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第9話 条件

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木龍ジョージは、リアナを見つめてきた。心なしか瞳が潤んでいるように見える。

「リアナ嬉しいよ。条件って?」


リアナは、言った。

「あの、ここではちょっと。貴方にだけ伝えてもいいでしょうか。」


二人を熱心に見ていた使用人達が、興奮した声で、ヒソヒソと話をしている。

「さっそく二人きり?」

「素敵ね。すぐにでも、新婚夫婦の部屋を準備しなくちゃ。」

「やっと坊ちゃんのお相手が見つかった。」



後ろで可笑しな内容が聞こえたがリアナは意識的に無視をした。

(坊ちゃん?まさか、ジョージがマイラー夫人の後継者なの?そんな。ジョージはジーウ製薬会社の専務なはず。)






リアナとジョージは、応接室へ移動した。
重厚感があるドアを閉めて二人きりになる。

「それで、リアナ。君が九条と名乗っている事も関係しているのかい?」

木龍ジョージは、優しく微笑みながらリアナに言った。















木龍ジョージとリアナが初めて出会ったのは、姉の婚約式の時だった。初めて会った日、黒髪で長身の木龍ジョージは、スーツを着て姉の隣で婚約式に参加していた。

婚約式で、リアナの姉はとても美しかった。茶髪の長い髪を結い上げて大きな真珠の髪飾りをつけ、真っ白なドレスワンピを身につけている。大きな瞳は長いまつ毛に彩られ、紅い唇は潤み、長身のジョージを見つめていた。

婚約式で、ジョージは恭しく姉に指輪を嵌めた。

リアナにとって、理想の二人だった。リアナは優秀で社交的な姉といつも比べられて育ってきた。人見知りで冴えないリアナには、想像できない煌びやかな光景が目の前に広がっていた。

(姉さん凄く綺麗。)


姉と婚約した後、木龍ジョージは毎週のように姉を尋ねてくるようになった。ついでにリアナにもプレゼントを渡してくる。木龍ジョージは、リアナにとって理想的な義兄だった。

だけど、姉は結婚式の一ヶ月前に置き手紙を一枚置いて失踪してしまった。

姉との婚約が破棄され、リアナの実家とジーウ製薬会社との大規模契約が破棄された。そもそも投資契約ありきの婚約で、婚約後、かなりの額を木龍側は投資していた。
契約破棄を受けて、実家の会社の株は暴落した。
一方的に婚約破棄を受け入れざるを得なかった木龍ジョージ側は、かなりの損害を被った筈だった。


リアナはジョージに負い目がある。姉の失踪で、木龍家には、かなりの迷惑をかけた。木龍ジョージはリアナに出会ってからずっと良くしてくれた。ジョージは、姉に何度も高価なプレゼントを贈り、度々尋ねてきていた。あんなに愛してくれるジョージに対して、姉の行動はあんまりだった。リアナは、ジョージに申し訳なくて仕方がなかった。














ジョージと二人きりになったリアナは、落ち着いて目の前の男性を見た。黒髪で長身の木龍ジョージは、相変わらずかなりの美形だ。切れ長の瞳に整った鼻筋の彼は、リアナに向かって以前のように微笑みかけてくる。
ジョージは、リアナが元婚約者の妹だと確信している様子だった。どうしてジョージが、リアナに婚約を申し込んできたのかは分からない。あんなに姉を愛していたジョージが、冴えないリアナに心変わりをするなんて信じられなかった。きっとジョージにも理由があるのかもしれない。もしかしたら失踪した姉を探す為に、こんな不思議な行動をとっているのかもしれない。


リアナは、実の兄のように慕っていたジョージに告白した。

「ごめんなさい。実は・・・・・・」

リアナは、ジョージへ今まであった事を伝えた。敢えて身分を詐称している事。どうしても怖くて実家へ帰れそうに無い事を伝えた。

「・・・・・・どうしてお義兄さんが、私にプロポーズしてきたのか分からないけど、あの日私を殺そうとした犯人が見つからなければ、戻るつもりが無いの。だから、婚約とか結婚とか私には考えられないわ。」

リアナは、事故の日の事を思い出して、身体を震わせた。あの事故の日から一ヶ月以上たってリアナは、やっと言葉にする事ができた。ずっと忘れようと、乗り越えようと一人でもがいてきたけど、もっと早く誰かに相談できればよかったかもしれない。

震えるリアナを、ジョージがそっと抱きしめてきた。

「大変だったね。リアナ。これからは俺が力になるよ。安心していい。もう誰もリアナを傷つけさせない。」

「うん。」

一度は将来の義兄として、受け入れた相手だ。リアナは離れ離れになっていた家族に久しぶりに会えた気持ちで、ジョージに身を任せた。















暫くしてジョージは、リアナの顔を覗き込みながら言った。


「リアナ。俺の事は、お義兄さんじゃなくてジョージと呼んでくれないか?君を殺そうとした犯人が見つかれば、俺と結婚してくれるのだね。嬉しいよ。」



「エッ??」

リアナは驚き、ジョージを見上げた。
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