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攻略していたのは、僕
【21】
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もう、やっちゃった! としか、言えない。
ちゃんと時間を止めてるって意識しないと、時間は動き出す。だいぶ長い事止めていられる様になったけれど、油断したら駄目だ。次からは、もっと気を付けないと。
ドキドキバクバクと鳴る心臓を落ち着かせようとするけれど、全然落ち着かない。
本当に、僕は何をしたんだろう?
ケタロウ様は何て言うんだろう?
教卓の陰でクラスの皆に、ケタロウ様のおチンチンは見えてはいないけど、でも、ケタロウ様が倒れているのは解るし、恥をかかされたって怒る? 僕を嫌いになる?
どうしよう。
どうしよう。
なかなか起き上がらない僕達に、教室のざわめきも大きくなって来る。
「だ、大丈夫か…?」
先生の心配そうな声が上から降って来るけど、大丈夫じゃない! もう、泣きそう。
「大丈夫です。彼も緊張していたのでしょう。脚がもつれて転んでしまった様です。上手く抱き留められなくてすまなかったね」
って、思ったら、ぽんっと軽く肩を叩かれて、物凄く優しいケタロウ様の声が聞こえた。
…あ、この声好きぃ…。
大丈夫? って、軽く目を細めて少しだけ眉を下げて笑う顔も好き…。
…あれ? ここ、天国? ケタロウ様が笑ってる…。僕に笑顔を向けてくれてる…。
「ほら、ここが君の席だよ」
やり直しの握手を交わして、そのまま、僕の体調が悪いと信じたケタロウ様に手を引かれて、自分の席まで案内された。
ふわふわと浮かれた僕は、隣の席にデシコさんが居ない事に気付かなかった。
◇
…僕は、夢を見ているのかな?
それとも、気が付かない間に死んだのかな?
「ここの食堂はね…」
ケタロウ様にお昼を一緒にって誘われて、誰が断れるだろう? 断れる筈が無い。夢にまで見た、ケタロウ様とのお昼だ。食べ放題だとか、お勧めはアレだとかソレだとか、ケタロウ様が丁寧に説明してくれている。何、これ? こんなの今まで無かったのに。ケタロウ様、どうしちゃったんだろう? 教室に入った時の、あの視線は何処へ消えちゃったの? 夢で見るケタロウ様と同じ様に、今のケタロウ様は優しくて甘い。本当に僕は夢を見ているのかな? でも、お腹がぐぅ~って鳴って『朝は、あまり食べられなかったのかな? 時間はあるから、そのお腹を満たしておあげ』って、くすりとケタロウ様に笑われてしまった。恥ずかしかったけど、ケタロウ様が笑ってくれるのが嬉しくて、それが堪らなく幸せだなって思って。そう思ったら、いっぱい食べて褒めて貰おうなんて、思ってしまって。
「はっ、ふっ、はふはふっ!?」
「ああ、ほら、落ち着いて。そんなに慌てて食べなくても、逃げたりはしないから。ほら、そんなに好きなら私のドリアも食べるかい?」
ケタロウ様のドリア!
ケタロウ様のスプーン!
