旦那様と僕~それから~

三冬月マヨ

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それぞれの絆

【雪】冬の星と青空

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 とさり…と、雪の落ちる音が聞こえまして僕は目を開けました。
 何時の間にか眠ってしまっていた様ですね。
 背中を預けて居た座椅子から、軽く背中を離して両腕を上へと上げて伸びをします。

「…ふぇっ…」

 その時に身体中に鈍い痛みが走りまして、思わず僕は情けない声を出してしまいました。
 今日は僕だけでなく、だん…ゆかり様もお休みですので…その…ええと…まあ…僕だけがお休みの時よりは…その…はい…それなり…以上に…致し…。

「ふあああああっ!!」

 昨夜の事を思い出した僕は思わず両手で顔を覆ってしまいました。
 物凄く顔が熱いです。旦那さ、紫様が今、ここに居なくて良かったです。
 その拍子に膝の上に置いてあった本が畳へと落ちてしまいました。

「ああ、いけません。倫太郎りんたろう様からお借りした物ですのに」

 拾い上げて頁が折れていないか確認をします。
 どうやら問題はなさそうですね、良かったです。
 落ちていた栞を挿み直しまして、同じく膝の上にあります膝掛を退かしまして、そちらを畳んでから僕は立ちあがりました。
 石油ストーブの上にありますヤカンがしゅんしゅんとした音を立てて居ます。
 茶の間の障子を開けまして廊下へと出ます。
 ひんやりとした空気が気持ち良いです。
 カラカラと縁側へと続く戸を開ければ、更に冷たい空気が入り込んで来ましたが、空気の入れ替えは必要ですよね。

「…ああ、このお天気で雪が溶けたのですね」

 どれぐらい眠っていたのでしょうか? 朝は曇りだったと思うのですが、今は見事な快晴ですね。
 縁側に腰を下ろしまして、お庭にありますお花を見ます。

「…ふふ…」

 キンセンカ、クレマチス、シクラメン、シンビジウム、水仙、様々なお花が青空の下で溶けた雪の雫で輝いています。
 橙色、白色、紫色、桃色、黄色、緑色と様々な色が目を楽しませてくれます。
 あの日、えみちゃん様からご招待を受けました時に、お庭にもっとお花を植えたいと思いました事を後日旦那さ、紫様にお話ししましたら、紫様もそう思っていたそうで、早々にお花の種を買いに行ったのですよね。懐かしいです。
 梅の木を見れば、蕾を付けているのが見えます。もう暫くもしましたら、それは見事に咲くのでしょうね。

雪緒ゆきお! 外へ出るなら何かを羽織れ、風邪を引くぞ!」

「だ…紫様。お帰りなさいませ」

 そうやってお花を眺めていましたら、だ…紫様が慌てた様子で門からこちらへと駆け寄って来ました。
 その手には紙袋が握られています。読書中にお買い物へ行くと仰っていましたが、何を買いに行ってらしたのでしょうか? お酒や食材でしたらありますのに。

「…ああ、手が冷たい早く中へ入れ」

「大袈裟ですよ。未だ、半刻も経っていませ…」

 僕の手を取り、心配そうに言います紫様に僕は笑って言いますが、無言で睨まれてしまいましたので、茶の間へと下がる事にしました。

「だ、紫様こそ、お買い物に行かれて身体が冷えたのではありませんか? 今、温かいお茶を煎れますね」

「ああ、頼む」

 僕がそう言いましたら、紫様は紙袋を卓袱台の脇へと置いて、茶の間を出て行きました。
 長羽織をお部屋へ置きに行くのでしょうか?
 それにしても、何をお買い求めになられたのでしょうか?
 気にはなりますが、勝手に中身を覗く訳には行きません。我慢です。
 そうしてお茶を煎れまして待っていましたら。

「…あ…」

 戻って来ました紫様の手にはあの箱がありました。
 ぽかぽかの青い箱です。

「…この間から気になっていた。もう大分色も褪せて来たし、擦り切れてもいたからな。袋の中の物を出してくれ」

 肩を竦めて笑って隣へと腰を下ろします紫様の言葉に、僕は慌てて紙袋の中身を卓袱台の上に出して行きます。
 中から出て来ました物は、小さめの鋏に、折り紙、糊、お星様の形の穴が開いているプラスティックの板?
 ともかくも、紫様が何をなさるのか、それを理解した僕の胸が熱くなり、視界が滲んで来てしまいました。

「おい。お前にも手伝って貰うからな? 今は便利な物があるんだな。これを折り紙にあててだな、鉛筆でなぞるだけで簡単に星の形が書ける。で、この鋏で切り取って…って、聞いてるのか?」

「…ふぁい…嬉ひいれひゅ…」

 僕の鼻を摘まみながら、そう言います紫様にこくこくと頷きます。
 その拍子に涙が零れ落ちたのは、ご愛嬌と云う事でご容赦下さい。

「…全く…茶を飲んだら始めるからな…」

 照れましたのか、ぶっきらぼうに言いまして、僕の鼻から離れて湯呑みを掴みます紫様の手を見れば、そこには銀色に光る指輪があります。
 何時からでしたでしょうか? お休みの日には、ネックレスに通して首に下げるのではなくて、指に嵌める様になりました。
 それに気が付いた時、とても嬉しく思ったのを覚えています。
 身に着けて居ます事に変わりはありませんのに、不思議な物ですね。
 しゅんしゅんとヤカンが音を奏でて居ます中で、僕は少しだけ温くなったお茶を飲んだのでした。
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