攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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攻略されていたのは、俺

【30】

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「貴女があんな夢を見せるから、私はメゴロウへの気持ちに気付くのが遅れて、彼に想いを告げる事なく死んでしまったんです! 何故、私にあの様な夢を見せたのですか!?」

 この恨み晴らさでおくべきかと、俺は目の前に座り込んで泣いていた女神様に、指を突き付けながら叫んだ。八つ当たりと云えばそうなのだろうが、叫ばずには居られなかった。

「…夢…?」

 目から涙を流し、鼻からは鼻水を垂らした女神様がこてんと、不思議そうに首を傾げた。

「惚けないで下さい! 私とメゴロウの仲が深まる度に、あの様な夢を見せて、私にメゴロウを嫌わせ様としていたでしょう!?」

 何を可愛い子ぶっているんだ。そんな仕草をした処で俺は騙されないからな。お前とは比べ物にならないぐらいに、メゴロウの方が可愛い。一度、あいつに餌付けしてみろ。止められなくなるから。リスみたいに、頬袋膨らませるあいつの頬をツンツンしてみた事があるか? ないだろう? あれは俺だけの特権だ。

「…嫌わせる…とは…?」

 何で、ぱちくりと瞬きしているんだ。
 そんな仕草をしても、俺は絆されないからな。

「メゴロウの人格を無視して、メゴロウの想いも無視して、彼に私を襲わせたでしょう! あの、可愛いメゴロウにあんな事が出来る筈も無いのにっ!!」

「…襲わせる…?」

「凌辱ですよ! 私がメゴロウに凌辱される夢を何度も何度も何度も何度も見せていたじゃないですかっ!!」

 一気に俺が言い終わると、女神様はスッと涙を引っ込めて、真顔になってズビンッと音を立てて鼻を啜った。

 …何、この親父…。

「…ウ・ケタロウ。座りなさい」

「え? は、い?」

 鼻を啜って真顔になった女神様が、地面を指差したから、俺は中耳炎になるぞと思いながら、地面に腰を下ろしてきっちりと正座した。
 女神様と真っ直ぐと向き合う。
 ぽわぽわとした白い光に包まれた女神様は、やはり、とても綺麗だ。銀色の髪に、銀色の目。肌は透き通る様に白くて、どう見ても人外のものにしか見えない。が、涙は流すし、ついでに鼻水も流していたんだよな……。

「…何か不埒な事を考えていませんか?」

「ガディシス様をお相手に、その様な事を思う者はいませんよ」

 やたら良い笑顔でガディシス様に見られて、俺は慌てて自称王子様スマイルを浮かべて返事をした。
 危ない危ない。
 心が読めるのか?

「…こほん。…あなたがどうしようもなく、にぶ…いえ、鈍か…いえ、ポン…いえ、お馬鹿…いえ………」

 …おい…。
 口元に手をあてたまま考え込むなよ!?
 何だよ!?
 何が言いたいんだよ!?

「…ともかく。あなたが、限りなく純真で無垢な子だと云う事は解っています」

 いや!?
 鈍いと言い掛けて、鈍感と言いそうになって、それも拙いと思ったのか、言い直そうとしてポンコツと言い掛けて、馬鹿って言いそうになって、考えた末がそれか!? 結局は馬鹿って事だろう!? 物は言い様だな!? 誰かオブラート持って来て!?

「あなたが何を思ってその様な考えに至ったのか、理解に苦しむ処ではありますが、私はあなたに夢など見せてはいませんよ、ウ・ケタロウ」

「え?」

 いきなり神々しい光を放つなよ。
 真っ直ぐと見られなくて、俺は僅かに視線を逸した。視線の先には、やはり白い靄が辺りを包んでいる。

「逆に問いますが、何故、私がその様な事をせねばならないのでしょう?」

 何故?
 そんなの決まっているだろう。

「それは、私が死ぬ為です。私は、殺される為に生み出された悪役キャラクターです。私がメゴロウを嫌って、彼に嫌がらせをさせようと云う魂胆なのでしょう? そうして、私は、メゴロウを想うヒロイン達から断罪され、絞首台へと上げられるのです」

 俺がそう言った途端、女神様は両手で顔を覆って、天を仰いでしまった。
 何だ、このデジャヴ。
 女神様も、生徒会長と同類なのか?

「…このポンコツが…記憶だけだと、この世界の常識に…前世の記憶を植え付けたのは、やはり間違い…」

 顔を覆いながら、女神様が何やらブツブツと言っている。良くは聞き取れないが、ポンコツはしっかり聞こえたからなっ!?

「…夢は…己の心を映す鏡とも言います…。あなたが見たその夢は…あなたの願望なのではないのですか…?」

 そう思った途端、女神様は顔から手を離して、俺をキッと見て来た。
 その視線の鋭さに、思わず腰が引けてしまうが、何だって? 何て言った? この親父女神?

「は?」

 願望?
 何が?
 どれが?
 って…。

「わ、私が、メゴロウに凌辱されたかったと!?」

 ないない!!
 そんな願望、俺にはないぞ!?
 あんな、ガッチガチの厨二病みたいなメゴロウとか、俺は望んでいないぞ!?

「りょ…ではありません。愛が、想いがあっての行為なのでしょう?」

「何故、頬を染めるのですか!! いきなりですよ!? 互いの想いの確認もなく、気が付いたら、彼のペニスが私の中に挿入されているんですよ!? こんな一方的なのは、合意無しでの同衾は、犯罪でしょう!?」

 そうだよ。
 ゲームとかなら、監禁強姦バチコイヒャッハーだが、現実にそんなのやったら、人生詰む。

「…ですが…その…嫌では…無かった…のですよね?」

 更に顔を赤くして、地面にのの字を書きながら言うなっ!!

「嫌ですよ! そりゃ、嫌悪感はありませんでしたけど! 何故、好きな相手に凌辱されなければならないんですか! 冗談じゃないですよ! 一方通行の行為なんて、私はしたくありません! ちゃんと想いを伝えあってから、そうしたいのです!! 好きだと言いたいし、彼の気持ちもはっきりと聞きたいです!!」

 そうだよ。
 ヒロインの事ばかり考えていたが、メゴロウ自身の気持ちはどうなんだ?
 あいつは、本当に誰か好きな奴がいるのか?
 あいつの気持ちを応援してやりたい気持ちはあるが、はっきりと、こう自覚した今、諸手を挙げられるかと云えば、首を捻るしかない。

「…あ…でも…」

 俺、死んだんだった…。

「…心配は要りませんよ…。ご覧なさい。あなたの時は止まってはいません、動いています」
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