その言葉に、僕はケタロウ様が指差すドリアの器じゃ無くて、もう片方の手に握られているスプーンを口の中に入れた。
あ。
って、思った時には、もう遅い。
食堂内の雰囲気が変わるのが解った。
梅のくせに…って、声が聞こえた僕はスプーンから口を離して、椅子から浮かせていた身体を元に戻した。
萎々と気持ちが沈んで、顔も下へ下へと沈んで行く。
そうだよ…。
僕とケタロウ様は、本来ならこうして一緒にご飯を食べたり、話をしたりとか出来たりしないんだ。
僕は底辺の梅だから…。
…どうしよう…。
ケタロウ様に嫌な思いをさせちゃった? 僕が図々しく、スプーンからドリアを食べちゃったから…。そうだよね…僕がスプーンに食い付いた時、ケタロウ様、固まっちゃったもんね…。
「ほら、顔を上げて。周りの言葉は気にしなくて良い。何処にでも、何かを言わずに居られない輩は居るものさ。私は君と仲良くしたいと思っている。…迷惑かい?」
そんな風に沈んでいたら、目の端にドリアの乗ったスプーンが映って、優しい声と言葉に顔を上げたら、眩しい笑顔のケタロウ様が居て、僕は目が潰れるかと思った。
無理、直視出来ない。
死ぬ。
死んじゃう。
迷惑だなんて、ある筈が無い。
嬉しくて、嬉しすぎて、今すぐケタロウ様をめちゃくちゃにしたい。
でも、我慢だ。
時間を止めて、ケタロウ様の身体を弄るのに夢中になって、また失敗したくない。失敗したら…巻き戻せば良いんだけど…でも…戻った時間で、また、このケタロウ様に逢える? 今回だけかも知れない。次のケタロウ様は、また、あのつれないケタロウ様かも知れない…だから…我慢…せめて、周りに人が居ない時に…。
◇
食べ過ぎたかもね? って、ケタロウ様に誘われて中庭に出た。僕はあまり、ここには来たくは無かったんだけど。ここに出て来ると、ピンコさんが突撃して来るから…って…あれ? そう云えば…デシコさんを見ていない気がする? 隣の席なのに…? あれ? うわ、僕、どれだけ浮かれていたんだろう…。でも…これだけケタロウ様が良くしてくれているんだし…今回のケタロウ様は…とても優しいし…デシコさんは…ケタロウ様を庇ってくれる…よね…?
噴水を見るフリをしながら、ケタロウ様を見れば、軽く胸を擦っていた。
胸…ケタロウ様の…。
ピンコさんが突撃して来て、噴水に飛び込んだ時の事が頭に浮かぶ。
ビショビショになって、素肌に張り付く白いシャツ、そして濡れた髪から落ちる水滴。
それらをケタロウ様で想像して、僕の喉がごくりと鳴った。
ちゃんと時間を止めてるって意識しないと、時間は動き出す。だいぶ長い事止めていられる様になったけれど、油断したら駄目だ。次からは、もっと気を付けないと。
ドキドキバクバクと鳴る心臓を落ち着かせようとするけれど、全然落ち着かない。
本当に、僕は何をしたんだろう?
ケタロウ様は何て言うんだろう?
教卓の陰でクラスの皆に、ケタロウ様のおチンチンは見えてはいないけど、でも、ケタロウ様が倒れているのは解るし、恥をかかされたって怒る? 僕を嫌いになる?
どうしよう。
どうしよう。
なかなか起き上がらない僕達に、教室のざわめきも大きくなって来る。
「だ、大丈夫か…?」
先生の心配そうな声が上から降って来るけど、大丈夫じゃない! もう、泣きそう。
「大丈夫です。彼も緊張していたのでしょう。脚がもつれて転んでしまった様です。上手く抱き留められなくてすまなかったね」
って、思ったら、ぽんっと軽く肩を叩かれて、物凄く優しいケタロウ様の声が聞こえた。
…あ、この声好きぃ…。
大丈夫? って、軽く目を細めて少しだけ眉を下げて笑う顔も好き…。
…あれ? ここ、天国? ケタロウ様が笑ってる…。僕に笑顔を向けてくれてる…。
「ほら、ここが君の席だよ」
やり直しの握手を交わして、そのまま、僕の体調が悪いと信じたケタロウ様に手を引かれて、自分の席まで案内された。
ふわふわと浮かれた僕は、隣の席にデシコさんが居ない事に気付かなかった。
◇
…僕は、夢を見ているのかな?
それとも、気が付かない間に死んだのかな?
