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エンド
2.菖蒲
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鬼柳第一病院についたアヤメは、3階病棟へ向かった。
本当なら、すぐにでも夫と連絡を取り、会いに行きたい。でも、夫に会う事が怖い気持ちもある。彼と一生共に生きると決めたけど、彼の事を許せないと感じている自分も心の中に存在する。こんな気持ちを抱える私が彼と一緒にいてもいいのだろうか?
別れた方がお互いの為になるのではないだろうか?
3階病棟へついた。時計を確認すると8時12分を針が示していた。
「お電話いただいた阿地アヤメです。」
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
アヤメは霊安室に案内された。
冷たい扉を開け、中に進むとボタンが眠るように横たわっていた。
青白い顔、なぜか頭髪が無く尼僧のように穏やかな表情をしている。半袖、短パンと軽装で今にも起きて、笑いかけてきそうだった。
昨日の早朝別れたばかりなのに。
彼女の家に泊めてもらったのに。
どうしてこんな姿で、冷たくなっているのか。
「ボタン、、、ねえ、ボタン。起きて、話を聞いて、、、」
ボタンから返事は帰ってこなかった。
「申し訳ありませんが、霊安室は限られていまして直ぐにご遺体を移動していただきたいのですが…」
「彼女の母親とは連絡が取れないのでしょうか?草陰ユリさんはボタンの事をすごく気にしていたと思います。何度かお会いした事があるのですが」
「何度も電話をかけていますが、母親の草陰ユリさんとも、父親の草陰マサキさんとも繋がりません。こちらも困っていまして」
「そうですか。分かりました」
繁忙期が過ぎ、明日月曜日は有休を取っている。本当は、夫と過ごすつもりだった。でもあんなことがあったのだ。寄り添ってくれたボタンの為に時間を割いてもいいと思う。
アヤメは、病院から紹介してもらった葬儀社に連絡し搬送の手配を依頼した。ボタンからは、両親がいると伝えられ実際、彼女の母親とも会った事がある。でも連絡が取れない。
死亡診断書を貰い、病室に置いてあった彼女の私物の中から家の鍵を見つけ、退院手続きを済ませた。
アヤメは、ボタンの家へ向かった。
電車に乗り、ボタンのアパートへ向かう。
この道は、絶望と期待に苛まれながら進んだ道だ。
酷い悲しみが襲ってくる。ここ数日で色んな事があった。明日は役所にもいかなければならない。自宅には親族の連絡先が残されているかもしれない。ただの友人であるアヤメが手続きを進める事に迷いがある。
クリーム色のアパートにたどり着き、ボタンの部屋の鍵穴に、鍵を差し込んでまわした。
ガチャリ。
鍵が開き、中に入る。
穏やかな色調で統一された部屋は、何事もなかったかのように静かだ。
(あやめ)
アヤメに微笑みかけていたボタンはもういない。
アヤメは、ボタンの部屋の中に入った。
パソコンを起動してみたが、パスワードが設定されており中を確認する事ができない。
引き出しの中を探していると、帯付きの現金の束が現れた。
(??どうしてボタンがこんな大金を?彼女の心配性の母親が用意したのかしら)
現金の下から一枚の写真が出てきた。
写真に写っていたのは、夫のカエデだった。隠し撮りしたかのようなアングルの一枚の写真は、アヤメが見た事のない写真だった。
急に寒気がして、アヤメは身震いした。
もしかしたらボタンは、夫と知り合いだったのかもしれない。夫の事をもしかしたら、、、
ボタンは亡くなってしまった。もう彼女に聞く事も、問いただす事も出来ない。
アヤメは、気持ちを変えようと窓へ近づいていき、カーテンと窓を開けた。
外の物干し竿に、一枚の紫色のワンピースが、かけられヒラヒラと風に揺られていた。
昨日ボタンに預けたアヤメのワンピースだ。
ボタンは、アヤメの事を気にかけてくれていた。優しくて儚いボタン。
アヤメは、自分のワンピースを取り、ゆっくりと擦った。
ボタンは確かにここにいた。アヤメの事を慰めてくれた。それでいい。
亡くなった彼女の為にできるだけの事をしよう。アヤメは、彼女の連絡がつかない親族に変わって手続きを進める事を心に決めた。
本当なら、すぐにでも夫と連絡を取り、会いに行きたい。でも、夫に会う事が怖い気持ちもある。彼と一生共に生きると決めたけど、彼の事を許せないと感じている自分も心の中に存在する。こんな気持ちを抱える私が彼と一緒にいてもいいのだろうか?
