旦那様と僕~それから~

三冬月マヨ

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それぞれの絆

【旦】砂を食む

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 雪緒ゆきおを宥める為とは云え、早まったかも知れん。

「…何をやっているんだ、あいつは…」

 昼休憩に入る前に、門番から雪緒が来たと連絡があり、後の事は天野に任せて雪緒を迎えに外へと出て来れば、雪緒は門番のじじいからみかんを貰ってヘラヘラと笑っていた。
 何だ、その緩んだ笑顔は。そんな顔、他人に見せるんじゃない。お前はどれだけ人をたらし込めば気が済むのだ。
 ずんずんと無言で正門付近にある、門番が常駐する為に作られた木造の小屋まで歩いて行く。
 畳にして四畳程の小屋だ。昼と夜の交代制で、それぞれ二名ずつ常駐している。昼間はじじい二人だが、夜にはまだ若さの残るじじいになる。
 じじいもじじいだ。目尻を下げて雪緒の好きな物を聞き出しているんじゃない。俺に似なくて良かったとか、しっかりと聞こえているからな? 

「世話を掛けた。行くぞ雪緒」

「ふえええぇ!?」

 雪緒の背後に立ち、むんずと風呂敷包みを持っていない方の手を掴み、雪緒をその場から引き剥がして、俺は歩く。

「次はチョコを用意しておくからね~」

 次は無い!!

 ◇

 食堂へ着けばついたで、せいと相…菅原を誘う始末だ。
 俺は、お前と二人で食べたいと口にした筈だが?
 騒ぐ二人から何とか雪緒を離し、席に付こうとすれば、同僚達が遠慮無しに寄って来た。
 黒い隊服のせいで、それは餌に群がる蟻の様に見えた。
 雪緒が目を丸くして萎縮してしまっている。 
 雪緒を困らせるな! 
 そんな思いから、皆を恫喝して退けたのだが。

「紫様、そう声を荒げては周りの皆様にも、こちらで働く方々にもご迷惑が掛かります。空腹で気が立っているのでしょうが、自重して下さい」

 …怒られた…。
 何故か、俺が雪緒に怒られてしまった…。

「…すまん…」

 条件反射で頭を下げれば、周囲にどよめきが走った。

「…あいつら…後で覚えていろよ…」

 目を見開く同僚達…いや、この場に居る全員の顔を俺は記憶に留めて置く。俺の隊の奴らはしごき…もとい、丁寧に訓練してやろう。他の隊の奴らは後日、殴りこ…もとい、合同訓練をしよう。
 全く、何となくこうなるのでは、と、予想はしていたが、本当にこうならなくても良いではないか。
 しかし、これで雪緒が落ち着いてくれるのならば、安い物か。
 昨日の雪緒の動揺は、本当に酷い物だったからな。からかった訳では無く、雪緒ならば本当に何かしら仕出かすだろうと思ったのだ。
 だが、まあ、思い掛けず、雪緒の口からささやかではあるが、我儘とも言える言葉を聞けて嬉しかったのも事実だ。
 雪緒本人も無意識だったのだろう。視線を泳がせて慌てて俯いてしまったが。
 そんな無意識な言葉が、想いが、もっと欲しい。
 もっと沢山の我儘を聞かせて欲しい。

ゆかり様が、僕の作ったお弁当を食べて下さる姿を見られただけで嬉しいのです」

 そう思っていた処で、そんな可愛い言葉を聞かされてしまえば、叶えてやりたいと思うのが人情だろう。
 ああ…次は無いと思ったが…。雪緒が喜ぶのなら、周りの生温い視線等、幾らでも堪えてみせよう。
 そう思ったのだが。
 幾度かそれを繰り返した後、天野が俺に土下座して来たのだ。

 曰く『砂の味しかしないから、暖かくなったら外で食べろ』と。

 …まあ…気が付けば、周りのテーブルに人は居なくなっているしな…。四人掛けなのに、六人居たり、八人居たりしていたな、そう云えば…。

「…解った…」

 と、俺が頷けば、天野は心底ほっとした様に胸を撫で下ろしたのだった。失礼な男だ。
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