旦那様と僕~それから~

三冬月マヨ

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それからの絆

【六】ぽかぽかの爆弾

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「ん。そこ、もちょい右な。ん、そこそこ、いいぞ!」

 …俺は何をしているのだろう…。

 何処か遠い目をしながら、俺はせいの髪の毛を洗っていた。
 あれだけ嫌がっていた癖に、風呂場に着けば星はさっさと着物を脱いで、腰に手拭いを巻き、たすき掛けをする俺を急かす始末だった。

「…全く…何なんだ、お前は…」

 椅子に腰掛け、少しばかり背中を丸める星の髪を洗いながら、俺は疲れた様な声音で聞いた。
 いや、実際、要らん体力を使わされたのだが。
 朝から親父に愚痴られ、雪緒ゆきおに癒して貰おうと帰宅すれば、その息子が居ると云う、二段構えの攻撃にだ。

「ん~?」

 だが、解っているのかいないのか、星の声は暢気な物だ。

「…お前、本当に明日は帰れよ。良いか、話を受けるか受けないかはお前の自由だ。しかし、断るにしてもだな、お前はともかく親父…司令の立場からして、会わずに断ると云う選択肢は無いんだ。そこの処は解ってやれ。お前だって、親父の面子を潰すのは本意では無いんだろう?」

「…ん…」

 桶に湯を掬い、星の頭を濯ぎながら、俺が言う言葉に星は静かに頷いた。
 何時もは煩いぐらいに元気だが、こうも大人しくされると不気味で仕方が無い。

「…あのさ…」

「何だ?」

 次の湯を掬った処で、星がぽつりと呟いた。

「おじさんはさ、ゆきおがすきなんだよな?」

「…何だ、いきなり」

 星の突然の質問に、俺は湯を汲んだ桶を簀子すのこの上に置いた。

「ゆきおをあいしてるんだよな?」

 振り返って来て俺を見る星の目は、仕事であやかしと対峙した時と同じく真剣な物だったから、俺は『ああ』と頷いた。

「あのさ、あのさ、ゆきお見ると、ちんちんがたつんだろ?」

 ―――――――――――…何だって…?

「…おいら、も、おんなじ。考えるとちんちんが辛くなるんだ」

 ―――――――――――…誰の事を…?

「…すきだけど、あいしてるけど、こうなるのって、当たり前なんだよな?」

 ―――――――――――…雪緒を…?

「恋人だし、いいんだよな?」

 ―――――――――――…恋人…?

「…は…? 何時、雪緒とお前が恋人になった? 雪緒は俺の…っ…!!」

「ゆきおじゃないよ。昔はすきだったけど、今は違う」

「…誰の話をしてる?」

 …昔って…。そう言えば、あの親父が星の初恋が、とか言っていた様な…?

「親父殿に決まってるだろ、言わせんなバカ」

 俺の言葉に星は唇を尖らせて、ふいっと横を向いた。その頬は、赤く染まっている様に見えた。
 …と云うか。つい今朝も、どこぞで見たぞその仕草。

 ――――――――――――――――――…は…?

「おいらと親父殿は恋人なのに、お見合いとかひどいよな? おいら、ずっと親父殿にすきすき言ってるのに。親父殿だって、いっぱいすきって言ってるのに。おいらが居なくなったら、誰が親父殿の髪を洗うんだ? 雷の時、誰が親父殿と寝るんだ? 誰が親父殿のご飯を…」

「待て! 待て待て! …頼むから、少し待ってくれ! 考える時間をくれ!!」

 尚も続く星の言葉を遮り、俺は片手で口を押さえ、片手は掌を星へと向けた。
 何だって?
 いきなりこいつは何を言い出した?
 星が親父を好きなのは、とうの昔から知っている。
 知ってはいたが、そう云う好きだとは聞いて…。

『星様もえみちゃん様を愛して…』

 そう思った時、不意に雪緒の言葉が脳裏を過った。

 ……………………………………………あ…?

「………は…? 雪緒は…知っていた…?」

 あれは、家族愛の事を言っているのだと思ったのだが、違ったのか…?
 だが、確かにそれならば、星に嫉妬した俺に雪緒がそう口にしたのも合点が行く。
 いや、だがしかし。恋人とは?
 あの親父からそんな言葉なぞ聞いた記憶は無いし、親父の態度は息子を溺愛する、親馬鹿その物にしか見えないが。
 …いや、あの親父の事だから、巧みに態度には出さない様にしているのかも知れない…。

「………星…。…念の為に聞くが…お前…恋人の意味…解っているのか…?」

「バカにするなよ! 恋しい、すきな、あいする人の事を恋人言うんだろ! だから、おいらの恋人は親父殿だし! 親父殿の恋人はおいらだ!」

 星の言葉に俺は思い切り脱力し、両手を簀子の上に置き、何とか身体を支えた。

「どした、おじさん?」

 不思議そうな星の声が聞こえるが、顔を上げる気力が湧いて来ない。
 確かにそうだが。だが、違う。

「…あのな、星…」

 何と言えば良いのか…。
 と云うか、何故、俺が言わねばならんのだ。
 これは、あの親父が言うべき事なのでは?

「…その…お前は………………………………あるのか…?」

「…ん? 何が?」

 くそ…っ…!
 また、それを言わねばならんのか!

「…その…親父を想いながら…ち、ちんちんを弄った事が…」

 何故、また俺は"ちんちん"と言わされているんだっ!
 こいつら、実は結託しているのではないだろうな!?

「ん! 何年か前に相楽のにーちゃんに、ちんちん辛い言ったら教えてくれたぞ!」

 何時の間に!?
 どれぐらい前の話なんだ!?
 あいつ、雪緒の時は散々俺をからかったくせにっ!!

「そ、そうか…」

 やけに自信満々な星の声に、俺は更に脱力をする。
 簀子の上に置いた手が、みっともなく震えている。

「…あの、な…? 確かにお前のそれは、恋しく愛しい者に向けられる感情だろうが、親父はどうなんだ?」

「なんだよ? 親父殿も同じに決まってるだろ! ずっと一緒にいるんだぞ!」

 ………………………もう、このまま捨ててしまっても良いだろうか?
 …いや、駄目だ。
 これは有耶無耶にしては駄目だ。
 俺と雪緒の安寧の為にも、この問題は早急に片付けるべきだ。

「星、とにかく! 明日親父と話せ。お前の気持ちも、もう一度きちんと伝えるんだ!」

「なんでだ? そんなの親父殿はとっくに…っ、おわっ!?」

 俺は身体を起こして、星の両肩を掴んだ。

「良いか? ずっと傍に居るから、改めて伝えなくても伝わるだろうなんてのは、そんなのは甘えだ。どれだけ一緒に居ても伝わらない事はある。特に、こう云った想いはすれ違ったりする物なんだ。はっきりと言え。…親父に抱かれたいと!」

 真っ直ぐと、星の目を覗き込む様にして、俺は言った。
 自分で言っていて、また胃がしくしくと痛みだしたが。

「…うん? それって、親父殿のちんちんがおいらの尻の穴に入るって事か? 違うぞ。おいらは、おいらのちんちんを親父殿の尻の穴に入れたいんだぞ! …そう言えばいいのか?」

 目を瞬かせて首を傾げる星に、俺は天を仰いだ。
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