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攻略していたのは、僕
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時間が。
時が止まっていた。
どうして?
って、考えるのは後だ。
僕は、目の前で動きを止めているケタロウ様の顔を見る。
「…ちがう…」
ケタロウ様は…こんな事をしたかった訳じゃない…。
「…どうして…?」
どうして、こんなに苦しそうな表情をしているの?
そんなに辛そうなのに、どうして、僕を転ばせたの?
手を伸ばして、そんな顔をしないで、と、ケタロウ様の眉間の皺に触れる。
「…あったかい…」
その指を動かして、頬に触れれば、そこも確かな熱を持っていた。
嬉しくて嬉しくて、何度も指でふにふに突っついてしまう。考えなきゃいけない事を後回しにして、ただ、何度もその感触を試してしまう。
「柔らかい…」
夢じゃないんだ。こうして、またケタロウ様は生きて、僕の前に居る。
また、ケタロウ様の声が聴ける。
また、ケタロウ様を見る事が出来る。
するりと指を動かして、形の良い唇に触れれば、夢で見た事を思い出して、顔が熱くなった。
…キス…しても良いかな…?
夢では…してたし…。
「…ケタロウ様…」
ケタロウ様の胸に手を置いて、踵を上げて顔を近付けようとした処で、長い、蜂蜜色の睫毛が揺れた。
…あっ…!!
慌てて僕は顔をケタロウ様の胸へと埋める。
「…え…?」
頭の上から、ケタロウ様の声が降って来る。と、同時にケタロウ様の心臓がドクンッて大きく鳴った気がした。
「は? え、何が?」
先生の驚く声も聞こえるし、教室も一気に騒がしくなった。
握手したと思ったら、いきなり僕がよろけてケタロウ様に抱き着いているんだから、それは驚くよね。…どうしよう…でも、僕が床に倒れたままだったら…また、あんな忘れた頃に、掘り返されちゃうし…うう…。
「…足元がふらついていましたし、緊張で良く眠れなかったのでしょう。大丈夫かい? 君の席は、あそこ。ナ・デシコさんの隣だよ。歩いて行けるかい?」
ケタロウ様も、状況を良く解っていない、そんな声の感じだ。でも、咄嗟にそう言えるなんて凄い。
「は、はい…」
顔を埋めたままの僕の肩に、ケタロウ様が手を置いて、顔を上げる様に促して来たから、そろそろと顔を離す。自分がしようとした事を考えると恥ずかしくて、とてもじゃないけど、ケタロウ様の顔を見るなんて出来ない。…何だか良い匂いがしたな。香水とか付けてるのかな。少し甘いけど嫌な匂いじゃ無かった。もう少し、あのままで居たかったなって思いながら、片手を上げて、心配そうに僕を見るデシコさんの隣の席へと、ふわふわと歩いて行く。
「あ、の、大丈夫ですか? 具合が悪いのでしたら救護室へ…」
「あ、うん、大丈夫」
椅子に腰を下ろしたら、デシコさんがそう言って来たけど、救護室だなんて、とんでもない。あんな保健、じゃなかった養護教諭が居る処になんて、行きたくない。
あ。
…そう言えば…ケタロウ様に言われなかったな…『無事に過ごせると思うな』って。
…僕が、抱き着いたせい…?
…僕が、抱き着かなければ、ケタロウ様はあの時と同じ事を言ったのかな?
…時は…戻った…けど、同じ未来を辿る訳じゃ、ない…?
…ケタロウ様は…生きていられる…?
僕が、しっかりと、虐められたりしていないって、アピールすれば…ケタロウ様と仲良くする事が出来たら…ケタロウ様は死なない…?
…うん、そうだ。
きっと、そうなんだ。
運命だなんて、馬鹿げている。
僕を転ばそうとしたのは、きっと何か理由があるんだ。でなければ、あんな顔はしない。前回は気付かなかった。時間が止まらなければ、解らなかった。
時間が止まった事に感謝して、そう云えば、と思い出した。ガディシス様やキヤクさんが言っていた事を。
情を重ねれば、僕の力は強力になり、新たな力も目覚める…。
それが、あの止まった時間なんだ。
でも、もう、要らないかな。
だって、僕がケタロウ様と仲良くすれば、ケタロウ様は死ぬ事は無いんだから。
生きているケタロウ様に、また逢えた事が嬉しくて浮かれていた僕は、ガディシス様が苦しそうに言った言葉をすっかり忘れていた。
『…時が来たら…その時が…来るまでは…あの子は…』
…その時が来るまでは、ケタロウ様は死に続けるって事を。
時が止まっていた。
どうして?