別れた方がお互いの為になるのではないだろうか?
3階病棟へついた。時計を確認すると8時12分を針が示していた。
「お電話いただいた阿地アヤメです。」
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
アヤメは霊安室に案内された。
冷たい扉を開け、中に進むとボタンが眠るように横たわっていた。
青白い顔、なぜか頭髪が無く尼僧のように穏やかな表情をしている。半袖、短パンと軽装で今にも起きて、笑いかけてきそうだった。
昨日の早朝別れたばかりなのに。
彼女の家に泊めてもらったのに。
どうしてこんな姿で、冷たくなっているのか。
「ボタン、、、ねえ、ボタン。起きて、話を聞いて、、、」
ボタンから返事は帰ってこなかった。
「申し訳ありませんが、霊安室は限られていまして直ぐにご遺体を移動していただきたいのですが…」
「彼女の母親とは連絡が取れないのでしょうか?草陰ユリさんはボタンの事をすごく気にしていたと思います。何度かお会いした事があるのですが」
「何度も電話をかけていますが、母親の草陰ユリさんとも、父親の草陰マサキさんとも繋がりません。こちらも困っていまして」
「そうですか。分かりました」
繁忙期が過ぎ、明日月曜日は有休を取っている。本当は、夫と過ごすつもりだった。でもあんなことがあったのだ。寄り添ってくれたボタンの為に時間を割いてもいいと思う。
アヤメは、病院から紹介してもらった葬儀社に連絡し搬送の手配を依頼した。ボタンからは、両親がいると伝えられ実際、彼女の母親とも会った事がある。でも連絡が取れない。
死亡診断書を貰い、病室に置いてあった彼女の私物の中から家の鍵を見つけ、退院手続きを済ませた。
アヤメは、ボタンの家へ向かった。
電車に乗り、ボタンのアパートへ向かう。
この道は、絶望と期待に苛まれながら進んだ道だ。
酷い悲しみが襲ってくる。ここ数日で色んな事があった。明日は役所にもいかなければならない。自宅には親族の連絡先が残されているかもしれない。ただの友人であるアヤメが手続きを進める事に迷いがある。
クリーム色のアパートにたどり着き、ボタンの部屋の鍵穴に、鍵を差し込んでまわした。
ガチャリ。
鍵が開き、中に入る。
穏やかな色調で統一された部屋は、何事もなかったかのように静かだ。
(あやめ)
アヤメに微笑みかけていたボタンはもういない。
アヤメは、ボタンの部屋の中に入った。
パソコンを起動してみたが、パスワードが設定されており中を確認する事ができない。
引き出しの中を探していると、帯付きの現金の束が現れた。
(??どうしてボタンがこんな大金を?彼女の心配性の母親が用意したのかしら)
現金の下から一枚の写真が出てきた。
写真に写っていたのは、夫のカエデだった。隠し撮りしたかのようなアングルの一枚の写真は、アヤメが見た事のない写真だった。
急に寒気がして、アヤメは身震いした。
もしかしたらボタンは、夫と知り合いだったのかもしれない。夫の事をもしかしたら、、、
ボタンは亡くなってしまった。もう彼女に聞く事も、問いただす事も出来ない。
アヤメは、気持ちを変えようと窓へ近づいていき、カーテンと窓を開けた。
外の物干し竿に、一枚の紫色のワンピースが、かけられヒラヒラと風に揺られていた。
昨日ボタンに預けたアヤメのワンピースだ。
ボタンは、アヤメの事を気にかけてくれていた。優しくて儚いボタン。
アヤメは、自分のワンピースを取り、ゆっくりと擦った。
ボタンは確かにここにいた。アヤメの事を慰めてくれた。それでいい。
亡くなった彼女の為にできるだけの事をしよう。アヤメは、彼女の連絡がつかない親族に変わって手続きを進める事を心に決めた。
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