旦那様と僕~それから~

三冬月マヨ

文字の大きさ
45 / 85
それぞれの絆

【猛】砂糖水

しおりを挟む
 ゆき坊が職場に来た。
 いや、朝にゆかりんから『雪緒ゆきおが弁当を届けに来る』と雪坊が来る事は聞いていたから、知っては居たから驚きはしな…いや、するな、うん。 

 昼休憩で俺は今、食堂に居る。
 不自然に誰も座って無かった、四人掛けのテーブルを一人、陣取って居る。
 そして、本日のお勧めのメンチカツ定食をもそもそと食べている。
 不味い訳では、無い。ただ、何となく胸焼けがする。そう、コップ一杯の砂糖水を一気飲みした後の様な、そんな、もう、喉から胃に掛けてクソ甘い粘膜で覆われて居る様な。おかげで、たっぷりとソースを掛けたメンチカツがやたらと甘く感じる。
 まあ、今、この食堂に居る連中は皆、約四名を除いてそんな思いなのだろうが。
 その内の二名は、大食らいコンビのせい坊と瑠璃るり嬢だ。二人共、自分の腹を満たす事に夢中で、この食堂内の雰囲気に気付いて居ない。幸せな事だ。
 そして、残る二名がこのやたらと甘ったるい雰囲気を醸し出している、ゆかりんと雪坊だ。
 俺が座るテーブルの隣に、二人向かい合って、雪坊が持参して来た弁当を食べている。丁度食堂の端の一番後ろのテーブルで、窓際だから、奴らに隣してる席は、俺が座る場所と二人が居る場所の前のテーブルで、そこには誰も寄り付かない。
 飲み物は食堂に常に緑茶が用意されているから、それを飲んで居る。
 もう、何度『お前ら帰れ』と、言いたくなった事か。
 カウンターに目をやり、その奥の厨房を見れば、料理人達が微笑ましそうに二人を見ていた。まあ、そこに居るのは、もう世を達観していそうな年代の輩ばかりだから、その様な感じになるのだろう。
 しかし。
 食堂側に居るのは、まだまだこれから世の荒波に揉まれようとしたり、揉まれたりしている最中の者ばかりなのだ。
 独り身の者も、数多く居るのだ。中には先日『かかあに逃げられた』と、泣いた奴も居るのだ。
 それを知ってか知らずか、俺の耳や視界の端には『ゆかり様が、僕の作ったお弁当を食べて下さる姿を見られただけで嬉しいのです』と、春の陽だまりの様な笑顔で微笑む雪坊の声が届いたり『そっ、そうか…』と噎せながら、片手で僅かに赤くなった顔を隠すゆかりんが見えたりして、いや、もう、俺、何でここに座ったんだと、遠い目をした。
 いや、食堂に入った時に、今日は一部(星坊と瑠璃嬢)を除いて、やたら静かだな、とは思ったさ。皆の視線を追って、ああ、雪坊が居るから、皆大人しいんだなと、思った。雪坊はその昔に、隊員に混じって炊き出しを手伝った経緯があり、そのせいで俺らの隊では有名だ。また、ゆかりんが引き取った事で、雪坊の名を知らぬ者は居なかったりする。
 だが、やがて一人、また一人と食べ掛けのまま、席を立って行く。『あんな緩みきった高梨隊長を見る事になるとは…』、『不気味過ぎる…何だ、あの笑顔は…』、『…これ、持ち帰り用に包める?』、『…廊下で食べて来る…』、『明日は槍が降るぞ…』等の囁き声と共に。
 まあ、気持ちは解る。ゆかりんが職場で笑顔を浮かべる事など滅多に無いからな。
 それが今は。
 雪坊を見る目は優しげに細められて、口元には薄っすらと笑みが浮かんでいるのだ。
 ここにゆずッペが居たなら、それはもう容赦無くゆかりんをからかっていただろうが、生憎とゆずッペはここには居ない。杜川前司令が居たなら、この場へと引き摺り出し…いや、そうしたらそうしたで、星坊と二人で何かしらやらかしそうだから、止めて置こう。
 だが、まあ、今日一日だけだろう。今を乗り切れば良いんだ。胸焼けにはキャベツだな。キャベツは胃に良いと聞く。俺はメンチカツの乗った皿を手に、カウンターへと行き、キャベツの追加を頼んだ。次の休みには、みくちゃんに膝枕をして貰おうと思いながら。

 しかし。
 俺は、俺達は、想像もしなかったのだ。
 それから雪坊が休みの土日、両方だったり、何れかだったりするが、ゆかりんが休みでは無い日、その日に必ず雪坊が砂糖水を振り掛けに来る事など。
 だから、俺はゆかりんに頭を下げた。冬の内は仕方が無いが、春になったら外で食べてくれ、と。
 むすりとしながらも、ゆかりんは頷いてくれた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します

市之川めい
BL
魔王を倒した英雄によって建国されたグレンロシェ王国。その後は現在までに二人、王家の血を引く者から英雄が現れている。 四大公爵家嫡男、容姿端麗、成績優秀と全てにおいて恵まれているジルベールは、いつか自分も英雄になると思い、周りには貴公子然とした態度で接しながらも裏では使用人の息子、レオンに対して傲慢に振る舞い性的な関係まで強要していた。 だが、魔王の襲来時に平民であるはずのレオンが英雄になった。 自分とレオンの出生の秘密を知ったジルベールは恥ずかしくなって逃走することにしたが、レオンが迎えに来て……。 ※性描写あり。他サイトにも掲載しています。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

僕の目があなたを遠ざけてしまった

紫野楓
BL
 受験に失敗して「一番バカの一高校」に入学した佐藤二葉。  人と目が合わせられず、元来病弱で体調は気持ちに振り回されがち。自分に後ろめたさを感じていて、人付き合いを避けるために前髪で目を覆って過ごしていた。医者になるのが夢で、熱心に勉強しているせいで周囲から「ガリ勉メデューサ」とからかわれ、いじめられている。  しかし、別クラスの同級生の北見耀士に「勉強を教えてほしい」と懇願される。彼は高校球児で、期末考査の成績次第で部活動停止になるという。  二葉は耀士の甲子園に行きたいという熱い夢を知って……? ______ BOOTHにて同人誌を頒布しています。(下記) https://shinokaede.booth.pm/items/7444815 その後の短編を収録しています。

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

【完結】火を吐く土の国の王子は、塔から来た調査官に灼熱の愛をそそぐ

月田朋
BL
「トウヤ様、長旅お疲れのことでしょう。首尾よくなによりでございます。――とはいえ油断なされるな。決してお声を発してはなりませんぞ!」」 塔からはるばる火吐国(ひはきこく)にやってきた銀髪の美貌の調査官トウヤは、副官のザミドからの小言を背に王宮をさまよう。 塔の加護のせいで無言を貫くトウヤが王宮の浴場に案内され出会ったのは、美しくも対照的な二人の王子だった。 太陽に称される金の髪をもつニト、月に称される漆黒の髪をもつヨミであった。 トウヤは、やがて王家の秘密へと足を踏み入れる。 灼熱の王子に愛され焦がされるのは、理性か欲か。 【ぶっきらぼう王子×銀髪美人調査官】

処理中です...