「ここの食堂はね…」
ケタロウ様にお昼を一緒にって誘われて、誰が断れるだろう? 断れる筈が無い。夢にまで見た、ケタロウ様とのお昼だ。食べ放題だとか、お勧めはアレだとかソレだとか、ケタロウ様が丁寧に説明してくれている。何、これ? こんなの今まで無かったのに。ケタロウ様、どうしちゃったんだろう? 教室に入った時の、あの視線は何処へ消えちゃったの? 夢で見るケタロウ様と同じ様に、今のケタロウ様は優しくて甘い。本当に僕は夢を見ているのかな? でも、お腹がぐぅ~って鳴って『朝は、あまり食べられなかったのかな? 時間はあるから、そのお腹を満たしておあげ』って、くすりとケタロウ様に笑われてしまった。恥ずかしかったけど、ケタロウ様が笑ってくれるのが嬉しくて、それが堪らなく幸せだなって思って。そう思ったら、いっぱい食べて褒めて貰おうなんて、思ってしまって。
「はっ、ふっ、はふはふっ!?」
「ああ、ほら、落ち着いて。そんなに慌てて食べなくても、逃げたりはしないから。ほら、そんなに好きなら私のドリアも食べるかい?」
ケタロウ様のドリア!
ケタロウ様のスプーン!
その言葉に、僕はケタロウ様が指差すドリアの器じゃ無くて、もう片方の手に握られているスプーンを口の中に入れた。
あ。
って、思った時には、もう遅い。
食堂内の雰囲気が変わるのが解った。
梅のくせに…って、声が聞こえた僕はスプーンから口を離して、椅子から浮かせていた身体を元に戻した。
萎々と気持ちが沈んで、顔も下へ下へと沈んで行く。
そうだよ…。
僕とケタロウ様は、本来ならこうして一緒にご飯を食べたり、話をしたりとか出来たりしないんだ。
僕は底辺の梅だから…。
…どうしよう…。
ケタロウ様に嫌な思いをさせちゃった? 僕が図々しく、スプーンからドリアを食べちゃったから…。そうだよね…僕がスプーンに食い付いた時、ケタロウ様、固まっちゃったもんね…。
「ほら、顔を上げて。周りの言葉は気にしなくて良い。何処にでも、何かを言わずに居られない輩は居るものさ。私は君と仲良くしたいと思っている。…迷惑かい?」
そんな風に沈んでいたら、目の端にドリアの乗ったスプーンが映って、優しい声と言葉に顔を上げたら、眩しい笑顔のケタロウ様が居て、僕は目が潰れるかと思った。
無理、直視出来ない。
死ぬ。
死んじゃう。
迷惑だなんて、ある筈が無い。
嬉しくて、嬉しすぎて、今すぐケタロウ様をめちゃくちゃにしたい。
でも、我慢だ。
時間を止めて、ケタロウ様の身体を弄るのに夢中になって、また失敗したくない。失敗したら…巻き戻せば良いんだけど…でも…戻った時間で、また、このケタロウ様に逢える? 今回だけかも知れない。次のケタロウ様は、また、あのつれないケタロウ様かも知れない…だから…我慢…せめて、周りに人が居ない時に…。
◇
食べ過ぎたかもね? って、ケタロウ様に誘われて中庭に出た。僕はあまり、ここには来たくは無かったんだけど。ここに出て来ると、ピンコさんが突撃して来るから…って…あれ? そう云えば…デシコさんを見ていない気がする? 隣の席なのに…? あれ? うわ、僕、どれだけ浮かれていたんだろう…。でも…これだけケタロウ様が良くしてくれているんだし…今回のケタロウ様は…とても優しいし…デシコさんは…ケタロウ様を庇ってくれる…よね…?
噴水を見るフリをしながら、ケタロウ様を見れば、軽く胸を擦っていた。
胸…ケタロウ様の…。
ピンコさんが突撃して来て、噴水に飛び込んだ時の事が頭に浮かぶ。
ビショビショになって、素肌に張り付く白いシャツ、そして濡れた髪から落ちる水滴。
それらをケタロウ様で想像して、僕の喉がごくりと鳴った。
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