殺めてもいいでしょうか?

仲 奈華 (nakanaka)

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アヤメ

1.プロローグ

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アヤメは、咄嗟に隣に佇む夫の腕を取った。



久しぶりに会う鬼柳マサキの風貌は激変していた。




穏やかそうな面影は削ぎ落とされ、深い眉間の皺と、痩けた頬、窪んだ瞳が彼の狂気を映し出していた。







マサキが胸ポケットから出した黒光りする拳銃は、義母である鬼柳ウメに向けられていた。





アヤメは、夫の腕に、縋り付くように寄り添った。




優しい夫が、離れて行きそうで怖い。





マサキの変貌よりも、




就任式の失敗よりも、




拳銃よりも、




カエデが今にもいなくなりそうで、怖かった。







ウメは、言った。





「私を殺すの?」






マサキは、引き金に指を当てたまま言う。


「僕はずっと君の事を愛していた。それなのに、君は僕に興味を示さない。僕との間には何も残そうとしない。何年も何十年も君の側にいたのは僕だろう!!どうして、カエデに会社を渡そうとする。そんなただの私生児に」






「貴方は勘違いをしている。貴方は私を愛していない。貴方はただ昔の薄っぺらい好意を勘違いして私に執着しているだけだわ。本当に私を愛していたのなら、こんな事にはならなかった。お互いに幸せになる方法があったはずよ。貴方の死んだ娘と、その女が証明してくれるはず。」



ウメは、マサキの後ろの女を指さした。




「あの娘は、僕たちのいなくなった子供の代わりだ。君がどうしても僕を拒絶するから仕方がなかった。今ここで宣言してくれ。カエデと縁を切ると。鬼柳財閥は、君と僕が育ててきた会社だ。ウメ、僕は帰って来た。もう一度やり直そう。子供の事はもういい。君さえいれば僕は……」





マサキの眉間の深い皺が緩み、柔らかい微笑みが現れる。





アヤメは、酷く不思議な変化をみたような気がして、夫の腕を引き後ずさろうとした。





夫は、食い入るようにマサキの拳銃を見て、微動だにしない。






義母が言った。



「嫌よ。貴方とはもう終わったの。二度と関わりたくないわ」







マサキの表情が、急激に変わる。怒りと恨みを込めた鋭い視線で、ウメを睨みつけながら言った。






「ならば、死ね。君は永遠に僕の物だ」






マサキはウメに向かって引き金を引いた。





バン!










ガン。




ウメの目の前で、空間に亀裂が入る。





銃弾が空中に止まり、周囲に放射状のヒビが広がる。





鬼柳財閥就任式は、国内だけでなく海外取引先にも伝えられた。海外の取引先には、過激な敵対行動を辞さない企業もある。






壇上は、一見するとわからない強度な防弾ガラスで覆われ、複数の照明を使って光の奥行きを出し、対象がズレて視認されるように設計されている。





「くそ!なんだこれは!!」




バン、バン、バン、バン





マサキは頻回に撃ってきた。






ガン、ガン、ガン、ガン





全て、空中で止まり、銃弾だけが残される。




アヤメは、カエデの腕を取り、義母に声をかけた。





「お母様。ここから離れましょう。彼は狂っている」





義母は、アヤメに向かって言った。





「もう少しだけ、そろそろ来るはずよ」





ほとんどの来賓客は、会場に残っていない。





避難が終わったようだ。





開かれたままの正面扉から、複数の物体が、入り込んできた。





ウイーーーーン。





5台のドローンが、マサキに近づいていく。






1台のドローンが、マサキに向かって、細い金属製捕縛網を放った。





マサキは、拳銃を捨てて左ロボットアームの手首を外し、中から朧気な光を放つ刃を出して捕縛網を切り捨てた。





刃は、自ら発光し、微細に振動しているようだ。



マサキが叫ぶ。




「ウメ!!」






アヤメの目の前で義母は言った。




「終わるのは、貴方よ。私は何があっても貴方を許さない。絶対に」




恐怖もなく、ただ無心にそう言う義母の瞳は空虚で乾いていた。







アヤメは、違和感を感じる。






初対面では、仲がいい夫婦だと感じたのに。






違っていたのかもしれない。






「社長、お待たせしました。捕縛システムは正常に起動しています。」






裏口から、白髪の中年女性が現れた。






カエデが告げる。






「ありがとう。ヨツバさん。助かりました。」





「まさか、会長の旦那が乗り込んでくるなんて。これらのシステムは凶悪犯を捕縛する為に設計しています。いいのでしょうか?彼に使用して」







「鬼柳マサキは、母の殺害未遂容疑で指名手配されている人物です。今日の監視カメラの映像が証拠になります。何も問題ありません」





防弾ガラスの向こうで、複数のドローンと鬼柳マサキが戦っている。




ドローンに手が出せず、頻回に放たれる捕縛網に手こずっている様子だ。





メガネをかけた、長い茶髪で背が高いスレンダーな美人が近づいてきた。





「社長、こちらへ。準備が整いました。皆様も別会場でお待ちです。現在の映像は、当社の新たなシステムAI『Airi』のデモンストレーションとして提示しております。既に、契約が纏まった会社も数件ございます。」






カエデは、頷き、アヤメの手をそっと撫でた。





「行こう。アヤメ。母さんもそろそろいいでしょう」





正面扉から、数台のロボット犬が突入してくる。マサキを取り囲み、威嚇しながら詰め寄っていく。




きっと彼は逃げられない。









アヤメがそう思った次の瞬間、
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