って、考えるのは後だ。
僕は、目の前で動きを止めているケタロウ様の顔を見る。
「…ちがう…」
ケタロウ様は…こんな事をしたかった訳じゃない…。
「…どうして…?」
どうして、こんなに苦しそうな表情をしているの?
そんなに辛そうなのに、どうして、僕を転ばせたの?
手を伸ばして、そんな顔をしないで、と、ケタロウ様の眉間の皺に触れる。
「…あったかい…」
その指を動かして、頬に触れれば、そこも確かな熱を持っていた。
嬉しくて嬉しくて、何度も指でふにふに突っついてしまう。考えなきゃいけない事を後回しにして、ただ、何度もその感触を試してしまう。
「柔らかい…」
夢じゃないんだ。こうして、またケタロウ様は生きて、僕の前に居る。
また、ケタロウ様の声が聴ける。
また、ケタロウ様を見る事が出来る。
するりと指を動かして、形の良い唇に触れれば、夢で見た事を思い出して、顔が熱くなった。
…キス…しても良いかな…?
夢では…してたし…。
「…ケタロウ様…」
ケタロウ様の胸に手を置いて、踵を上げて顔を近付けようとした処で、長い、蜂蜜色の睫毛が揺れた。
…あっ…!!
慌てて僕は顔をケタロウ様の胸へと埋める。
「…え…?」
頭の上から、ケタロウ様の声が降って来る。と、同時にケタロウ様の心臓がドクンッて大きく鳴った気がした。
「は? え、何が?」
先生の驚く声も聞こえるし、教室も一気に騒がしくなった。
握手したと思ったら、いきなり僕がよろけてケタロウ様に抱き着いているんだから、それは驚くよね。…どうしよう…でも、僕が床に倒れたままだったら…また、あんな忘れた頃に、掘り返されちゃうし…うう…。
「…足元がふらついていましたし、緊張で良く眠れなかったのでしょう。大丈夫かい? 君の席は、あそこ。ナ・デシコさんの隣だよ。歩いて行けるかい?」
ケタロウ様も、状況を良く解っていない、そんな声の感じだ。でも、咄嗟にそう言えるなんて凄い。
「は、はい…」
顔を埋めたままの僕の肩に、ケタロウ様が手を置いて、顔を上げる様に促して来たから、そろそろと顔を離す。自分がしようとした事を考えると恥ずかしくて、とてもじゃないけど、ケタロウ様の顔を見るなんて出来ない。…何だか良い匂いがしたな。香水とか付けてるのかな。少し甘いけど嫌な匂いじゃ無かった。もう少し、あのままで居たかったなって思いながら、片手を上げて、心配そうに僕を見るデシコさんの隣の席へと、ふわふわと歩いて行く。
「あ、の、大丈夫ですか? 具合が悪いのでしたら救護室へ…」
「あ、うん、大丈夫」
椅子に腰を下ろしたら、デシコさんがそう言って来たけど、救護室だなんて、とんでもない。あんな保健、じゃなかった養護教諭が居る処になんて、行きたくない。
あ。
…そう言えば…ケタロウ様に言われなかったな…『無事に過ごせると思うな』って。
…僕が、抱き着いたせい…?
…僕が、抱き着かなければ、ケタロウ様はあの時と同じ事を言ったのかな?
…時は…戻った…けど、同じ未来を辿る訳じゃ、ない…?
…ケタロウ様は…生きていられる…?
僕が、しっかりと、虐められたりしていないって、アピールすれば…ケタロウ様と仲良くする事が出来たら…ケタロウ様は死なない…?
…うん、そうだ。
きっと、そうなんだ。
運命だなんて、馬鹿げている。
僕を転ばそうとしたのは、きっと何か理由があるんだ。でなければ、あんな顔はしない。前回は気付かなかった。時間が止まらなければ、解らなかった。
時間が止まった事に感謝して、そう云えば、と思い出した。ガディシス様やキヤクさんが言っていた事を。
情を重ねれば、僕の力は強力になり、新たな力も目覚める…。
それが、あの止まった時間なんだ。
でも、もう、要らないかな。
だって、僕がケタロウ様と仲良くすれば、ケタロウ様は死ぬ事は無いんだから。
生きているケタロウ様に、また逢えた事が嬉しくて浮かれていた僕は、ガディシス様が苦しそうに言った言葉をすっかり忘れていた。
『…時が来たら…その時が…来るまでは…あの子は…』
…その時が来るまでは、ケタロウ様は死に続けるって事を。
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