殺めてもいいでしょうか?

仲 奈華 (nakanaka)

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エリカ

2.迎扉

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部屋のドアを開け、冷たい廊下を見る。
建物の中には誰もいない様子だ。

「う・・・うう。う・・・・」

屋外からだろうか?やはりうめき声のような音が微かに聞こえてくる。

エリカは、正面玄関に向かって歩いていった。
この場所は、サカキが仕事で使っている隠れ家になる。エリカが出入りできるのは、最奥の部屋だけで、他の部屋には入った事がない。
サカキに初めて会ったのは、地元の私立大学に入学した後だった。成績が落ち込んでいたエリカは大学受験に失敗した。留年し勉強したが、義妹のアヤメが都心の国立大学へ合格したのに、エリカは翌年も第一志望の大学に受からなかった。滑り止めの大学に入学する事になり、母からも義父からも冷たい言葉を投げかけられる。

彼らはアヤメの事を何度も褒めるのに。

彼らは、エリカを認めてくれない。

エリカは次第に自宅から足が遠のいていった。


アルバイトをしていた居酒屋で、サカキとの出会い、直ぐに意気投合した。サカキと仲間達のたまり場に入り浸るようになる。なんとなく正規の仕事ではない印象を受けたが、サカキは一緒にいて楽しいし、彼らはエリカの事を認めてくれた。

サカキと出会った事、彼と付き合った事を後悔していない。でも、あの火事の日から、なにもかもが変わってしまった。実家が燃えた翌日には火は消し止められたが、夫婦二人の遺体が見つかったとネットニュースで確認した。残された娘の事は何も書かれていなかった。

まさか、死ぬなんて。何度も何度も夢に見る。
両親の事を、サカキが父を突き飛ばした夢を、母の絶望した顔を。

どうしてもサカキの事を心の底から信じる事ができない。

だけど、真相を知っている彼と離れる事もできない。

サカキは、失踪する事が多い。どうやら大規模詐欺に関わっている様子だ。

去年も、サカキがいなくなった。
彼からは、沢山の貴金属や宝石を贈られる。全部彼らが、だまし取った宝飾品だ。
換金する事ができないけれど、使う事はできる。
高級ブランドバック、高価な宝石、ブランド服を身につけて街で買い物をする事が、エリカの楽しみになっていた。

エリカは、中央駅で高校の同級生に会った。彼女はアヤメが結婚する事を教えてくれた。いまからアヤメの式に行くらしい。エリカも当然のように参列すると思っているようで、一緒に行こうと言われた。

アヤメが結婚?どうして彼女が幸せになるのか。何年も、何年も私はずっと引きずっているのに。エリカは、ずっと付き合っているサカキと結婚する事ができないのに。

微笑みながらエリカは言った。
「ええ、もちろん。大事な妹の式だもの。遅れないようにいかないと」


式場でアヤメは、長身の夫となる男性と幸せそうに微笑みあっていた。

幸せそうな義妹見ていると、ふつふつと胸の中のどす黒い何かが沸き上がってくる。
私にない物を彼女が持っている。私はずっと暗闇の中にいるのに、どうして彼女は平然と結婚するのか。彼氏のサカキは、何度も行方が分からなくなる。正規の仕事についていない彼とは結婚できるはずがない。昔からそうだった。同じ家族のはずなのに、母の愛も、義夫の関心もアヤメばかり向いている。当然のように。

本当は私の物なのに、どうしてアヤメばかり。

私の方が愛されるべきなのに、どうして?

式の後で、彼女に会いに行った。本当に彼女の夫を奪うつもりなんてなかった。ただ、妹を脅かしたかっただけだ。恐怖の籠った彼女の瞳を見ると少しだけ爽快な気分になった。


アヤメの結婚式の後、仕事が終わったサカキが帰って来た。
アヤメが結婚できるなら私だってできる。サカキからは、かなりの額を貰っている。ブランド品やアクセサリー。どれも高価な品だ。結婚して幸せになる。その権利が私にもあるはずだ。子供を作ってもいい。子供が出来たら、サカキも結婚してくれるかもしれない。そう思ったのに、サカキはまたいなくなった。パスポートを持ち出し、また海外へ飛んだらしい。期待すると裏切られる。

何度も、何度も。

アヤメが幸せになるなんて考えたくない。彼女の絶望した表情を見たい。そうすれば、少なくても彼女より私が幸せだと実感できる。彼女の夫を奪い、地位を奪い、大事な物を奪い、そして私が幸せになる。

私には、その権利がある。だって私は、あの子の義姉だから。










正面玄関に近づくと、やはり外からうめき声が聞こえてきた。

「ううう」「アアア、どうして」

低いうなり声と、女のすすり泣きのような…

エリカはゆっくりと玄関へ近づいて行った。

玄関のドアに耳を当てると、女の声が聞こえてきた。

プルルルプルルル。

「110番ですか?ヒック、ゥ ウ、彼が、私の婚約者が倒れて。私が刺しました。早く来てください。彼を助けて・・・」

エリカは驚き、玄関のドアを開けた。



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