攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

文字の大きさ
40 / 141
攻略していたのは、僕

【19】

しおりを挟む
 夢と同じになんて行く訳が無い。
 夢と現実とは違う。
 夢の中でのケタロウ様は、優しく甘く熱く僕を迎え入れてくれたけれど。
 まるで夢の様に青い空の下なのに、ケタロウ様から返って来る物は何もなくて。
 それでも、これできっと何かが変わる筈だと、そう思って、僕は何度もケタロウ様の中に、自分の望みを吐き出した。段々と冷えて固くなって行く躰。それでも、そこだけは、僕の願いで熱を持っていた。

 誰を味方にしなくても。
 誰を味方にしても。
 ケタロウ様は死んだ。
 それなら、もう、誰もが敵になっても良い。
 ケタロウ様だけ。
 ケタロウ様だけが居てくれれば、それで良いんだ。
 誰も見ないから。
 何も見ないから。
 だから。
 ねえ、ケタロウ様?
 僕を見て。
 僕に笑い掛けて。
 
「…僕を…好きになって…?」

 青い空の下で、ぽたぽたとはらはらと、僕の目から流れた物が、ケタロウ様の白い躰に落ちて行く。

「…僕と…生きて…?」

 冷たい躰を抱き締めて。
 今のケタロウ様が、僕を抱き返してくれる事はないけれど。
 それでも、僕は望みを口にして行く。

「…僕を見て…声を聴かせて…?」

 夢の中のそこは、もっと熱く、柔らかく蠢いていたけれど。今は…僕だけが、熱を持って動いている。
 それが酷く切なく悲しかったけれど。
 でも。
 きっと。
 これで。
 変わってくれる筈。
 そうだと信じたい。
 今度こそは。

「…ケタロウ様…」

 ずるりとケタロウ様の中から出て、冷たくなった唇に口付ける。

「…汚しちゃって…ごめんなさい…」

 唇を離して頬を撫で、髪に指を通して僕は謝る。ぽたぽたとはらはらとした物が、ケタロウ様の顔に落ちて行く。
 
 ジャリ…って、音が聞こえた気がした。少し遅れて悲鳴の様な耳障りな声も。
 そんなの、どうでも良い。
 ケタロウ様は誰にも渡さない。
 ケタロウ様は誰にもあげない。
 ケタロウ様は僕だけのものだから。

「…だから…」

 …………時よ、戻って…――――――――。

 …誰かに、何かに、殺させたりなんかしない。
 ケタロウ様は、僕と生きるんだから…それが…出来ないのなら………――――――――。

 ◇

「…ここ…?」

「突然の入寮に対応しただけでも有り難く思え」

 …初めてケタロウ様を抱いてからも、僕は何度か時間を巻き戻した。
 ケタロウ様が死なない未来を、何度も模索した。いっそ、ケタロウ様が学園に通わなければ良いんじゃないの? って思って、何時もは車の中から始まる時間…それよりも過去へ戻ろうとしたけど、出来なかった。…僕が知らない時間には戻れないみたい…それとも、力が足りないのかな…。何度も何度も戻って、解った事もある。壺を落としたのも、あの鼠やゴキブリの死骸を用意したのも、あの紫…ウーゴだった。学園を去った後は、生徒に頼んでやらせていた。理由は、格下の僕に恥をかかされたから…らしい。ピンコさんと、噴水に落ちた時、その時にピンコさんに松竹梅を持ち出された時のアレだ。それは、ピンコさんを味方にして、同好会の皆も味方にすれば、ケタロウ様を助けてくれるんじゃないかって、僕が止められなくても、僕の代わりに、ケタロウ様が絞首台に上がるのを止めてくれるんじゃないかって思って行動した時に解った事だった。

「…最悪…」

 本当に、最悪な紫女だ。
 まあ、今、最悪なのは、寮監に案内された、この部屋なんだけど。

「…こんな事、これまで無かったのに…」

 カビ臭いし、それなのにジメジメしてるし、埃っぽいし…これ…どう贔屓目に見ても、物置き…それも、長年放置された…。
 そんな、じとっとした部屋には、じとっとしたベッドとじとっとした勉強机が一つ。クローゼットなんて、無い。床は埃塗れだし、手にした鞄を置くのも躊躇われる。

「…どうして…?」

 床よりはマシなベッドの隅に鞄を置いて、ぽすんと座ればギシッて錆びついた音がした。実家の僕のベッドよりボロいかも知れない。
 こんな、部屋が無いなんて、今まで無かったのに。寮監の、リョ・カーンさんだって、あんな僕を見下す様な態度なんて取った事無かったのに。

「…変わった…?」

 …何かが…変わったんだ…多分…。
 …ケタロウ様が生きる未来なら…良いんだけど…。

「う、臭い…」

 ぼすっと、身体を横にすれば、何だか饐えた様な臭いがして、僕は思わず呻いた。

「…明日…早く起きて、布団を干そう…シーツやカバーも洗って…」

 臭い臭いって思いながらも、気が付けば僕は眠りに落ちていった。

 ◇

 やっちゃったっ!!

 そして、今、僕は、下半身を露出させたケタロウ様の脚にしがみついていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

処理中です...