夫が、真理に渡そうとしているレポートの下書きは、判読できない程、乱雑な字が無秩序に並び、奇妙な白黒の絵を見ているような印象を受けた。


(この人は、、、何かが違う。)


そう何かが違う。何度言っても真理の気持ちを理解してくれない。何度断っても、納得してくれない。


将来の院長夫人?


その為に、一生この人と、一緒に暮らすのか?


初めて会った時に、好感を持った拓也の微笑みにさえ違和感を覚える。


真理が話しかける時、いつも微笑んでいるのだ。


真理が怒っても、叫んでも拓也は微笑んだまま、両手で耳を塞いでいる。


(どうして、少しくらい反省してくれてもいいじゃないの?どうしてわかってくれないの?こんな簡単な事なのに。)


元妻の事を話さない事がそんなに難しいのか?


医師試験を通ったはずなのに、研修医のレポートがそんなに難解なのか?



話にならない。


どうしても伝わらない。


まるで、別の生物と会話をしているようだった。


真理は夫へ告げた。


「貴方、可笑しいわ。

貴方が将来院長になれるはずがない。

もう限界です。

離婚してください。」



夫の拓也は、真理を見ていた。


いつもの微笑みを顔に浮かべたままで、、、、
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