攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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おまけ

危機編・04

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「まあ、見に来てくれたと云う事は、入ってくれると云う事で良いのか?」

「ええ、そうですね」

 大学部には、高等部と違い、人もたくさん居るせいか、とにかく大量のサークルがあった。入学案内のパンフを見て、目眩を起こした程だ。楽曲、絵画、イラスト、小説、漫画、サイクリング、レスリング、薬物学、幾何学、哲学、食通、光学、天文…エトセトラ…。で、数ある文字列の中から、園芸を見付けた時は、メゴロウと二人でハイタッチをしたよ。
 実家に帰れないメゴロウの為に、何とか土いじりを続けさせたい俺は、もう、心の中でマ○ムマイ○を踊っていたよ。最悪、週一でも良いから、高等部の園芸部に顔を出して、後はベランダでプランターで…って、考えていたからな。あ、因みに俺の実家の庭は、一部菜園になっている。戻って来て、初めて実家に帰った時に、お願いして作って貰った。ブルーベリーもあるが、やはりメゴロウの家のブルーベリーには劣る。土とか、色々違うんだろうなあ。普段はニキタが世話をしているが、俺とメゴロウが帰れば、俺達が世話をしている。
 まあ、しかしだ。

『暖かな温室で、色取り取りの花を…』

 って、謳い文句が書かれていたのに…実際は、密林だろう、あれは…何がどうしてそうなった…。本当に人死にが出るぞ…。

「俺が入った時は、人が一人しか居なくて荒れ放題だったから、俺の好きにさせて貰った」

 そんな思いから温室を見れば、生徒会長の何時も通りの冷静沈着な声が聞こえた。

「……………そんなに、とうもろこしが食べたかったのですか…」

 いや、とにかく、とうもろこしが圧倒的に多かった。てか、温室育ちのとうもろこしなんて初めて見たよ。後はイチゴだろ? トマトもあった気がするな。生徒会長が倒れてたとこにあったのは、ズッキーニか? きゅうりと比べてつるんとしてたから、多分、そうだろう。

「とうもろこしは、美味い。生でも美味い。自分の手で作る物は特に美味い。もう少し経てば、温室の向こうにある畑にも、種を撒いたり、苗を植えたりする」

 …腹壊すぞ…。
 てか、畑って言い切ったな? どんだけ野菜作りに目覚めたんだ…。いや、とうもろこしか。とうもろこし馬鹿だ、こいつ。

「せっかく来てくれたのだから、案内をと言いたいが、この調子では止めた方が無難だろうな」

「大人しくしていて下さい! 下手に動いてケタロウ様の手を煩わせないで下さい! はい、ゴムと水と塩あめです。はい、ケタロウ様」

 当たり前だと俺が言おうとした処で、メゴロウが戻って来た。

「ああ、ありがとう」

「ありがとう、メゴロウ」

 生徒会長にはムスッとして、俺には満面の笑顔でペットボトルの水を渡して来るメゴロウに、俺は噴き出しそうになるのを堪えて、それを受け取った。ちゃっかり塩あめを買って来てるんだからなあ。塩分も必要だからな。
 プシュッと音を立てて、メゴロウが自分のボトルのキャップを開けて、ゴッゴッと音を立てて水を流し込む。
 走ったからな、喉が渇いたんだろうなあ。

「…っは~!」

 この一杯の為に生きているぅ! とか、言い出しそうだな。

「しかし、確認しないで行ってしまいましたけど、休みでも購買ってやっているんですね」

「ああ。休みだろうと、人が集まるからな。カフェだって開いていただろう? 薬学サークルとか、ここにある設備を使わないと活動出来ないからな。年中無休だ」
 
 なるほど。高等部とは結構違うんだな。

「サークルに入るのなら大歓迎だ。入れば、入学前からでも活動出来るから、見学の申込みも必要ない」

 え、何それ。

「…入学案内のパンフレットに書いてあった筈だが? サークル目当てに、地方や隣国から入学して来る者も居るのだが?」

 ちろりと横目で見て来る生徒会長に、俺は曖昧な笑顔を浮かべた。

 自慢じゃないが、ゲームのエンディングを垂れ流す俺だぞ? そんな隅から隅まで見ていると思うか?

「……………………君も大変だな」

 何でそこでメゴロウに振るんだ!?

「慣れていますから」

 待って!?
 何で、そこで深く肯くの!?

 何だかんだで、入会届けを書いて、生徒会長と一緒に事務局へ持って行ったら、出入り許可証を貰った。門に居る守衛にこれを見せれば、入学前でも自由に出入り出来るそうだ。マジか。良いのか、これで。もしかして、早くから入寮出来るのは、このせいか? 
 明後日は、サークルの代表が出て来るから、昼頃に来いと言われて、生徒会長と別れた。

 ◇

「…メゴロウ? 眠れないのかい?」

 そんなこんなで、夜。
 何時もの様に二人でベッドに入ったんだが、隣で眠ってる筈のメゴロウが、もぞもぞと寝返りを繰り返していて、俺は目を覚ました。
 
「…ごめんなさい…」

 うん?

「どうして、謝るんだい?」

 ぽつりと、天井を見たまま呟いたメゴロウの方へと、俺は身体の向きを変える。

 眠りの邪魔をした事か?
 明日は予定が無いから、別に気にしないけどな?

「…やっぱり、生徒会長と仲良くしているのは…嬉しくない…って、思ってしまって…ムスッとしちゃって…」

「…メゴロウ…」

「…こんな僕…可愛くない…ケタロウ様に嫌われても…」

 段々と小さく震えて、消えてしまいそうなメゴロウの声に、俺は身体を起こして、上半身を捻って、両手をメゴロウの顔の脇へと置いた。

「…ケタロウ様…?」

 揺れる黒い瞳が、俺を見上げる。
 そんな瞳を見ながら、俺は顔を寄せて行く。
 眠る時は解いている髪がさらりと揺れて、メゴロウの顔に落ちて滑って行く。

「…メゴロウは、何時だって可愛いよ」

 唇を重ねるだけのキスをしてから、そう囁けば、暗闇でも解るぐらいに、メゴロウは顔を真っ赤にした。
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