寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

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幼馴染み

【八】貧乏くじ

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 間の悪い人間とは大抵何処にでも居るものだ。
 また本人はそれに気が付いて無かったりするのが大半である。
 まあ、気付いていた処で回避のしようが無かったりするのも事実だったりするのだが。
 そんな間の悪い男、天野たけるは考えていた。
 今回の巡回に関して、今朝、高梨から言われていたのだ『俺が二人の面倒を見よう』と『お前は菅原と白樺を連れてこちらの巡回をしろ』と『何か嫌な予感がする…お前は…貧乏くじを引くのが得意だからな』と、街の地図を指差しながら言われたのだ。
 いやいや、昨夜の巡回でも何も無かったとの報告が夜番の隊から上がっているのだ。僅か数時間で状況が変わる筈も無い。そう笑う天野に、高梨は『…ならばせいも連れて行け』と、むすりとして言ったのだ。そんなに心配しなくても、と、天野はやれやれと肩を竦めたのだった。
 だったのだが。
 目の前でこちらの様子を伺うあやかしに、天野は内心で『やっちまったなあ』と、頭を掻いていた。
 取り敢えず、星には二人を連れてここから離れて貰い、そこから様子を見て貰おうか。
 そう思いながら、天野は無言で伸ばした左手を軽く振り、下がれと合図を送る。背後で星が頷く気配を感じながら、天野は妖から視線を逸らす事無くそれを見詰める。犬の様に見えるその身体は黒い毛に覆われていた。四つの脚の先からは長く鋭い鉤爪が見えている。僅かに開かれた口からは、太く鋭い牙が見えていた。その爪や牙を使い、妖は人を襲い喰らうのだ。
 だが。と、天野は僅かに眉を動かす。
 対峙してからまだ僅かではあるが、妖はこちらの様子を伺うばかりで、襲い掛かって来る気配を感じないし、何よりも殺気が無いし、怯えている様にも見える。
 軽く息を吐いて天野はまた内心で『本当に、やっちまったなあ。…何も新人が居る時に』と、頭を掻いた。

「…星坊、二人を連れて高梨達が向かった場所へ行け」

「ん。行くぞ、みずき、ゆうじ」

「えっ、しかし!」

「何で!? 万が一遭遇した時は、離れた場所から安全に実戦の様子を見るって!」

 天野と星の言葉に、二人は当然の如く反発した。

「あれは特別なんだ。だから、おいら達は行くぞ」

「命令だ。下がれ。ここからは星の指示に従え」

 天野に命令と言われてしまえば、瑞樹みずき優士ゆうじは従うしかなくて、実戦を見られない不満からか、または悔しさからか、唇を噛んで星に連れられて屋内から退出して行った。

「…やれやれ、と」

 三人が居なくなったのを感じた天野は、手にしていた刀を鞘に収めて、軽く頭を掻いてから、埃臭いその場にしゃがみ込み、目線を合わせて妖に質問をした。
 これからの事は機密事項で、まだ仮隊員の新人達に知られては困る事だ。

「お前、人間を食べた事があるのか?」

『…ナ、イ…』

「…そうか。妖と人間が共存する里がある。…行くか?」

 妖の返事に天野はゆっくりと大きく頷き、更に言葉を続ける。
 その里は街から離れた山の中にある。
 とある人物が、人間と妖は共存出来ると、私財を投げうって、妖の為に作り上げた里だ。
 この事は限られた者しか知らない。その限られた者の一人が天野だ。
 天野は既婚者であるが、現在は別居中である。天野の妻は、とある役目の為にその里に居た。

『……………怖クナイカ? 死ンダリシナイカ?』

「たまに喧嘩はあるが、命の遣り取りはないな」

『…腹ハ…減ラナイカ?』

「家畜を育てている。畑の実りもあるし、川で釣りをしたりする。それらをやってりゃ、食いっぱぐれはない。雨風を凌げる家もある。あったかい寝床もあるぞ」

『…行グ…』

「そうか。それは良かった」

 妖の返事に、天野は大きく口を開けて、白い歯を見せて笑った。
 返答次第では、実力行使をしなければならない。そうならずに済んで良かったと、天野が胸を撫で下ろしていた等と、目の前に居る妖は知る由も無かった。

 ◇

「…なあ"特別"って、何なんだろ? 天野副隊長戻って来なかったけど、大丈夫なのかな…」

 ご飯茶碗を手に、瑞樹がぼそっと日中の巡回の時の事を零す。
 今は夜で、例によって例の如く、瑞樹の部屋で優士と夕食中だ。

「…特別に危険な個体って事なんだろう。俺達は足手まといにしかならない。そう判断したから、星先輩に俺達を預けて下らせた。他に理由があるか?」

「う、いや、まあ、そうだけどさ…何か、もやっとする…」

 茶碗蒸しをつつきながら言う優士に、行儀が悪いぞと思いながら、瑞樹は軽く唇を尖らせた。
 燻る思いがあるのは、優士も同じだ。
 何か、隠し事をされているのだと、優士も思った。

「…まだ正規の隊員ではない俺達には話せない事があるんだろう。だから、考えても無駄だ」

 だが、何時までもそれを引き摺る訳には行かない。
 それでは前に進めない。
 だから、無理矢理にでも理由を付けて納得するしかないのだ。例えそれが、どんなに理不尽な物だとしても、受け入れて行かなければならないのだ。

「うー、まあ、気になるけど、しゃーないかあ…」

「瑞樹、明日は冷やし中華でさっぱりしたい。簡単で良いだろ」

 話題を変える為なのだろうが、優士のそれは世が世なら、不特定多数の者から叩き上げられる内容だった。

「どこが!?」

 案の定、何処かに気をやっていた瑞樹の声も、力のある物になる。
 きっと明日の夜は、キュウリ丸一本とハム一枚と厚焼き玉子が乗った、な冷やし中華が出て来る事だろう。

「楽しみにしてる。…もう大丈夫なのか?」

 そんな明日の事等知らずに、優士は茶碗蒸しの器を卓袱台に置いて静かに瑞樹を見た。

「お? …おお…うん…」

 簡潔な優士の問いに瑞樹は日中の事を思い出して、曖昧ではあるが小さく頷いた。
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