寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

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幼馴染み

【四】初めてのお出掛け

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「断る。行くなら一人で行け」

「ええ~」

 朝食の席で素気すげ無く断りを入れる優士ゆうじに、瑞樹みずきは解り易く肩を落とした。
 二人がこの街に来て一月ひとつきが経っていたが、日々の訓練で疲れて休日は歩き回る事もせずに、買い物は近場の店で済ませるだけで、新たに開拓をしようとする気も起こらなかった。だが、身体が慣れて来た事もあり幾分余裕も出て来た。だから、休みの今日、この街にある大きな店、百貨店へ行こうと瑞樹は言ったのだが、優士は興味を示すどころか僅かに眉を顰めた。

「一人で行っても面白くないだろ。行こうぜ」

 軽く唇を尖らせながら、瑞樹は自分で漬けた蕪の浅漬けに箸を伸ばした。

「これまで近場の店で済ませて来て、不便を感じていないんだ。つまりそれは、それで事足りていると云う事だ。わざわざ休日に人が多い場所へ好き好んで行く必要は無い。疲れるだけだ」

 なめこと豆腐の味噌汁を飲んでから優士がそう言えば、瑞樹な恨みがましそうな目を優士に向けて言った。

「………飯作らないぞ……」

 ◇

 優士は料理をしない人間で、料理が出来ない訳では無い。
 だが、瑞樹の何ともお粗末な脅しにあっさりと屈服した。
 果たしてその理由に瑞樹が気付く日が来るのか謎ではあるが。
 ともかくも、瑞樹は優士が料理が出来ないと思っているので『飯作らない』が十二分に脅しになると思っている。何とも単純で可愛らしい脅し文句ではあるが、それに大人しく屈服する優士も大概である。

「おお! 本当に人が多いな」

「恥ずかしいからきょろきょろするな。おい、勝手にふらふら行くな!」

 百貨店へ着くなり、瑞樹はふらふらと優士を放置してあっちへふらふら、こっちへふらふらと落ち着きが無い。
 優士は軽く指を自分の額へとあてて溜め息を零した。
 こうなる事は目に見えて解っていたから、来たくは無かったのだ。
 "二人で"と言いながらも、初めて訪れる場所で瑞樹が大人しくしていた事等、これまでに一度も無かったのだから。しかし、そんな瑞樹を諫めるのも自分だけの特権なのだと、優士は思っていた。そして、それはこの先も続く物と思っている。軽く肩を竦めて、店先に並ぶ物に目を奪われている瑞樹に声を掛けようとした時。

「おー! お前らも買い物か?」

 何とも能天気な声が聞こえて来た。それは日々聞き慣れた声だった。

せい先輩!」

 優士が反応するより早く、店先から瑞樹が優士の元へと戻って来た。
 素早い。
 今の星からはあの日の面影など垣間見えないが、それでも憧れの人である事に変わりは無い。星の真価はあやかしと対峙した時に発揮されるのだと、二人は思う事にしたのだった。それはある意味現実逃避と言えなくも無い。

「どの様な物が売られているのか見に来ただけです。…それより…」

 優士はそう答えながら、星の隣に並ぶ人物に目をやる。
 星と手を繋ぎ、星の胸の位置にある頭は、星と同じく髪を後ろで高い位置で一つに結んでいる、まだあどけない少年を。

「ん! おいらの弟のつきとだ!」

「星兄様の弟の月兎つきとです。月に兎と書きます。今度十三歳になります」

 満面の笑みで星に紹介された月兎が、ぺこりと二人に頭を下げた。

「おー、良く出来たな! えらいぞ、つきと!」

「えへへ」

 星が白い歯を見せて笑いながら月兎の頭をぐしゃぐしゃと撫でれば、月兎はその丸い黒目がちの目を細めて嬉しそうに笑った。

 …何だ、この馬鹿兄弟…。

 二人はそう思ったが、口には出さなかった。

「おいら達は月兎の鞄を買いに来たんだ」

「ボクは風呂敷でいいのですけど…。ゆき兄様も風呂敷ですよね?」

「ゆきにいさま? 他にも兄弟が居るのか?」

 何処か不満気に言う月兎の様子に軽く首を傾げながら瑞樹が呟いた。

「ゆきおの事だぞ! つきとはゆきおに憧れてんだ! 話し方もゆきおの真似してんだ!」

 星の言葉に、二人はこれまでに土日限定で遠い目をした時の事を思い出しながら口を開く。

「…ああ、高梨隊長の。どこかのんびりとした感じの」

「憧れって、あんなのほほんとした感じの、苦労なんて知ら無さそうな奴に?」

 二人に悪気は無く、ただ見た印象から素直にその言葉が漏れたのだが。

「こらっ!!」

「めっ!!」

「なっ!?」

「い"っ!?」

 間髪入れずに、星は優士の頭頂部に手刀を。月兎は瑞樹の脛を蹴っていた。

「それ、二度と言うなよ」

 その星の声音は低く冷たく、また、二人を見る目も鋭く冷たく、知らず二人は背筋を震わせた。
 そこに居た星は、間違いなくあの日に見た星だった。

「星兄様、ボク、怒ってお腹が空きました!」

「ん! 先に飯にするぞ!」

 ふんと鼻息を荒くする月兎の手を引いて、星は『じゃあな』と固まる二人に背を向けて歩き出した。
 二人は暫く無言で、遠ざかって行く二つの馬の尻尾を見ていた。
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